第四コンタクト 独愛チルドレン  夕日と夜中と青草と陸の場合

 気持ちが悪い。

こんな感情をお世話になっている恩人に抱くことは間違っているし、倫理的にも道徳的にもよくないということは重々わかっているのですよ。だけど、さすがに三十も過ぎたおじさん(パッと見、ごつい。がめつい。いかつい。)が、鼻歌を歌いながらフリルのついたワンピースを着た腰とピンクの鬘を被った頭を左右に揺らしながら、時々まるで少女マンガの主人公にでもなったかのように夢見る溜め息をついている姿を見たらきっと誰だってそう思うのですよ。

 それでも、一応、我の保護者であり身元引受人であるこの男、リクの元にいるしか今の我には行く場所もないので仕方なくこうして狭い台所で手狭に踊っているリクを見つめながら今夜の晩ご飯を待っているわけですよ。

「リク、ご機嫌ですよ。何かいいことでもあったのです?」

「あ・ら、わ・か・るうう?ふう、あのね、それは・・ご飯が出来たら、教えるわね?」

「わ、わかったのですよ。お、大人しく待っているのですよ。」

ヒクヒクと引きつる頬を無理矢理に動かして笑うのですよ。気持ち悪い。即座に口から出そうになった言葉を、言葉ではない何かと一緒に飲み込むです。陸の機嫌の良さの理由にはなんとなく心当たりがないわけでもないのですよ。

 陸とは、それなりに長い付き合いになるのでだいたいのことは理解しているつもりですよ。陸は、この地球人にしてはかなり強い肉体を持っているのですよ。我が、地球人ではないことも初対面で見抜いたくらいの洞察力を持っているのです、それに我と戦って勝つくらいの戦闘力も。だからこそ、我はこの男の家にご厄介になっているわけなのですよ。しかし、一緒に暮らしてみれば陸はとても慈悲深く母性に溢れた性格で我を小学校に通わせてくれたり、遊園地なる場所に連れて行ってくれたり、まるで家族のように大事にしてくれているのですよ。まあ、時々男を連れ込んでくることはあるけれど、陸に連れ込まれる男はそうそう多くないし、交尾の対象が男だけであるならむしろ我は安心して眠れるというのですよ。陸に出会う前に厄介になっていた成人女性の姿をした地球外生命体は、交尾の対象が女でしかも子供でもドンと来いな猛者であったため、我は毎晩毎晩、貞操の危機を感じ、ゆっくりと休むことが敵わなかったのですよ。

 それと比べても、陸はオカマ、であること以外はとても常識人であるので我はこうして毎日美味しいご飯も、温かい寝床も、そして綺麗な服も用意してもらえているのですよ。

陸から数ヶ月前からお熱な麗しの貴公子さまのことも毎日のように聞かされているため、わかっている。たぶん、その貴公子さまは地球人ではないということもわかっているのですよ。陸だって落ち着いて考えれば、普通の地球人が指先だけで成人男性を吹き飛ばすなんてことができるはずがないことくらいはわかりそうなのですが。

「これが、恋は盲目という奴なのですかよ。」

この地球という星の恋という病は本当に恐ろしいものなのですよ。それでも、恐らく陸は特別この病にかかりやすい人間なのではないだろうか、と思うのですが。それはこの際、そんなに気にすることではないのですよ。

 ご機嫌で腰を振っている陸は、我の大事な保護者さまなのですよ。それを危険な目に遭わせるわけにはいかないのですよ。もし、その麗しの貴公子さまが地球人ではないのだとしたら、いったい何が目的なのかをしっかりと見極めないといけないのですよ。万が一にでも、陸に危害を加えようというのなら、それを絶対に阻止しなくてはいけないのですよ。居候の身として一宿一飯の恩義は返さなくてはならないのですよ。

「あ、そういえば。陸、一つ相談があるのですよ。実は、学校で学芸会という行事を催すらしいのですよ、それで我は白雪姫、という役を貰ったのですが、その衣装を用意しなければならないのですよ。」

「あら、あらあら。もう、そんな季節?早いわね、カメラ持って行かなくちゃ。え?白雪姫?あらやだ、すごいじゃないアオクサちゃんってば。」

くるり、陸は足のスナップを利かせて回れ右をする。それから、顔をキラキラと効果音が付きそうなほど輝かせて我を見たのですよ。陸の縦長の頭に乗っているピンク色の鬘が、ふわりと動きに合わせて揺れる。それでも、器用に落ちないのは地球人の努力の賜物であるのですよ。

「我は、ただ布を巻いていればいいと思うのですが、陸はどう思うのですよ。」

何気なく言った言葉に陸は、まるで赤い布を見せられた闘牛のように鼻息を荒くして我のすぐ前にやってくる。それから、我の肩を掴んでだめよ、だめよ、と揺する。陸の力は我よりも強いため、我は頭をガクガクと前後に揺らしながら近づいたり離れたりする陸の顔を遠くなる意識の中で見つめていたのですよ。

「せっかくアオクサちゃんは可愛いんだから、ちゃーんとしたドレスを着なきゃ。まかせて、私が作ってあげるわ。大丈夫、裁縫が得意なのはアオクサちゃんだって知ってるでしょ?任せて、私が王子様も理性を失うくらい魅惑的なドレスを作ってあげる。」

「い、いや、白雪姫のドレスをお願いしたいのですよ。そもそも小学生が理性を失うなんてことが許されるはずがないのですよ。」

「えー。だって、白雪姫ってキスシーンがあるわよ?それって、もうそういうことでしょう?」

どういうことなのですよ。陸は常識人であるけれど、どうにも思考が妖しい方向に行きがちなのですよ。我は、溜め息をつきながら陸から顔を背ける。

「キスは別な白雪姫がするのですよ。我は、小人のところに行って毒リンゴを食べるところまでの白雪姫なのですよ。」

「なんだ、残念ねえ。てっきり、アオクサちゃんの初キッスが見れると思ったのに。あ、でも、ちゃーんとカメラは持っていくわね。ふふふ、」

陸は楽しそうに目を細めて笑う。言ったことはないけれど、陸は笑うと恐いのですよ。不気味な顔になる、というとわかりやすいのですよ。もう慣れたですが、初めの頃は正直正面から見ることが出来なかったですよ。

「じゃあ、衣装の方はお願いしても大丈夫なのですか?」

「いいわよ。なんだったら、他の人のだって作っちゃうわ。特に小人ちゃんたちのなんてつくり甲斐がありそうねえ。それにしても、白雪姫なんて本当、アオクサちゃんにぴったりな役ね。」

「そう、ですよ。我もそう思うのですよ。」

陸の言葉に僅かに笑いながら、返す。

 七人の小人。我にとっては懐かしい存在。我が地球に来たのは、ずいぶんと前のことで、そのときは我は隠密行動隊としてこの星に送り込まれた、いうなればスパイだったのですよ。そうして、そんな我が連れていた小人たち。ハルノナナクサ。ある事件によって我の手に残ったのは、たった三人だけであとは地球上のどこかに散ってしまったのですよ。

