人を突き動かすもの
カルミヌスを鳥かごに戻すと、彼女は泣き疲れたのか、そのまま横になって寝入ってしまった。
朝日が眩しそうだったので、僕はシルクベールを鳥かごに掛けて、小屋に戻ることにした。
海岸から小屋まで繋がる坂道をしばらく歩いていると、遠くに見える小屋の前に馬が繋がれているのが見えた。
美しいシルバーの毛を持つ最高級の馬。
ルバスタン、現司教様の馬だ。
心臓が早鐘を打つように脈打つ。
背筋がぞっとするような感覚とともに汗が噴き出す。
このまま小屋に入るわけにはいかない。
僕は深く呼吸をして、足を止めて遠くの山々を眺めながら小鳥たちのさえずりに耳を傾けた。
坂道を登るうちに次第に落ち着きを取り戻してきた僕は、最後に小さく息を吐き出してから小屋の扉に手をかけた。
扉を開く時に、まくし上げていた袖の付近のエメラルドグリーンの鱗が目に入り、僕は慌ててそれを隠した。
再度深呼吸をし、ゆっくりと扉を開くと、白とシルバーと黒の美しい礼服が目に飛び込んできた。
その人は、正面の作業机に座って、僕が作ったガラスのワイングラスを右手に掲げ、窓から射す明かりに透かせて眺めていた。
僕が入ってきたのに気がつくと、こちらに目を向けて「鍵が開いていたものでね。中で待たせてもらったよ」と、グラスを机に置きながら言った。
僕は、気がつかれないように入り口の脇に設置された棚の端に鳥かごを置き、来客用のスツールに腰を下ろした。
「今日は何の御用ですか」
「今日は、私の言ったことが大げさなことでも神を裏切る行為でもないということを、君に伝えるためにここに来た」
ルバスタンは足元に置いていた書類カバンから書類を取り出して僕へと渡した。
鳥かごのことは気にも留めていない様子だ。
書類には、今回の風邪にまつわる統計や症例がびっしりと書き込まれている。
この風邪の特徴は、軽微の風邪症状が数日続いたのちに、いきなり高熱が発症する。そして、皮膚が青みがかっていき、夜のうちに眠るようにして患者は息を引き取るのだ。
死亡したあとの皮膚は、通常の色へと戻る。
高熱を発症した患者の致死率はおよそ10人中4人。
噂には聞いていたが、信じられないほど殺傷能力の高い風邪だ。
ウルグ村からそう遠くない山間の村では、この二週間で、およそ50人ほどがこの風邪と見られる症状で命を奪われ、国の衛生部は村ごと隔離を検討しているとのことだった。
今のところ、有効な薬は見つかっていないと記載されている。
ウルグ村では、二週間ほど前に初めてこの風邪の症状の患者が出たのだが、あっという間に6人の遺体が運ばれてきた。
6人目の死者である少女が運ばれてくる2日前に、ルバスタンは僕の小屋を訪れて、こう言った。
「私が君に頭を下げに来たと言ったら、君は驚くだろうね」
珍しく、ルバスタンはバツが悪そうに笑みをこぼしながら、少し疲れた様子で、そう言った。
「この風邪は普通の風邪ではない。このまま放っておけば、死者は増えるばかりだ。私は隔離施設を作ろうと思っているが、整備にはまだ数日ほどはかかる。そこで君に、お願いがあってやってきた」
青く神秘的に光る眼差しで僕のたった一つの目を見つめていた。
「僕に何かやらせるつもりですね」
僕は答えた。
「この悪い風邪の感染の疑いのある者に、これを飲ませて欲しい。君にしか頼めない」
ルバスタンは、ガラス瓶に入った薄緑色の透き通った液体を僕の目の前に掲げた。
その液体は、まるで南国の海を瓶詰めしたかのように美しい色をしていた。
「毒物ですか。おそらくシャラバーハですね。摂取してから数時間後、眠るようにして人は死に至る」
本で見たことがあるだけで、実物は見たこともない劇薬だ。たった数滴でほぼ確実に人の命を奪うと言われている。
だが、医学館になら、あってもおかしくはない。
