栞と魔導書
本は、おずおずと近寄ってくると茜の視線に合う高さまで舞い上がった。そして、とあるページを開く。
栞もまた、茜と共にそのページを見ている様子で言った。
『これは、この本と契約した人間の署名やないか。どれどれ……、
「待って、栞さん。この子、まだ何か言いたそう」
茜は言って、ページをじっと睨むようにして見つめる。そして言った。
「このフブキカイトって文字の下。何度も横線で消されてるけど、別の名前が書いてある」
茜のその言葉に、本は何度も頷くように上下に揺れる。
「横線が邪魔で見づらいけど……
その言葉に、再び本が上下に揺れる。茜は本に向かって言う。
「それじゃああなたが探してるのは、宙斗って人なんだね」
本は、嬉しそうにくるくると彼女の頭上を回る。すると、クローバーの栞が言った。
『事情は分かった。とりあえず、その宙斗っちゅうヤツのところへこの本を渡しに行けばええんやな。全く、面倒ごとが一つ増えてしもたわ。……で、ワイは茜に聞きたいことがあるねん』
「何ですか」
『どうして、急にこのゲームをまたやりたいと思ったん? クリアしてから数年、そのままやったのに』
「え……、急にゲーム屋に寄って帰りたくなったので寄ってたら、そこに本さん含め、ゲームの付属品だった数々があって……。懐かしくなったので、つい部屋から引っ張りだしてきただけですけど」
『……自分、感動もへったくれもないこと、言ってくれるなぁ』
栞は悲しそうな声を上げると、続ける。
『まあ、不純な動機だったとは言え。そのおかげでこの世界に来られた。アンタには感謝せなアカンな』
「私からも質問いいですか。……私は、どうしてここへ来たんでしょう。私はただ、ゲームで遊ぼうとしていただけだったのに」
すると、栞は言った。
『自分、このゲームの内容、覚えてるか?』
「はい、覚えてます。とはいっても、最後にプレイしてから数年経ってますから、うろ覚えの部分も、もちろんありますけど」
『どのくらい覚えとる? 言うてみ?』
彼女は、数年前の記憶をたどりながら、ゆっくりと話し始める。
「えっと……、確か……。ゲーム大好きな主人公がある日買ってきたゲームが、一流の魔法使いになるために奮闘するRPGで。それをやっている最中に、主人公の中に眠っていた魔法使いになる素質が目覚める。ゲームの中、もとい魔法使いの世界へとやってきた主人公は、ゲームの付属品である魔導書や、魔法瓶、召喚石、杖、そのほか魔法使いとして必要なものを使いこなしながら、一流の魔法使いを目指していくんですよね」
『その通りや。そして、その物語には続きがあるんや』
栞と本は、ふわふわと浮いている。栞は、ぴょんぴょん跳ねながら言った。
『聞いて驚きなや。今のゲームのあらすじが、そっくりそのままノンフィクションやねん』
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