「我の力が、足りなかったからなのですよ。」

小さな、本当に小さな手の平を見つめる。我のせいで我は大事なものを失くしてしまったのですよ。故郷の星との連絡手段を持ったナナクサがいないため、我は一人で途方にくれていて、そんなときに我を拾ってくれたのが、陸だったのですよ。

「アオクサちゃんのせいじゃないわ。ふふ、さて、もうすぐご飯が出来るわ。机の上を綺麗にしておいてね。」

陸はそう言うと、我の頭を優しく撫でて立ち上がる。台所に消えていく背中は大きくて強そうで、それでもやはり地球人の域を出ない屈強さだと思うのですよ。

「今度は、ちゃんと守るのですよ。我の力で、我の大事な者を。」

 決意をするように呟いて我は言われたとおりに机の上を片付けるべく立ち上がる。漂ってくるこの匂いは、ビーフシチューですよ。何を隠そう我は、このビーフシチューという料理が大好物なのですよ。なんとも言えない深いコクとほのかな甘さ、特に陸の作るビーフシチューはそこいらの洋食屋のよりも美味しいと我は思うのですよ。しかし、陸がビーフシチューを作ってくれるときは決まって何か良いことがあったときなのですよ。

 いったい何があったのだろうと、いぶかしむ我の心を読んだわけではなかろうが、陸は楽しそうにビーフシチューを並べてすぐに、あのね、とおぞましいほど甘い声を出した。

「実は今日、とっても素敵な奇跡の運命があったの。アオクサちゃん、聞いてくれる?」

陸の様子を見ていれば、その話が長くなることは請け合いですよ。我は、食べながらでもいいか、と遠慮がちに訪ねる。好物のビーフシチューを前にお預けなんて長く持つはずがないのですよ。

 陸は、いいわ。と気にも留めないような仕草で笑うと顎に両の手を当ててうっとりとした表情で話を始めたのですよ。つまりは、その今日あったとっても素敵な奇跡の運命について、であるのですよ。

 その話は今日の朝、陸が起きたところから始まり、我はその間にビーフシチューを二杯ほどお替りをしたのですよ。それでも、余るくらいに大きな鍋にビーフシチューはたんまりと作ってあり、我はどれほど陸が今、故障中であるかを認識したのですよ。

「ね、すごい運命だと思わない?はあ、またお会いしたいわあ。麗しの貴公子さま。」

熱っぽい溜め息とともにそう締めくくり、陸の話は終わった。たっぷりと時間がかかって我はすっかり食事を終えてしまったのですが、要約するとつまり、今日の夕方に偶然に麗しの貴公子さまを見つけた、ということなのですよ。

「なるほどなのですよ。よくわかったのですよ。それで、そのキンピカ野郎、は確かに麗しの貴公子さまを相手に戦っていたのですか?対立しているようだったのですか?」

「ええ、間違いなかったわ。あ、アオクサちゃん、今日はチョコレートケーキも作ってるのよ。食べるでしょ?今、出してくるわね。」

陸のチョコレートケーキは、これもそこらへんの洋菓子店で食べるよりも遥かに美味しいのですが、それにしても気になるのですよ。そのキンピカ野郎というのは恐らく宇宙刑事なのですよ。そうしてそれと敵対していたというなら、麗しの貴公子さまはひょっとすると何かをやらかした悪人ということになるのですよ。

「これは、忌忌しき事態なのですよ。」

何者であるかはわかりかねるけれど、宇宙刑事と戦ってしかも勝利を収めるというのは普通ではないのですよ。これは、思っていたよりも何か深刻な話になっているのではないのですか。だとしたら、これ以上は放っておくことはできないのですよ。

「はい、アオクサちゃんの分。半分は明日に取っておきましょう。」

ザックリと半分に切ってもらったチョコケーキを受け取りながら、我はさり気なくなんでもないことのように陸に提案するのですよ。

「陸、その住宅街に我も行ってみるのですよ。二人で捜したほうが、その麗しの貴公子さまもきっと早く見つかるのですよ。」

「あら、本当?じゃあ、そうしましょうか。ふふ、アオクサちゃんも見たらきっと惚れちゃうんだから。体の奥が痺れるんだわ。」

嬉しそうに笑う陸の顔を見ながら、我はチョコケーキを一口頬張る。何にしても、早いほうが良いのですよ。陸には悪いとは思いながら、場所を聞き出したら学校を休んですぐにでも調査に行こうと、被っている大きな帽子の中にいるナナクサに無意識に触れたですよ。


 じゃあ、いってくるね。なんて軽やかに手を振りながら、ヨナカはいつものコスプレ姿でどこかに出かけてしまった。ちなみに、今日のコスプレは白いワイシャツに黒のベストと黒のズボン。パッと見はバーテンダーとかそんな感じに見える。長い足とすらりとした背丈がばっちりと決まっている。

「あ、ヨナカ、何時に帰ってくる?今日、私マヒルさんと買物なんだけど、」「なにそれ、デート?俺、何も聞いてないけどいつの間にそんな関係になったの。ちょっと、あいつのことぶっ殺してきていい?大丈夫、俺だってわかんないようにするからユウヒちゃんには迷惑かけないし、この生活も壊れないから。」

確かに出て行ったはずの黒いベストの背中に言ったはずの言葉に、ヨナカはかなり食い気味で返事をくれたばかりか、どこで息継ぎしたのこの人と思うような勢いで喋りながら戻ってきた。私は、もぐもぐとヨナカが作ってくれたらしい純和風の朝ごはんを食べながらバーテンダー風のお兄さんが近づいてくるのを見ていた。鮭の焼き加減が絶妙でご飯が進むくん。

「ヨナカ、出かけなくていいの?」「はあ?今さっき俺に向かって特大の爆弾投下しておきながらそんなこと言えるなんて。本当、ユウヒちゃんってば小悪魔だよね。俺、翻弄されすぎておかしくなりそう。」

私の視界を塞ぐようにヨナカは、机にその長い手をついて顔を覗き込んできた。私は、お味噌汁を飲みたかったのだけれどヨナカの手が邪魔でうまく取れそうになかったので諦めてヨナカを見上げた。

「ただのお仕事だってば、今日は10日でしょ。毎月10日のお仕事だってば。何をそんなに慌てる必要があるの。ちょっと、お味噌汁飲みたいから手、退けて。」

「だとしても、俺は心配で・・・はい、お味噌汁。」

ヨナカはまだ何かを言いたそうに私を見たままで、空いてる方の手でお味噌汁の入ったおわんを掴んで優しく私に差し出した。おいしそうに湯気を出しているお味噌汁の具は、わかめと油揚げ。私の好きな具である。

「大丈夫だよ。近くのホームセンターに行くだけだから。そんなに心配なら、ヨナカも一緒に行く?」

「あー・・もちろん、と言いたいんだけど。今朝からなーんか、ネズミがウロウロしているみたいなんだよねえ。放っておいてもいいんだけど、この間みたいにユウヒちゃんに何かあったら、俺本当に死んでも死に切れないからなあ。」

食事をする私のすぐ横で机に腰とお尻の間を預けてヨナカは、私と外を交互に見ている。ネズミとは、なんぞや。我が家にそんな物騒な生き物はいないはずだけど、この前の大掃除のときだってネズミどころがゴキブリだっていなかったのに。思ったけど、意外に本気で悩んでいるらしいヨナカの真剣な横顔から目を放せなくて言葉を吐き出すのを忘れて口に入れたご飯をもぐもぐと咀嚼していた。