シャラバーハの中毒で死に至る過程は、今回の風邪で死に至る過程と似ている点がある。
隔離施設がない今、この風邪が医学館の中で広まってしまうことを防ぐために、疑いのあるものを”殺す”、おそらくそういうことだ。
「どうして僕なのですか。他に頼める人はたくさんいるはずです。今のあなたの言うことを聞かない人など、表にも裏にもほとんどいないでしょう」
「一つは、医学館の修道士たちと患者を接触させたくない。医学館の修道士たちは、この先、より多くの助けられる命を助けていく人間だ。
もう一つは、君以上に信頼できる人間がいない。人は弱みを握れば利用してくる生き物だ。この決断は、信頼できる人間にしか頼めない。君がこの任務を遂行してくれたなら、修道士として医学館へ迎え入れようと思っている」
ルバスタンの声は静かで、そして何故か、慈しみ深く感じた。
「お断りします」
僕は考える間もなく即答した。
「人の命は、人の人生は、人が奪うことは許されない」
ルバスタンはその言葉を聞いて、微笑を浮かべた。
「そうだ。そのとおりだ。人が奪うことは許されない。しかし人は、人の命を奪う。人だけではない。多くの命を奪いながら生きている。戦争で罪のない人間を殺し、正義の名のもとに犯罪者を見せしめに殺す。そして、毎日、生きるために動物たちを殺し喰らいながら生きている。それは全て罪であり許されないことか? 私はそうは思わない。人は生まれながらに、命を奪う宿命を背負っている。命を奪い続けて生き抜いてきた私たちの命だから、大切なのだ。私たちの命を守るために多くの兵士の命が犠牲になっている。私たちの命は、犠牲となったさまざまな命の結晶だ。だからこそ、犠牲となる命と生き残るべき命を見極めなければならない。生き残るべき人を助けるために、人の命を奪うこと、つまりそれは、私たちが生きる上で背負っている宿命なのだ」
落ち着いているが力強さを感じる演説。
崇高で、聡明で、それでいて人の心を惹きつける情熱。
ルバスタンの演説には、いつも髪の毛ほどの隙もない。
悔しいけれど、何もかもが、彼の言うとおりだと思えてしまう完璧な論理性を備えている。
僕たちの生活と命を守るために、徴兵された人たちは、何の罪もない敵国の兵士を殺さなければならない。
綺麗ごとなどは許されず、やらなければ自らが死ぬしかない。そういう人たちに、僕たちの暮らしは守られて生きている。
「君に、人々の命を守る英雄となれるチャンスを与えたいということだ」
ルバスタンは、対面に座る僕の膝の上に置かれた手に自らの手を重ね、そしてそれに力を込めた。
いつも見下ろすようにして僕に言葉を投げかけていたルバスタンの瞳が、初めて、ちょうど僕の目の高さと、同じ高さで揺らめいていた。
とても力強く情熱的な眼差しだった。
僕はいたたまれなくなり、その眼差しから逃げるようにして視線を外した。
「僕は、英雄になどなれません。自分が生きるために鳥の肉を喰らいながらも、傷ついた小鳥を見過ごすことができずに、夜通し様子を見続けてしまうような矛盾に満ちた人間です。綺麗ごとです。僕の言っていることは。そんなことは、もうずっと前から分かってる。けれど僕は、この弱くて醜い僕は、自分が綺麗な人間でありたいと願ってしまうんです。英雄になどなれなくて構わない。僕は、心だけは、けして醜くなりたくはないのです」
僕がそう言い終わる前に、ルバスタンは僕の手を離し持ってきていた手提げ鞄を手にして立ち上がった。そして、そのまま振り向かずに玄関の扉に手を掛けた。
「私も、君と同じだ。心だけは、けして醜くなりたくないと思っている。運命を呪いながら生きるのではなく、宿命に立ち向かい、この手で世界を変える。そのために手段は選ばない。君に何度否定されようとも、この決意だけは揺るぎない。あの日、目の前で無実の母を処刑された日に、私は、そう誓ったのだ」
