郵便物

 高橋麗音たかはしれおんはフッと意味深にため息を吐いてから、語りだした。


「あたし、自分ちのポストが開けられないの」


 同居している弟は夜勤が多く朝起きていることは稀だ。両親は遠方に引っ越したため、他にポストを開け閉めにいく人間がいない。だから高橋姉弟が住む家のポストは郵便物がバームクーヘンの層のごとく溜まりに溜まっているそうだ。


「ホントすごいことになってるんだよね、出入りはあるから空き家だとは思われてないと思うけど~……って怒らないで! ちゃ、ちゃんと事情があるんだってば。ううん、むしろトラウマに近いかなぁ……。そんなことになる前に変な体験ちゃったんだよ」


 それまでは麗音が毎朝新聞取りに行く係だった。職業は全然違うが、家事は二人で分担している。弟は朝に弱い夜行性であったから、自然と麗音が新聞取りに行く担当になる。

 ある日、朝起きてポストを開けたら、新聞の上にA4サイズの紙が乗っていた。何のチラシかなと広げてみたら……。


『オワン 七ワン』


 大きな活字で、それだけ書かれていた。


「ね、意味わかんないでしょ? でもその時は暇人の可哀想な悪戯が入れたのかと思って、その紙は裏に下書きのメモに使って捨てちゃったの」


 その次の日、小包が届いた。

 入っていたのは、可愛いデザインながら、なかなか値が張りそうな食器セット。包装自体は明らかに普通の人が適当に巻いたようにみえた。

 それから次の週の朝ポストを見たら、新聞の上にまたA4の紙が乗せてあった。最初にきたのと同じような字で、


『オハシ 十四ホン』


 その次の日には、七人分のお箸セットが届いた。

 ここまではまだ応募したのを忘れていた景品でも届いたのかと思っていた。それから一週間くらい経った後、


『ホウチョウ 七ホン』


「物騒すぎるよね! しかもその次の日ホントに届いちゃったし!」


 ……麗音はさすがに気味悪くなって、弟に相談した。


「いいんじゃね? くれんなら病気と借金以外何でももらっときゃってよく父ちゃん達も言ってたじゃん」


 趣味の筋トレに耽る彼の反応は適当なものだった。


「……覚えてるでしょ? けど、その後どうなったのかは……うん、仕事の都合でなかなか帰ってこれなかったから知らないよね」


 その時、麗音は謎の郵便物事件を真剣に考えてくれない弟に若干腹が立ったが、確かにそれもそうかもしれないと大部分は弟と同意見だった。

 次の日届いた紙に、あんなことが書かれていなければ。


『シンゾウ ヲ ココノツ ヨウイシロ』

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