「だいたいさ、ユウヒちゃん。お金なら俺が働いて稼いできてあげてるのに、なんでまだあいつのトコロに行くわけ?」

ヨナカは、そのしなやかな細身を斜めに曲げて、器用に私の視界を埋め尽くす。鮭の骨が思っていたよりも大きくて慌てて口から取り出すと、ヨナカがそれを指先で摘んでぱくりと口に含んだ。この宇宙人、骨も食えるのか。なんて感心しながらも、なぜかいやらしい何かを見てしまった気持ちになり、目を逸らす。

「・・それは、その・・自分で使えるお金が欲しいし。」

「それなら、俺に言ってよ。買って上げるから。」

なんでもないことのように言うから、なんでもないことのように受け取りそうになってしまう。実際、ヨナカが稼いでくるお金は結構な額で、私という金食い虫がいる我が家にとってはとても助かるのだけど。

「いいよ。だいたいどうやって稼いでるのかもわかんない大金なんて、怖くて使えないよ。」

机に腰掛けたまま、見下ろしてくるヨナカの瞳から逃げるように、ご飯を食べる。お味噌汁を飲みたいけど、そうするとヨナカを見上げることになるから飲めない。

「大丈夫だって。心配しなくても、ちゃんとお仕事して貰っているお金だから。おきゅーりょーってやつ?なんだったら、三ヶ月分の指輪だって買えるよ。」

絶対、嘘だ。ヨナカの口調はだいたいふざけている。それはだいたい嘘だからだ。

 ヨナカの愛情は、まるで優しい檻のようだ。と思うことがある。大事なことや都合の悪いことは何も見えないように目隠しをして教えてくれなくて。それなのに、優しい嘘と気持ち悪くなるくらいに甘やかす態度がじりじりと辺りを囲って出してくれない。

「それって、本当にちゃんとした仕事なの?なんか、ヨナカってば出かける時はいっつもコスプレしてるし、コスプレは毎回違うし。真っ当な仕事をしているようには見えないけど。」

「ユウヒちゃんってば、酷いなあ。大丈夫、ちゃんっとした、仕事だから。」

ニコリ、瞳が三日月を描く。まるでアリスを惑わすチシャ猫だ。瞳の奥に光る闇が、覗き込んだ人間の思考も意志も何もかもを飲み込んでしまいそうなくらいに深い。

 いったいどうしてヨナカはここにいるんだろう。この闇の縁を覗き込むたびに心に生まれる疑問に答えてくれる者はいない。何を聞いても嘘ばかりのヨナカになんて聞くだけ無駄だし。聞いてはいけないような、気がしていた。

「だから、ユウヒちゃん。もう、あの男のトコロに行くの止めない。」

一瞬だけ、ヨナカの闇が強くなっていつもよりも低い声が拒否権を奪うように命令を出す。それでも瞳を逸らさずにただ何かを見極めるようにヨナカの瞳を見つめると、切れ長の瞳の奥に悲しみが、嫉妬が、羨望が、見えたような気がして首を傾げる。

「・・・・止めない。」

息をしようと開いた口が、無意識にはっきりとした口調でそう言っていた。言ってから、そうか、止めないのか。と脳みそが納得して私はまた食事を再開した。

「そっか・・・・本当、ユウヒちゃんは・・・つれない、なあ。」

ヨナカは、そう小さく呟くとまた、真剣な表情をして外を見つめた。それから、いつものふざけた口調で、俺も行こうかなあ。でもなあ。と、一人問答を始めた。

 結局、散々迷った挙句ヨナカは渋々バーテンダーの姿でネズミ駆除に出かけてしまった。

「すいません、マヒルさん。お待たせしました。」

「いえ、大丈夫ですよ。ユウヒさんが遅れてくることはもう承知済みですから。」

支度を済ませて外に出ると、いつものようにスーツを着たマヒルさんが家の前に立って待っていた。謝罪の言葉を吐き出した口から、白い息が蒸気機関車のように出て視界が一瞬だけ白く煙る。

「寒くなってきましたね。こうなるといよいよ冬って感じがします。」

歩き始めたマヒルさんについて進みながら声をかける。どうやら、車ではないらしい。この寒空の下でホームセンターまで歩くとか軽く試練だな。風邪を引かないようにしないと、首に巻いていた襟巻きを少し上に引き上げながら隣を見上げると、スーツの上にコートを羽織っているマヒルさんの顎が襟から覗いていた。いつ見ても、彫刻みたいに綺麗な骨格してるな。横からだとその整い具合が、ますます際立つ。

「12月と1月は、あまりすることがないですね。何かしたい手伝いはありますか?」

私の投げかけた言葉に対する答えだったのか、不意にマヒルさんがこっちを見たため、ばっちり目と目が合ってしまう。鋭い割には大きな黒目が少し驚いたように私を見ている。

「あ、と、したい手伝い、ですか?うんと・・・お節作りとか?お庭にクリスマスツリーを飾るとか・・・ですかね。」

ちょっとだけ気まずい空気を取り除くように、慌てて思いつく限りのイベントに関するお手伝いを口に出す。それを聞きながら、マヒルさんはその黒目でじいっと私を見つめている視線を逸らすことをせずに一つ二つ頷く。

「あぁ、いいですね。ふふ、実にユウヒさんらしい意見です。お屋敷のお庭は、聞いてみないとわかりませんが恐らく許可は下りると思います。お節も大丈夫だと思いますよ。材料もこちらで準備しましょうか。厨房を借りる許可もいただきましょうね。」

いつも思うけど、この人あのお屋敷つまりアサヒの家でどれくらい偉い人なんだろう。許可が必要とか色々言っているけど、マヒルさんが言ったことで許可が下りなかったことはないし、マヒルさんと一緒にいるとお屋敷のどこにでも大抵行けるし、何よりメイドさんとかがマヒルさんに対して敬語だったりする。どう見てもマヒルさんよりも年上の庭師さんも、料理長も、みんな敬語だった。かく言う私も敬語だが、これは単純に年上だからだ。

「楽しみですね。美味しいお節が出来るといいなあ。そうしたら、今年はお節を買わなくてもいいことになりますね。ああ、でも、失敗したときのために買っといたほうがいいかな。」

「大丈夫ですよ。私と一緒に作るんですから、失敗するはずがありません。今年ではなく来年のお節は、今までで一番美味しいと思いますよ。」

ニコリ、目を弓なりに細めて笑うマヒルさんは自信たっぷりにそう言う。この自信はいったいどこから来るんだ、と思う反面、マヒルさんが言うんならきっと美味しいのが出来上がるだろうな。と確信している辺り、マヒルさんってすごい。

 と、そんなやりとりをしながら間もなくホームセンターに着こうという頃だった。道の真ん中、目の前で子供が倒れていた。小さな体に不釣合いなほど大きな茶色のコートにこれまた不釣合いなほどに大きな緑の帽子でパッと見、コートと帽子が落ちているようにしか見えないその子供は、突然にバッと顔を上げた。どうしたもんか、と戸惑っていた私たちはその動きにビクリと肩を驚かせ、それから恐る恐るその子供に近づいた。