ルバスタンの声は震えていたが、後ろ姿なので、どんな表情をしているのかは分からなかった。
もしかして、泣いていたのかもしれない。ふとそんなふうに思ったが、すぐにその考えは消えた。
いや、きっと怒りだ。悲しみではなく、怒り。
ルバスタンの言葉の裏に、いつも巧みに隠されている鮮烈な印象の正体、それが「怒り」なのではないかと、この時初めて気がついた。
そして、その鮮烈な印象を残したまま、ルバスタンは出て行った。
それが、一週間と数日前の出来事だった。
僕はあの時のやりとりを思い出しながら、一通りの報告書や、研究論文などを読み終え、顔を上げた。
「確かに、思っていた以上の被害ですね」
「幸い、隔離施設が出来上がったおかげで、このところ村で新たな感染者は出なくなった。新たな死者も、ここ数日は出ていない」
今日のルバスタンの言葉は、あの日とは対照的にとても淡々としていた。
「はい。そうですね」
「しかし、恐れていたことが起こった」
ルバスタンは、淡々と事務手続きをするような声で続けた。
「隔離施設で対応に当たっている修道士たちに感染が広がってしまった。重篤な修道士もいる。数日で死者が出るだろう。隔離施設の対応に新たな修道士を派遣することは、賢明ではないと考えている。もはや、隔離施設の修道士たちを助けられる術はない」
そこまで言うと、ルバスタンは息をすうっと吸い込み、間をあけてこう言った。
「私は、彼らを見殺しにするつもりだ」
その言葉を言い終わってから、ルバスタンは恐ろしく長い間、次の言葉を発さずに黙り込んだ。
僕は、一週間ほど前のやりとりを思い出していた。彼女と出会う、ほんの数日前だ。
今も、あの時と自分の考えには変わりはない。
誰かを生かすために、犠牲になって構わない命などない。
命を天秤にかけることは、許されない。
しかし、こうも思っていた。
あの時、この村の感染者を全て僕が毒殺していたら、隔離施設が作られることも、そこへ修道士が派遣されることもなかったのではないか。
僕は、感染者数人の命を救う代わりに、結果的に、失われなくてよかった人たちや、修道士たちの命も奪ったのではないか。
結果的に、命を天秤にかけたのか。
これは、エゴなのか。
人の命を、自分は平等に扱っている、正しい行いをする人間であるという、エゴなのではないのか。
あの時、こうなる未来を、想像もしていなかったか。
いや、この風邪の異様さに、僕はすでに気がついていた。この風邪の患者が村で出てから死者が出るまでが、あまりにも早く、そして多すぎる。
何とかしないと大変なことになる、そう思っていたはずだ。しかし、何とかするのは自分のような何の力もない人間ではない、自分が何かしたところでどうにもならない。
どこかで僕は、そう思って、事の重大性を考えようとしなかった。
その時、棚の上のシルクのベールで覆った鳥かごの中から、パシャンと音がした。
そんなに大きな音ではない。
カルミヌスがいると知らなかったら、水の爆ぜる音だと思う人間はいないだろう。
僕は心の動揺を表に出さないように努めて、ルバスタンの顔を覗き見た。
ルバスタンの表情に特に変化はなく、考え事を続けているような表情を浮かべていた。
「もう一度、君があの時に戻れたら、私が君に感染者たちを神の元へ送り届けて欲しいと依頼したあの日に戻れたら、君は何と答えるだろうかと、考えていたんだよ」
ルバスタンは僕の視線を感じたのか、ようやく口を開いた。
「きっと君は、同じ答えを述べる。それが私の結論だ」
僕はゆっくりと頷きながら「はい」と答えた。
心に燻った疑問と迷いを、自ら打ち殺すように、目を閉じて深く頷いた。
「憎しみが、人に人を殺させるわけではありません。大切な友人の命を奪うことになった時に、僕は気がついたのです。人が人を殺すたった一つの理由、それはいつも自分の中にある揺るぎない”正義”と呼ばれるものに因るものなのだと」
