いざ殴り込み


「あのー、ここに騎士団の連中が集まってるって聞いたんですけど」

「なんだ、お前?」

「ここはお前のような若造が来る場所じゃない、帰れ帰れ」


 ラフィンはオリーヴァの街中央区にある騎士団領に来ていた。

 この領地は非常に広く、まるで城のような造りだ。領地内には養成所もあり、騎士団員が寝泊まりする宿舎も数多く建てられている。中に入るには正門を通るしかなく、現在のラフィンは正門の見張り二人と顔を突き合わせている状態だ。


 だが、当の見張りの方には取り合う気がまったくない。


「そーかい、んじゃ勝手にお邪魔するぜ」

「なに?」


 ちっとも会話が噛み合っていない。

 が、それも致し方ない。見張りの騎士にもラフィンにも、相手の話をまともに聞こうなどという気はないのだから。


 ラフィンは至極当然とばかりに騎士二人の間を無遠慮に通過する。だが、そこはやはり見張り――許すはずがない。ここで許してしまえば、何のための見張りだというのか。


「おいッ、貴様!」

「帰れと言ってるだろう!」


 騎士二人は慌ててラフィンに手を伸ばすが、その手が彼の身を捕らえることはできなかった。

 なぜなら、それよりも先にラフィンの姿が彼らの視界から消えたからだ。

 いったいどこへ――そう思った直後、彼らの意識は飛び、その場に崩れ落ちる。


「おっと、死んでねーよな……」


 素早く跳躍したラフィンが彼らの頭に飛び乗ったのだ。

 二人とは言え、成人に近い男性の身を首ひとつで支え切るのは難しい。それも突然のこと、支えようと力も入れられなかったために首に衝撃を受け、意識を遮断するに至ったのである。


 ラフィンはその場に倒れてしまった騎士たちの上から早々に降りると、傍らに屈んで軽く兜越しに頭を小突く。「うぅ……」と洩れる声を聞けば、その口からは安堵が洩れた。



 * * *



「お母様、どうでした?」

「ええ、話はついたわ。デュークに拒否権などない、野垂れ死なぬよう金を渡してやったのだからよいと思ってもらわねばな」

「まったくです、本来ならばあのような欠陥品に一銭たりとも出したくはないものですが……母上もお優しいですわね。まあ、金で厄介払いができたと思えばいいか」


 騎士団領地内にある訓練所では病院から戻ったシェリアンヌの元へ、エリシャとハンニバルが顔を出していた。彼ら三人の顔には、いずれも厄介事が片付いたことへの安堵が滲んでいる。


 ハンニバルは母の返答に両手を合わせて鼻歌を歌いながら上機嫌に軽くステップなぞ踏み、エリシャは穏やかな面持ちで母を労わった。


「シェ、シェリアンヌ様! 大変でございます!」


 そこへ、一人の騎士が血相を変えて飛び込んできた。

 ここは訓練所にあるシェリアンヌの私室、本来ならば部屋の主と彼女の子であるエリシャとハンニバル以外は立ち入ることは許されていない場所だ。


 泡を食って駆け込んできた騎士にエリシャとハンニバルは同時に武器を引き抜き、彼に切っ先を向けた。


「無礼者! 母上の許可なく、何の真似だ!?」

「も、申し訳ありません! ですが……何やらおかしなやつが侵入しまして……」

「おかしなやつ?」

「は、はい! 訓練をしていた新入り五十人が全滅です! すぐに来てください!」


 その報告にエリシャはハンニバルと顔を見合わせると、一旦武器を収めてから急ぎ足で部屋を後にする。

 シェリアンヌは何かしら思案するように暫し黙してはいたものの、娘や息子に遅れること数拍――その後にゆっくりとした足取りで訓練所中心部へと向かった。



 * * *



「こ、これは……!?」


 エリシャとハンニバルは行き着いた訓練所中心部で、思わず驚愕に声を洩らしていた。

 だだっ広い訓練所内には、つい先ほどまで戦闘訓練に励む新人騎士たちがいたはずだ。今年入ったばかりの者たちではあったが、このオリーヴァにはエリートの守護者ガーディアンが揃っている。新人であろうと、それは決して例外ではない。


 だと言うのに、その期待の新人五十人は誰もが皆、固い床に倒れ伏せて苦悶を洩らしていたのだ。


 ――ただ一人、彼らの中心に立つラフィン以外は。


「な、何者だ、あの男は……」

「お、お母様! 早くこっちに! あの男が、そのおかしなやつだそうです!」


 エリシャは呆然と彼を見つめ、ハンニバルは遅れてやってきた母を振り返って大慌てでラフィンを指し示す。だが、シェリアンヌは動揺など微塵も見せることなく視界に彼の姿を捉えると、その口元に嘲笑を浮かべた。


「……先ほど見た時に単細胞だろうとは思っていたが、どうやら私の勘は当たっていたようだな。貴様、このようなことをしてタダで済むと思っているのか?」

「よお、オバさん。勘違いすんなよ、この騎士団のレベルがかなり高いって聞いて興味持っただけだからさ」

「なに?」


 シェリアンヌは、彼がデュークの件で殴り込みに来たと思ったのだ。だが、ラフィンはそうではないと言う。もっとも、それは建前なのだろうが。


「けど、どうやらデマだったみたいだなぁ。アンタのご自慢の騎士団ってこの程度か? 情けないねぇ、束になっても俺に傷ひとつ付けられねーとはな」

「貴様……ッ! もう一度言ってみろ!」

「おお、何度でも言ってやるよ。自分が腹痛めて産んだガキを捨てちまえるやつの騎士団は心がなってなくて弱いですねぇ、ってな」


 エリシャはその顔に抑え切れぬ怒りを滲ませて再び剣を引き抜くと、その切っ先をラフィンに向けた。それ以上言えば容赦はしない、と威嚇の意味を込めて。けれど、当然その程度でラフィンが黙るわけがない。続く言葉を聞くなり、エリシャとハンニバルの両名は同時にラフィンに襲いかかった。


 母を侮辱するこの無礼者を手討ちにしなければ気が済まなかった。

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俺の親友がジジイ神のワガママで♂♀にされたからぶっ飛ばしに行ってくる mao @angelloa

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