「ど、どうしたの?迷子?」

屈んで尋ねる私の後ろでマヒルさんは油断なく辺りを見回して親御さんを捜しているようだった。だが、見回すまでもなくこの一本道に人影はなく誰ともすれ違っていない。小さな子供は、途方にくれたように少し混乱したように眉を下げてさっきと違いゆっくりと体を起して座りこんだ。

「お腹がすいたのですよ。でも、道がわからなくなってしまって・・・うう、一人でお散歩にきたのですよ。でも、お腹がすいてしまって。」

子供独特の舌足らずな甘え声なのに言ってる言葉がどこか大人風でそのギャップがおかしい。手を貸してあげると、その子はちょっと迷った末に立ち上がった。砂をほろって上げながら、全身を見てみるけどどうやら怪我などはしていないみたいだ。

「マヒルさん、ホームセンターには食事どころがありましたよね。どうせお昼はそこで食べる予定だったんだから、この子も連れて行ってあげましょう。大きな通りまで出ればこの子も道を思い出すかもしれないし。」

立ち上がって後ろにいるマヒルさんに尋ねると、マヒルさんはいいですよ。と初めから承知していたように笑った。

「良いって。よかったね。あ、お名前は?」

大きな帽子の上から頭をそっと撫でてあげると、その子は嫌だったのか少し膨れっ面をした後、ハッとしたように私を見上げた。その大きな瞳には少しだけ恐怖やら不安やらの色が見えた気がして、尋ねようと口を開いたけれどそれを言葉にする前に目の前の子が

「我は、アオクサなのですよ。お姉さん、」

「・・・アオクサ、ちゃん。変わった名前だね。」

存外強いはっきりとした口調で言われた言葉に流されるようにしてさっき思っていたことは思考の渦に消えていった。

 アオクサちゃんは、最初に見たときよりもずっとしっかりとした子らしく。手を繋いであげようとしたら、大丈夫ですよ。ときっぱりと断られた。

「さて、ホームセンターに着きましたが。」「わー、疲れたー、遠かったー」

マヒルさんの言葉にばんざーいと両手を挙げて応えると、隣りにいたアオクサちゃんが、その大きくてつぶらな瞳でこっちをじいっと音がしそうなほど見つめているのが視界の端に見えた。なんだろう、この子は私をいったいどうしたいんだろう。

「お姉さんは、何を買いにここにきたのですか?そこのお兄さんとはどんな関係なのですか?」

 無邪気な子供のそんな質問に、私ははてと首を一つ傾げることになった。ヤマタノオロチじゃないから、首は一つしかないんだけどね。

「何を買いに?・・・マヒルさん、我々はいったい何を買いにきたんでしたっけ?あ、あの人はマヒルさんと言って私の隣りさんで。あ、ちなみに私はユウヒといいます。」

前を歩くマヒルさんに質問を投げて、そのまま隣りを歩くアオクサちゃんに答えを返す。マヒルさんは、アオクサちゃんに興味がないのかそれとも子供が苦手なのか、アオクサちゃんから少し距離をとって歩いている。それでも、マヒルさんを紹介した後にはきちんとこっちを見て頭を下げて微笑むくらいの気遣いは出来る人だった。さすが、マヒルさん。本当、かっこいい大人ですよ。心の中でだけ賞賛した。口に出すと恥ずかしいからね。

「そうなのですか。ユウヒさんとマヒルさんですよ。」

アオクサちゃんは、何かに納得したようにそう言うと頭の上のほとんどを占める帽子にぽんぽんと触って名前を繰り返した。まるで帽子の中に誰かがいてそれに教えるように。

 その頃、実はヨナカが貞操の危機を迎えていたらしいのだけど、私には知る術もなければ理由もなかったが、帽子に触った直後に苦い顔をして何かを考え込んでいたアオクサちゃんはどうやら違ったらしい。

「まずい。まずいのですよ、どうやら間違ってしまったのですよ。」

小さくほとんど自分に言い聞かせるように呟いたアオクサちゃんに私は気づかないふりをして、進んでしまったマヒルさんの後を追いかける。歩いている間にアオクサちゃんは、お腹が減ったと言っていたことすら忘れているかのように元気だったし、前を歩くマヒルさんの手伝いをすることが今日の私のミッションであることを思い出したためである。

 何か言うかと思ったけれど、私が歩くとアオクサちゃんも何も言わずにその後ろをついてきた。やっぱり、アオクサちゃんはお腹が空いてたわけではなさそうだ。さっきから、まるでカメの甲羅のように大きく丸い帽子を不安気に揺らす小さな子供は、私を知っているように思えた。

「さて、ユウヒさん。お願いですから、今度は前みたいに迷子にならないでくださいね。なんだったら、手を繋いであげましょうか。」

首だけを傾けて私をからかうように見下ろしながら、マヒルさんが言う。マヒルさんは、時々こんな感じで意地悪を言う。きっと、アサヒにも言っているだろうとなんとなくわかるし、アサヒもこの意地悪には相当困っているだろうともなんとなくわかる。

「結構です。大丈夫です。平気です。」

「そうですか。」

断固拒否の姿勢で丁重に返すと、マヒルさんは何が楽しいのかとても楽しそうに笑う。それから、思い出したようにアオクサちゃんの方を見ると私に言うよりも幾分優しい成分を含ませて

「アオクサさんも、また迷子になると大変ですよ。手を繋ぎますか?」

おいおい、誰でもいいのかよ、この執事。突っ込んでしまいたくなるようなその冗談に、アオクサちゃんは一瞬、判断に困るようなしかめっ面とも恥じらいともつかないような表情を浮かべた。子供に似つかわしくないその表情に、私もマヒルさんも即座に同じことを思ったと私は確信した。

 つまりは、そう、この子は子供ではないのではないだろうか。と。

「・・・申し訳ありません、私としたことが少し性質の悪い冗談を言ってしまったようですね。ただの嘘ですので、どうか忘れてください。」

潜ってきた修羅場の数が違うマヒルさんは、すぐに鮮やかに顔に笑顔を貼り付けると何事もなかったかのように切り替えした。私は、そんな技もスキルも持っていないため、しばらくフリーズ状態で隣りを歩く小さなアオクサちゃんを見つめているだけだった。

「え、いえ。冗談ならいいのですよ。すいません、我はそういうのに慣れていなくて・・」

「いえいえ、さて。買物を続けましょう。ユウヒさん、」「はい。はいはいはいはい。」

意識を呼び覚ますように、はっきりとでも決して大きくはない声でマヒルさんに名前を呼ばれて私は、返事とともに視線をアオクサちゃんからマヒルさんに移す。鋭くてはっきりとした黒い双眸が私をしっかりと見つめていた。

 結局、その後はマヒルさんはあまりアオクサちゃんに話しかけることはなく。テキパキと買い物というミッションを遂行して行った。時々、私に向かって、どっちがいいですか。とか、これとこれをもってください。とか、これで叩いていいですか。とか、品定めを共有する以外は特に無言だったというのもある。私はといえば、そのマヒルさんの買物風景を見つめながら、隣りを無言でついて来るアオクサちゃんの大きな緑の帽子を探るような目つきでチラチラと見ていた。