そう言い終わると同時に、ルバスタンの顔を見上げると、その青い瞳には感嘆の色が宿っていた。
「同感だ」
溜め息を吐くように、彼は答えた。
「近く国は、感染者の多い村に対し、人の行き来を禁止する隔離措置を執行する。これには、港への船の入出港も含まれる。有力筋の話だ。まず間違いない。その資料にある50人の死者が出た村は、運悪く昨年は作物が不作で、備蓄がほとんどない。流行が長引けば、村民全員が餓死をする可能性がある。私たちの村も立場はほとんど同じだ」
僕は耳を疑った。
「そんな…国が本当にそんな決定をしたと言うのですか?それでは、農作物が豊かでない村を、見殺しにすると言っているようなものです。そんな非人道的なこと、公の機関がするわけがない」
「非人道的?隔離施設もなく、人々の命を奪う恐ろしい悪魔を宿した人間がそこら中に溢れ、幼い子供が次々と死んでいく。それを知っていながら何もしないほうが非人道的だということが、なぜ分からない?
これは、国の有事なのだよ。私たちは命の選別を受けたということだ。都市部を守るために、選別を受けた。私は、この仕打ちをけして忘れることはない。無力な者は大切な人の命を奪われる宿命にある。政治のもとで、人の命はけして平等ではない。私は、力を手に入れる。誰もが恐れる力を手に入れ、そして大切なものを、けして簡単には奪われることのない世界を作る」
淡々と話していたはずのルバスタンの声色は、いつの間にか、あの日と同じ熱を帯び始め、立ち上がり、僕を見下ろしていた。
「そのために、罪のない人の命を奪うことは、あなたが憎んでいる人たちのしていることと、何が違うのでしょうか」
僕はその剣幕に怯えながらも、背後でこの会話を聞いているであろう彼女を心配させまいと、必死で平静を取り繕いながら言葉を発した。
「何も違わない。私は私の守るべき正義と守るべき人間のために生き、彼らは彼らの守るべき正義と守るべき人間のために生きる。
しかし私は、私のほうが正しいことを知っている。
くだらない迷信で人が裁かれ、処刑されるこの世界は間違っている。
差別と偏見にまみれ、家柄で職業が決まるこの世界は間違っている。
科学と医学は否定され、宗教と政治が崇められるこの世界は間違っている。
世界は平等ではない。平等ではないから、私の信じるものを軽視させない力を手に入れるのだよ、アジュア」
両腕を大きく広げたルバスタンの握り締めた右の拳は、燃え盛る炎のように真っ赤に染まっていた。
「私は、君が間違っていたことを、証明してみせる。そして、その時になって君は、君がただ現実の残酷さと闘うことから逃げながら生きながらえる、醜い心の持ち主であることを、認めるのだ」
ルバスタンは、棚の上にある鳥かごを一瞥しながら「今日は、遺体が増えることを伝えに来ただけだったのだが、長居してしまったね。失礼するよ」と言って、出て行った。
僕はしばらく何もできずに座ったまま考え込んでいた。
どのくらい経っただろうか、カルミヌスが僕を呼ぶ声で我に返り、鳥かごのほうを振り返ると、シルクベールの隙間からカルミヌスが心配そうにこちらを見ていた。
「アジュア…大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。うるさくてごめんね。起こしちゃったね」
僕は立ち上がり、鳥かごからシルクベールを取り払って、彼女の所定の位置となっている作業机の上に鳥かごを移動させた。
「あの人、朝、アジュアが描いていた人ね」
カルミヌスは、囁くように言った。
「ああ、そうだよ」
僕も、ほとんど独り言のように小さな声で答えた。
「あの人も孤独な人なのね。私たちと同じように」
