胸がでかければえらいのか?

ちびまるフォイ

大きくなっても小さいもの

「はぁっ!!」


襲い来る魔物を剣でなぎ払って倒す。

しかばねが消えるとファンファーレが鳴り響いた。


* パーティのレベルがあがった


* こうげきが1あがった


* ぼうぎょが1あがった



* バストサイズが1あがった




「……え?」


「ちょ、ちょっとなにこれ!?」


主人公よりも良いリアクションをしたのはヒロインだった。

振り返るとその視線は胸の谷間に釘付けとなった。


「胸が……でかくなってる!!」


男性は30代まで童貞だと魔法使いになれるというが、

実は20代を超えた段階で女性の胸を見るだけで、

そのサイズをぴたり採寸できる「解析(アナライズ)」ができるようになる。


「なんでレベルが上がるとバストも大きくなるのよ!」


「いや、これは確かにパーティの強さの底上げになるにちがいない」

「どこが!?」


「大きな胸を揺すって戦うヒロインを見たら、俺も頑張れる気がする」


「お前もはやヒロインをチアガール感覚にしか思ってないな」


「常々、お前の胸はまったいらで不満を持っていたんだよ!」


「私、巨乳なんていやよ!? ムダに疲れるし!」


「うるせぇ、魔物を狩ってもっともっとでかくしてやる!」

「や、やめてぇーー!!」


主人公は女性から嫌がられるタイプの亭主関白(笑)を振りかざし、

人々に危害を加える魔物も、加えない魔物も見境なく襲ってレベルを上げた。


その時の様子を見た人はのちに「血みどろ阿修羅」と表現した。



* バストサイズが1あがった

* バストサイズが1あがった

* バストサイズが1あがった

* バストサイズが1あがった

* バストサイズが1あがった



「ふはははは!! やはり大きいは正義だ!!」


経験値を得てレベルアップすることで、

ヒロインの胸はますますでかくなり服も入らなくなる。


「あんたのせいで何度鎧を買い換えればいいのよ!」


「いいんだぜ? なにも買い換えなくても?」


「死ね」


ヒロインはこのまま巨乳化されるのを防ぐべく村にいる占い師へと相談した。


「……と、いうわけで。なぜか私の胸がでかくなってしまうんです」


「お嬢さん、それは呪いですよ。

 あなたたちパーティには今2つの呪いがかけられている。

 どうやら魔王があなたが呪いをかけたんじゃ」


「どうしてそんなことを……?」


「魔王を倒せば大きな経験値が手に入るであろう。

 それがもし手に入ったら自分の身に何が起きるか想像して御覧なさい」


「経験値が入って、レベルがたくさんあがって……あっ」


ヒロインの脳裏には風船のように膨らんで爆発する恐ろしくもバカバカしい映像が浮かんだ。


「そうしてヒロインを暗に人質にとることで、

 これ以上の勇者の進行をさせまいと魔王が呪いをかけたんじゃ。おそらく」


「それじゃ魔王を倒すこともできないじゃないですか!」


「そのとおりじゃ。でも、魔王を許すことはできるじゃろう。

 魔王をこらしめて呪いを解いてもらえばいいのじゃ」


「ありがとうございます、おばあさん!」


ヒロインはやっと自分が救われる未来が見えたことで冒険に復帰した。


「さぁ、勇者。ちまちま魔物を狩ってないで、魔王を倒しに行きましょう!」


「どうしたんだ。前までは魔物の一匹狩ろうものなら

 『これ以上経験値をためないで~~』と泣きついていたじゃないか」


「私はこの世界の平和を望んでいるの。だから早く平和を取り戻した。

 そんな現代のジャンヌ・ダルクなのよ」


「……なにか企んでないか?」


「た、たくらんでないわよ? それにほら、魔王を倒せば大量の経験値が入るでしょう?

 そうすればもっとバストサイズが大きくなるわ!」


「なるほど! そうか!! それは行くしかないな!」


男は胸のことになるととたんにIQが低くなるという性質をうまく利用しヒロインは魔王へと誘導した。

主人公は意味なくレベル上げを繰り返した成果もあり、魔王のもとへは苦労せずに到着した。


「よくきたな勇者よ。さぁ、われの胸の中で……」


「うおおおおお!!!」

「ちょまっ――」


魔王を組み敷いた主人公はマウントポジションで、

何度も何度も画面に向けて拳を放った。


「勇者、ストップストーっプ!」


ヒロインはそのリンチとも取れる絵面にストップをかけた。


「どうして止めるんだよヒロイン。もうすぐ魔王が死にそうなのに」


「いや、ほら……魔王もまだセリフとかあるだろうし……。

 こんな一方的に勝ったらドラマティックじゃないでしょう?」


「たしかに」

「ちょっと私に話させてくれる?」


ヒロインは魔王に近寄って耳打ちした。


「レベルアップで私の胸がでかくなる呪いをかけたんでしょ?

 それを解除してくれたら、これまでのことは水に流してあげるわ」


「ほ、本当か……!」


「ええ、実は勇者ともそう話していたの。

 あなたも力の差は痛感したでしょう?

 変に抵抗せずに呪いを解いてくれればいいのよ」


「わかった、すぐに解除しよう……」


魔王はぶつぶつと呪文を唱え始めた。


これでやっとバカ重い荷物を下ろすことができる……。



「どりゃあああああ!!!」


安心したとき、勇者は瀕死の魔王に襲いかかった。


「ヌワーーッ!!」


完全に解除に力を使っていた魔王はふいをつかれて命を落とした。

ヒロインはあっけにとられていた。


「ははは、よくやったぞヒロイン。魔王を油断させてくれたんだな」


「な、なんてことするのよ!? 今解除の途中だったのに!!」


「解除?」


「この状態でレベル上がったらもう爆裂しちゃうわよ!!」


どこからかファンファーレが聞こえ、ヒロインは顔をこわばらせた。



* パーティのレベルが100あがった


* こうげきが100あがった


* ぼうぎょが100あがった



「……あれ?」


ヒロインは自分の胸を確かめると、サイズが変わっていないのに気がついた。


「やった! 変わってない! よかったーー!!」


ヒロインは大いに喜んだ。

占い師は魔王を倒せば呪いの影響があると言っていたが、

呪いは魔王の命が消えてしまえば自動的に消えるものだったらしい。


「ちっ、こんなことなら魔王を生かしておいておけばよかった……」


図らずも主人公の取った行動のおかげでヒロインは救われた。

村に帰ると、占い師が旅の無事を確かめるように待っていた。


「そうか、魔王を倒せば呪いも自動的に消えるんじゃな」


「はい、本当に良かったです。これ以上大きくなったらどうしようかと思いました」


「それで小さくなる方はどうなったんじゃ?」

「え?」


「言ったじゃろう。お主らにかけられている呪いは2つ。

 レベルアップのたびに胸が大きくなる呪いと、小さくなる呪いの2つじゃ」


「いや、私は胸が大きくなる以外はとくに影響はなかったですよ?

 いったい何がレベルアップのたびに小さくなっていたんですか」


かくして世界には平和が訪れた。



ただ、どういうわけか勇者はトイレに必ず1人で行くようになり、

風呂も常に誰にも見られない場所でタオルをきつくまいて入るようになった。

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