 広い店内を一通り、うろうろと回ったところでマヒルさんは休憩にしましょう。と言った。隣りでアオクサちゃんが、大きく本当に疲れたように息を吐き出す音が聞こえてそこでようやく、彼女は本当になんで一緒にいるんだろうと疑問が生まれた。お店を入ってすぐの場所にお食事どころはあったのだから、そこで一人で座っていてもよかったはずだし。なにより、この子は一時間近く楽しくもないお店の中を連れまわされて文句一つ言わなかったのはいったいどういうことだろう。普通の子供なら、とっくに飽きてしまっているはずだ。

「アオクサちゃん、大丈夫?疲れた?」

「大丈夫なのですよ。滅多にこういったお店には来ないので中々興味深かったのですよ。特に、あの大きなスコップやら水を撒くためのホースなんて、くりすますのぷれぜんとに欲しいくらいですよ。」

「あ、そうか。それなら、よかった。」

どうやら、全く退屈はしていなかったようだ。こんなにホームセンターを気に入る子供も珍しいし、だいたい農業用品をクリスマスプレゼントに欲しがる子供なんてたぶん世界中でアオクサちゃんただ一人だ。

「お昼時なので少し混んでしまっていますね。とりあえず、椅子に座っていてください。」

マヒルさんは、適当な場所を見つけると私とアオクサちゃんを座らせてどこかに行ってしまった。その間にメニューを手に取って隣りに座っているアオクサちゃんにも見えるように翳した。アオクサちゃんは、どれでも食べていいのですか。と窺うように尋ねてきた。

「うん。マヒルさんがポケットマネーで奢ってくれるっていうから。どれでもいいはず。」

「この、たこ焼きやらふらいどぽてとやら、じゃんくふーどなるものも食べてもいいのですか?」

メニューに書いてあるジャンクフードをキラキラと瞳を輝かせながら口に出していくアオクサちゃんは、さっきまでとは全く違うただの子供だった。どうやら、アオクサちゃんの家は相当に教育熱心な家庭か相当なお金持ちの家なのかもしれない。今のアオクサちゃんは、初めてファストフードに入ったときのアサヒと同じ反応をしている。

『本当にこんな、おいおい、マジかよ。これ、全部・・・おい、ユウ、好きなの全部頼んでいいぞ。俺がおごってやる。』

『ひょっとして、アーちゃんってばここ初めて入ったの?今まで、きたことなかったの?そういえば、小学校のときに初めて一緒に夏祭り行った時もたこ焼き屋の前で同じようなことを・・』

『うるさい、いいから・・・これ、どうやって頼むんだ?』

『今日のアーちゃん、マジ使えねえわ。』

 懐かしい。あの頃は、アサヒとの他愛もない日々をこんな風にふとした瞬間に思い出すなんて思いもしていなかった。ただ、過ぎていく時間の中で当たり前に流れていく風景に名前なんてつけることを考えもしなかった。

 過ぎてく日々に、理由なんてなかったよね。

「とりあえず、脳を使ったから甘いのがいいですよね。はい。」

「え・・?」「わああ!!」

そこに何かを探すように空白を見つめていたはずの視界に、飛び込んできた白い巻き模様。横から歓声が聞こえて動いた白い巻き模様が二つあることに気づく。

「これは、まさか、そふとくりーむ。ですよ。わああ、我は一度でいいから食べてみたかったのですよ!!!」

「あ、ありがとうございます、マヒルさん。」

知らないうちに喉が渇いていたらしく冷たくて甘いソフトクリームは、体に染みるように口の中で溶けていく。気持ち良い。隣を見なくても、アオクサちゃんが感動しながらソフトクリームをペロペロと全力で舐めているのがわかる。

「可愛いですね。お二人とも、」

嬉しそうに幸せそうに、私たちを見つめているマヒルさんがぼそりと呟いた。さっきは、ひょっとしたら子供が嫌いなのかとも思ったけど、今は全く違う感想が頭を巡る。

「ひょっとして、え、マヒルさんてそういう人ですか?そういう趣向の人ですか?」

ソフトクリームを半分ほど齧ったあとに意を決したふりをしてそんなに深く考えずにそう尋ねると、マヒルさんは驚いたのか、吃驚したのか、目を大きく開いて口も大きく開けた。

「ユウヒさん、あなたは本当に予想の斜め以上の上をいきますね。驚きや恐怖を通り越して尊敬します。」

「ありがとうございます。マヒルさんに尊敬してもらえるなんて幸せですわ。」

少々的外れの回答だったらしくマヒルさんは、困ったように笑った後、ゴホンとわざとらしく咳払いをしてアオクサちゃんを見つめた。

「自分よりも小さいものが、好きなんですよ。なんというか、守ってあげたくなるんです。」

マヒルさんより小さいものって世の中にたくさんあるじゃん。と、いうか世の中のほとんどの物がマヒルさんよりも小さいと思うのですが。

「だから、我たちのほうを時々振り返ってきていたのですか?」

カジカジ、いつの間に上のアイス部分を食べ終わり、コーンに齧りつきながらアオクサちゃんがマヒルさんに尋ねる。甘いものを食べて疲れが緩んだのか、アオクサちゃんは口の周りをクリームで縁取りながらマヒルさんをその大きな瞳で何の感情もなく見つめる。

「何度も何度も、たびたび我らを見ているので何事かと思っていたのですよ。」

「え、そうなんですか。私は、全然気づきませんでした。」

「そうですね。迷子になってしまわないか心配でしたし。どこぞの悪党に攫われてしまうかもしれないと、不安でしたし。」

なにそれ、最後のは全然現実味なくね。迷子は、まだ前科があるからわかるけど、悪党って。こんな片田舎にそんな奴いないよ。ていうか、マヒルさん目の前にいるのにそんな勇気のある人そもそも誘拐なんてしないよ。

「マヒルさんって、相当過保護ですよね。っていうか、もしかしてその小さいものって私とかアーちゃんも入っているんですか?」

「もちろん。私よりも、小さければ。」

マヒルさんはなんの躊躇いもなくそう言うと笑った。なるほど、そうするとひょっとしてヨナカがなんとなくマヒルさんに嫌われているのは、

「じゃぁ、ヨナカはその保護の対象外なんですね。」

「そうですね。ヨナカさんは私よりも大きいですからね。」

「なるほど。」

どうりで。一人で納得して今朝、慌しく出かけていったバーテンダーを思い浮かべる。そういや、ネズミは見つかったのだろうか。

「・・・あの、よなか。というのは誰なのですか?」

もう、コーンすら食べ終わってしまったらしいアオクサちゃんが私たちを交互に見上げながら遠慮がちに質問をする。大きな緑の帽子が、不意に動きを止めたように不自然な形で固まっている。

「あぁ、えっと。ヨナカっていうのは、私の家に居候しいている宇宙人で・・」

「宇宙人?ユウヒさんは宇宙人と一緒に住んでいるのですか?」

「うん、つい・・半年くらい前から・・・住み着いてるんだ。なんかね、毎日コスプレして出かけるし。服を脱ぐとね、マネキンみたいなの。全身がね、こう、つるーんとしててでも、人間みたいな肌なんだけど・・マネキンみたいなの。」