カルミヌスは、そう言ったきり、僕たちの会話について言及することはなかった。
その夜に、3人の遺体が運ばれてきた。そのうちの一人は医学館の修道士だと村人が教えてくれた。
「この村に悪い風邪が入ってきたのは、あの司教様が建てた医学館のせいだ。司教様は昔と変わった。医学館の成功で思い上がり、私たち村民の命になど関心はない。感染が広がるのを見て見ぬふりで何もしようとしていない」
村人の一人がそう吐き捨てるように言った。
人の心は移ろいやすい。
信じていたものに裏切られたと思った時、復讐心という名の獣が、信じられないほどの速さで、抱えきれないほど大きく膨らみ、鋭い牙を剥き、積み上げてきた信頼という血肉をいとも簡単に喰らい尽くす。
そこに残されるのは、巨大な闇だ。
飲み込まれたら二度と這い出せないほどの、闇。
人を激しく突き動かすもの、それはいつも希望よりも絶望。
愛情よりも憎悪。
尊敬よりも嫉妬。
分かってはいた。
だけど僕は、それを受け入れることができない。
自分だけは、他の醜い人たちと同じではないのだと呪いの言葉のように言い聞かせ、生きてきた。
本当は、どうなのか。
自分でも、分からない。
醜く、自分勝手な感情のまま、ありのまま、まるで普通の人のように生きることが、
ただ怖いだけなのかもしれない。
生きる価値もないと誰かに言われ、自分でもそうだと受け入れてしまわなければならなくなることが、ただただ恐ろしい。
醜い肉体に醜い心が宿っていたとしたら、僕は僕が本当に醜いのだと認めなくちゃならない。
醜く、生きていても仕方のない、無価値な存在なのだと。
遺体を洗い終え、作業部屋にある寝台の上に腰掛けた。
夜も更けて、夜の鳥たちが鳴いている声が遠くから聴こえていた。
カルミヌスはもう寝ているだろうなと思って、横になろうと思った時、歌声が聴こえた。
“泣かないで、愛しい人よ
悲しまないで、愛しい人よ
泣かないで、優しい人よ
苦しまないで、私の大切な人よ
強くあろうとしないで、愛しい人よ”
寝台から彼女の表情は見えなかった。
暗闇の中に浮かぶ燭台の灯りが、こちらに背を向けた彼女の後ろ姿が浮かび上がらせていた。濡れた栗色の髪が照らされて、キラキラと輝いて見えた。
その栗色の髪の間から、小さな白い肩が覗いていた。
後ろ姿だけでも彼女は、とても美しい。
心臓が掴まれたように、どくんどくんと脈打つ。衝動のようなものが足元からじわじわと這い上がり全身が飲み込まれそうになる。
心がズキンと痛み、それが滲んで広がる。
歌詞の中の<愛しい人>が、僕のことなのかは分からなかった。
彼女に尋ねてみる勇気もなかった。
しかし僕は、言葉にならない感動を覚えた。
「明日、僕のとっておきの場所に連れていくよ。必ず」
恥ずかしさで、口早にそう言って横になり布団をかぶった。体は熱を帯びて震えていた。
「約束よ。アジュア、おやすみ」
カルミヌスの透き通るような声が聞こえた。
心臓が高鳴り、寝付けそうもなかった。
永遠に続いてしまうかと思うほど長い夜が始まる予感とともに、目を閉じた。
人が死んだ夜に、人の死体が並ぶ部屋の隣の寝台の上で、僕は幸福で満たされていた。
僕は偽善者だ。
窓に浮かぶ夜の深い青の美しさとともに、その言葉が、心に刻印されたような気がした。
ただ彼女に愛されるなら、正義なんていつでも捨ててしまえそうだった。
正義なんて、どうでもいいものかもしれないとさえ、思えた。
彼女が望めば、この世の全ての人の命を奪ってしまえそうな気さえした。
人を激しく突き動かす最も恐ろしいもの。
それは、絶望でも憎悪でも嫉妬でもない。
全身の細胞の隅々までを焦す、狂おしいほどの恋。
生涯にたった一度の、恋だ。
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