アオクサちゃんは驚いたように目を丸くしている。良く見ると、なんとなく深い緑色にも見えるアオクサちゃんの瞳。いつか、ヨナカの庭園で見た湖の色に似ている。

「ま、マネキンなのですよ。それは、つまり・・ええっと。」「ユウヒさん、なんでそんなことを知っているんですか。まさか、」

二人の少し困惑したような言葉に、何か誤解を招いてしまったことを悟る。どう弁解したものかと非常にこちらも困惑しながらも、

「あ、違う。違う、たまたま、偶然、見たというか。触ったと言うか、それでわかったの。断じて脱がしたとか、そういうことじゃなくて。」

「す、すごいのですよ、すごいのですよ。では、では、ユウヒさんも宇宙人なのですか?」

フンフンと鼻息荒くアオクサちゃんが尋ねてくる。宇宙人の話題、妙に食いつき良いなあ、なんてちょっとひきながらソフトクリームを口に運ぶ。

「いや、私は違うんだけど。」「まあ、でも、ユウヒさんもある意味では宇宙人ですね。言動は不可思議で行動は不可解。未知の領域だらけです。」

どういう意味だ。

「なら、私的にはマヒルさんも宇宙人ですね。自分よりも小さいものが好きとか、マヒルさん人より大分大きいですからね。下手したら、人類みんな大好き宣言ですよ。」

冗談に冗談で対抗すると、マヒルさんは低い声で喉を鳴らすように笑って、そうですね。と同意してくれた。なんだと、

「なら、我も。我も宇宙人なのですよ。」

楽しそうにおかしそうに、目を細めてアオクサちゃんが言う。その言葉に私もマヒルさんも一瞬だけ目を見合わせてそれから、やっぱり声を揃えるように笑った。

 これ以上、周りに宇宙人が増えては困る。

その後、フードコートで遅めのお昼を食べることにした私たちはマヒルさんのポケットマネーを信用して食べたいものを食べることにした。私は、野菜たっぷりの味噌ラーメンとフライドポテト。マヒルさんは、醤油ラーメンとチャーハンと餃子を。一緒に何度かご飯を食べていて気がついたけれど、マヒルさんは見た目のわりに結構大食いだ。中年太りで今年も三年連続でメタボ認定されているうちのお父さんと同じくらい、いや、それ以上の量をペロリと食べてしまう。それでいながら、このスリムなボディを維持しているのだから、いったいなんだというのか。ちょっとぽっちゃりめの私への当て付けだろうか。

 そうして、アオクサちゃんは散々迷った挙句。

「アオクサちゃんも、マヒルさんに負けず劣らずの大食いさんだね。」

机の上に並んだのは、たこ焼きと醤油ラーメンとフライドポテトとホットドッグ、それとどう見ても一人で食べる大きさではないチョコレートバナナパフェのソフトクリーム乗せ。

 これを全てすぐ横に座る小さな体の少女が食べるというのだから、なんとも信じがたい。しかしながら、言葉通りにアオクサちゃんはその小さなお口に次々と喜々として食べ物を運び、咀嚼し、飲み込んで、また運ぶ。なにかのマジックを見ているのかと思うほどのその一連の流れに私は自分のラーメンを食べるのも忘れてポカンと口を開けてしまっていた。

 なんとか、半分伸びきる前にラーメンを食べ終えることができた私たちは、午前中に下見をしていた商品をカートに入れてまわる作業を一時間ちかくかけて行うことになった。

「これ、と・・次は、これですね。・・それで、こっちと・・」

「マヒルさん、ちょっと待ってマヒルさん、これ以上このカートに商品入りません。」

「すごいのですよ。こ、こんなに、すごいのですよ。」

その細身のいったいどこにそんな力があるのかと思うほど、軽々とマヒルさんはカートに物を入れていく。私とアオクサちゃんは、それを眺めながらだんだんと重くなっていくカートを必死に力を合わせて押していた。

 押していたときから、わかっていたけれど。指に食い込むどころじゃない量の買物を抱えながらの帰り道、何度目かわからないため息を付いた。

「マヒルさん、何で車で来なかったんですか。」

行きだって試練だったのに、帰りはこれに荷物付きで試練じゃないはずがない。というか、試練を通り越して苦行でしょ。そう思ったけど、マヒルさんが持っている荷物の量は私とアオクサちゃんの何倍なので文句を言うことは敵わず無言で指に食い込み気味の袋を持ち直すことで解決しようとした。

 ちなみに、なぜアオクサちゃんがついてきているのかというと。ご飯を食べて幾分元気を取り戻したアオクサちゃんは、どうしても大きなスコップが欲しいとどこから出してきたのか自分の財布を出してまで買おうとしたために、マヒルさんが今日のご褒美という名目でお得用に安くなっていた「夏休み、朝顔栽培セット」なるものを買ってもらい(ちなみに、私はお手伝いデーのときはマヒルさんに全てを奢ってもらうつもりでいるため財布そのものを持ってきていない。)渋々ながらも、スコップは諦めてくれた。その上で、お腹がいっぱいになったら頭が働くようになってここがどこらへんなのか、ということも理解したため、一人でも帰れるのだけれどそれでは申し訳ないので家まで荷物運びをしてくれると申し出てくれたのである。どう考えても二人では運べないことはわかっていたので私とマヒルさんはその申し出をありがたく受け取り、後でそのままマヒルさんが家まで送っていくということで落ち着いた。

 アオクサちゃんは、大きな帽子を揺らしながら同じく大きめのコートをはためかせて歩く。荷物も重いだろうに、大きな瞳はちっとも疲労の色を見せずにそれどころか時折、私の方を見て

「大丈夫ですか?大丈夫なのですか?」

と、気遣いを見せてくれる。どうやら、すっかり懐いてもらえたらしい。こんな可愛い幼女に懐かれて悪い気がする人間なんているだろうか、いや、いない。そんなことをぼんやりと思うほどに今の私は疲れていた。そりゃそうだ、何しろ半日近くあのホームセンターにいたことになる。現在時刻、午後三時。夏場ならばまだ日も燦燦だが、今は秋も深まっている季節、太陽はそろそろ沈みたいなあ、なんて東の空に移動中だ。

 そんな太陽と同じことを思いながら、ようやっと見えてきた懐かしい我が家に続く道をよぼよぼと、出かけたときとは全く違う足取りで、出た時とは一人多い足で並んで歩く。


 「本当に大丈夫ですか?今日はかなり多いですから、私がやっておきますよ。」

アオクサさんを家の門の前で待たせてはいるが、今は倉庫の中で買ってきた大量の道具に囲まれて見えなくなってしまいそうになっているユウヒさんの方が正直、心配だ。

「大丈夫ですってば、買ってきた道具やら肥料を同じ棚に入れておけばいいんですよね。ここはいつもお手伝いデーのときに使っているからだいたいどこに何があるか覚えてるし、それくらいは私にだって出来ますから。私、そこまでポンコツじゃありません。」

怒ったように唇を尖らせた様子がおかしくて、吐き出すように笑うとユウヒさんはしてやったりというように、口角を上げた。その表情にこれ以上、ここにいて彼女の機嫌を損ねるのは得策ではないな、と思い一つ首を振った。

「わかりました。では、お任せします。でも、いいですか。くれぐれも無理はしないでくださいね。重い物や危ない刃物などはそのままにしておいてください。それと、どこに仕舞うのかわからないものや、見たことのない物もです。後で私が片付けておきますから。」

「はいはい。大丈夫ですよ、マヒルさんってば実は相当な過保護さんですね。」

言いながら、自分でも思っていたことを言われて苦笑する。楽しそうな悪戯っ子のような笑顔で言った彼女に、そうですね。と返事をして倉庫を出るために扉に手をかけて、念を入れるように振り向いて一言。

「何かあったら、すぐに呼んでくださいね。」 

 ケラケラと楽しそうな笑い声に背を押されるように出た扉の外。扉に背を預けて一つ笑い声を漏らす。

 別に彼女に対して前からこんなに過保護だったわけではない。初めて会ったころは、どちらかと言えばそれなりに距離をとっていたし、何よりこんなに親密になる予定ではなかった。アサヒに頼まれて彼女の動向を、生活を、見守っている間に彼女の無邪気な毒牙にかかってしまったらしい。毒牙、というにはいささか柔らかすぎるけれど、それでも言ってしまえば毒を持った牙だ。考えてみれば、アサヒも彼女に毒にとっくの昔にやられてしまっていたのだろう。

 彼女は不思議な人間だと、思う。初めはまるで警戒心の強い子犬のようにちっとも近づいてこないのに、気づけばするりと心の奥に擦り寄ってきていつの間にか放っておけなくする。守ってあげなくてはいけない気持ちにさせる。甘やかして甘やかして大事に大事にしたくなる。彼女は、確か弟が一人いただけだったと記憶しているが、仮に兄や姉がいたとしたらきっととんでもないシスコンの塊が出来上がっていただろうことは容易に想像できる。

 アサヒが飲んでしまったのは、効果が出るのが遅い毒だったのだろう。それを長い間、それこそ人生の半分ほど摂取しつづけた結果アサヒはあそこまでユウヒさんに取り込まれてしまったのだ。私もうっかりすると危ないな、なんて思いながら門を開けて外に出る。

「・・・おや?」

しかし、そこには期待した小さな体は影すら見当たらない。いくらユウヒさんに構っていたとは言え、そんなに長い時間は立っていないはずだ。それに、

「妙、だな。」

違和感の正体を探そうとわざと口に出す。辺りの気配がおかしい。いや、おかしい、などというものではない。

 辺りに、気配がない。

この時間なら、まだ茜色に染まりかけている空に鳥が飛んでいてもおかしくはないはずだ。この時間なら、騒がしく家路につく小学生やそれを迎える母親がいてもおかしくはないはずだ。

それが、全くいない。まるでこの世界が、生き物が、呼吸を停止しているようだ。

「・・・どうなっているんだ。」

一瞬、引き返してユウヒさんの元に向かうことを考えた。しかし、ついさっき門の中にいたときは全く異変はなかった。だとしたら、今、向かうべきはユウヒさんではない。

妙に大人びた小さな少女を捜すべく、時間を停止した世界に歩き出す。

 もしも、ユウヒさんが望むならアサヒは何をしてでも、ユウヒさんを妻に迎えるだろう。アサヒの両親だって昔から仲良くしているユウヒさんのことを大事に思っている。それは何度も会っているし、話題にもしているからわかっている。結婚に反対することも、結婚を阻止することも、絶対にしないだろう。そう、もしも、ユウヒさんが望むなら、だ。

 ユウヒさんが、とんでもない毒牙の持ち主であることは事実だが、ユウヒさんがその能力を自覚しておらず、そしてその能力を全く必要としていないこともまた、事実だ。どんなに世界が、人が、ユウヒさんを甘やかし大事にしたとしても、ユウヒさん本人はその感情を全く理解できない。他人からのその愛情が、ユウヒさんに届かない。見えない。他の誰に見えて理解できていたとしても、毒牙の持ち主には認識することすら敵わないのだ。

 だとしたら、あの宇宙人もあるいは。そんなことを考えていると、微かに風に乗って聞き覚えのある声が聞こえてくる。曲がり角の向こうに人の気配を感じ、壁に背を預け耳を澄ます。

「・・・。」

声の主は、三人。そのうち、一人は今さっき思い浮かべていたヨナカさん。もう一人は、聞いたことのない、恐らく男性のもの。(おそらく、というのは声音が明らかに低く成人男性のものではあるのだが、言葉使いが女性的だったので一瞬だけ判断に迷ったのだ。)そして、もう一つはこの道をついさきほどまで一緒に歩いていた、アオクサさんのものだ。

「リクに何用なのですよ。」

「俺が追っかけてるみたいな言い方、やめてもらえる?どうこうするつもりなんて初めからないんだけど。」

「そうよ、アオクサちゃん。貴公子さまを追いかけていたのは、私の方なんだから。文字通りケツを追いかけてたの。」

「リクは黙っていてほしいのですよ。さきほど、あなたの居候という地球人とお会いしたのですよ。闇の、覇王さん。」

さっきまでと同じ声、同じ言葉使い。それなのに、そこに宿る感情と温度のあまりの冷たさに彼女は本当に同じアオクサさんなのかと疑ってしまう。

「・・・ユウヒちゃんに、何かしたの。」

殺気、そんな言葉では生ぬるいほどの気配がヨナカさんから吐き出される。少し離れたこの場所にまで届くほどに強いそれにしかしアオクサさんは怯むこともなく冷笑する。

「滑稽なのですよ。まさか、闇の覇王ともあろう存在が、地球人一人にそんなに肩入れするとは、いったいどんな心境の変化なのですか。」

「アオクサちゃん、何の話をしているの?っていうか、あなた今日学校は?」

ここまでの流れを聞いているだけでアオクサさんが地球人ではないことは明らかだ。冷たさの応酬。二人の宇宙人は、凄まじい殺気を漲らせたまま会話を続ける。

「それなら、そっちこそ。探索用のスパイさんがそんなおっさんを飼いならして。偵察用にでもするつもり?だったら、首輪くらいつけておいてほしいよね。このへんを嗅ぎ回っている宇宙人かと思って消しちゃうところだったんだから。」

「リクは、ペットなどではないのですよ。リクに危害を加えるのは、我が許さないのですよ。」

「だったら、ちゃんと管理しておいてってば。そんな中途半端に免疫ついてる地球人がいるとこっちが迷惑なんだって。俺が作った結界の中にも入ってきちゃうし。」

「・・・なんの、話をしているのですよ。」

会話の主導権が、ヨナカさんに移った。そう確信できるほどにアオクサさんの動揺は大きかった。殺気は消え、戸惑いと不安が声に滲み出ている。それを敏感に察知したのか、ヨナカさんが声高らかに笑い、飄々とそれでいて楽しくて仕方のないように続ける。

「まさか無自覚?そんなわけないよね、スパイだったらそれくらい知ってて当然だもん。それとも、気づかないふりしてた?あんたのお仲間、宇宙人の結界に免疫ができちゃってるよ。虚数空間には、よほどのことがない限り関係ない生き物は入ってこれない。なのに、あんたのお仲間はこうして呼んでもいないのに入ってきてる。ここまで言えば、どういうことかもうわかるでしょ。それとも、まだわかんないふりするつもり?」

殺気すらも氷つかせたような冷たい声。その冷気に冷やされるように、アオクサさんから息の音すら聞こえなくなる。何も知らない私とリク、と言う名前の顔も知らない地球人だけが事情も何も飲み込めずにただ、次の言葉を待っていた。

「・・・ッ!!」

しかし、発せられたのは言葉ではなく勢い良く吐き出された息。そうして鋭く振り上げられた何かが風を切る音。何事かと、壁から顔を覗かせる。

「アオクサちゃん!?何してるの?」

「ちょっと、いきなり襲い掛かってくるなんて危ないじゃない。」

「うるさいのですよ。我だって何の策もなく闇の覇王に攻撃を食らわせる我自身に一番驚いているのですよ。」

アオクサさんが、ヨナカさんの腕に食い込ませている武器には見覚えがあった。あれは、確かさっきのホームセンターで私が買った小さなスコップ、だったはずだ。それが、今、アオクサさんの身長ほどの大きさになって鋭い面をヨナカさんの腕に食いこませている。いったい、どういうことか。

「なるほど、ね。ウチデノコヅチか。その手に触れた物の大きさを自由に変えられる。確か自分にも使えるんだっけ。まあ、命に関わるって聞いたからほとんど使うとこは見たことないけど、便利な能力だよねえ。」

「今すぐ、その口を聞けなくしてやるのですよ。」

「アオクサちゃん、やめて。私のために争わないでええええ。」

リク、であろう男の絶叫にも似た喜びの声を背に受けながらアオクサさんが、跳ねてヨナカさんと距離をとる。それから、リクさんが離れた場所にいることを確認して巨大なスコップを引きずるようにしながら駆け出す。風圧で被っていた大きなキノコ帽子が後ろに飛んだ。

「そんな大振りな攻撃で、俺を捕まえられると思ってんの。」

余裕とも見える仕草でそれを避けたヨナカさんの言葉に、アオクサさんが怪しく笑う。

「大振りで結構なのですよ。」

その声に応えるように、いつの間にかヨナカさんの後ろには見慣れない装置が浮いていた。それは、例えるなら小さな子供が遊ぶ電車のおもちゃに似ていた。レールこそないものの、まるでそこに道路があるかのように二台、留まっている。ヨナカさんが、それを視界に捕らえるのと同時に、電車と思われる機械の正面から、鋭い光が一直線に発射される。

「なにっ!?」「消えるのですよ、闇の覇王。」

ヨナカさんの驚いたような声とアオクサさんの勝利を確信した声が重なる。瞬間、光が爆発して反射的に目を閉じた。

 何も、聞こえない静寂の後、目を開ける。

「まさか、そんな、はずは、」

「まさか、俺にこれを出させるとはねえ。やるじゃん。」

驚愕を隠せない声。それに応えるように、光の残像から現れたヨナカさんは、両手に長く伸びる槍を持っていた。

「けど、残念。俺を倒すほどじゃあ、ないんだなあ。」

それでなぎ払ったのだろう、電車のような機械は真っ二つに割れ地面に無造作に転がっていた。さきほどと何も変わらないヨナカさんの身には傷一つ付いていない。

「・・・やはり、我では敵わないということなのですか。」

「そゆこと。残念でしたってことで、それじゃあ。」

後ろを向いたまま、ヨナカさんが言う。次の行動が、手に取るようにわかってしまう。それでも、アオクサさんは何かを覚悟したように一歩も動かない。その後ろでリク、だろうと思われる男性が何事かを絶叫している。

 身体が勝手に動いた。そんな言葉がしっくりと当てはまるほど唐突に、私の体は走り出してアオクサさんに向けて振り下ろされた槍の前に立ちふさがっていた。

「っ、」「!!」

熱い。鋭い刃が横一線に冷たさを感じさせた瞬間には、すでに熱い痛みがじんわりと感覚を支配した。

「・・マヒルさん!!どうしてなのですよ、」「きゃあ、もう一人のハンサムさんが私のために、きゃあああ、」

力が流れ出る血液と一緒に抜けていったかのように、ガクガクと足が腕が震える。吐き出した息が、恐ろしく熱を持っている気がする。

「ちょっと、ちょっと、邪魔しないでよ。せっかく乗ってきてたのに、割り込んでこないでよ。」

ビシャリ、ヨナカさんは槍を勢い良く振り、刃についた私の血を払い拭う。押えようと触れた傷口は深く広い。このままでいれば恐らく出血多量で死んでしまうだろう、なんてことをぼんやりと感じる。

「なにを、マヒルさんは仲間の地球人ではなかったのですか。」

「仲間?ちょっと、やめてよ。気持ち悪いな。別に俺はこの星に思いいれとか、特別な感情なんてないんだって。ただ、ユウヒちゃんが何も望まないからここにいるだけ。ユウヒちゃんさえ、あの子さえ望んでくれたら、俺はこの世界も星も全てを壊す。この世の何もかもをなかったことにしたいくらいだよ。あの子が、望むなら、俺はなんだってするよ。」

言葉の強さに、薄れ逝く意識を繋ぎとめて正面にいるヨナカさんを見る。泣きそうな、それでいて苦しそうなその表情は、ユウヒさんのことを話しているときのアサヒとどこか似ているように見えた。

 ユウヒさんが望むなら、彼はこの世界を破壊して宇宙に飛び立つのだろう。ユウヒさんが望むなら、彼はなんでもするのだろう。自分さえも、殺すのだろう。あの日のアサヒのように、全てを投げ出そうとするのだろう。

だとしても、そうだとしても。

「・・望み、ませんよ。」

浅い呼吸の合間から言葉を切れ切れに吐き出す。しっとりと濡れ始めた手にはいつの間にか、アオクサさんの小さな手が添えられていて私の血液が温く境なく赤く染めている。

「マヒルさん、大丈夫なのですか。」「なんだ、結構しぶといじゃん。」

振り向いたヨナカさんの手には、もう槍は握られていない。力が入らず、最早立っていることすら出来ない身体が、ずるずるとアオクサさんに持たれるように落ちていく。

「あの人は、ユウヒさんは、きっと、何も、望まない。・・・おそらく、一生、なにも、だれにも、のぞみは、しません。」

ひゅう、ひゅう、呼吸する音がやけに大きく聞こえてノイズのように意識を乱す。思考が纏まらなくなり、まるで眠りに落ちるように自我が遠のく。

「マヒルさん、マヒルさん、」「あんたに、何がわかるっていうの。」

「わかります、よ・・・ユウヒさん、は、」

電池が切れるように、体が動かなくなって口も声も最早機能しているかもわからない。

 ユウヒさんは、きっと一生理解できない。他人の想いも、そして胸を焦がし掻き毟りたくなるほど強い恋慕の感情も。理解することなく生きていくのだろう。

途切れる意識の狭間で、短い夢を見た。美しい庭園のような場所でこの世界の桃源郷のような場所でユウヒさんが一人で空を見上げていた。何の感情も宿さない瞳で何の感情も読み取れない表情で、ただ一心に空だけを見上げて、佇んでいた。


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