ゲームの世界へ

見覚えのないトランク

 茜は、噴水の近くのベンチに腰掛けた。風に乗って噴水の水しぶきがかかる。少し涼しい。


 彼女の傍らには、大きな大きなトランクがあった。普段の彼女なら、インテリアとして部屋に置たがりそうな革製のトランクだ。真ん中にくぼみがある。茜は、そのくぼみの形に見覚えがあった。


 突然、彼女の懐からゲームの付属品だった本の表紙についていたメダルが現れ、トランクにさも当たり前のように収まる。すると、トランクの留め金が外れる音がした。


 茜は、自分の座っている隣にトランクを置くと、中身を調べ始めた。中には、ゲームの付属品だった本、杖、石、瓶、そして自分がゲームの中で集めていた小型のランタンや、ホウキ、色々な効能を持った袋やマント、リボン、たくさんの髪飾り、ベルトその他様々なものが収まっていた。そして、今日ゲーム屋で手に入れた、別の誰かの持ち物だった本、杖、石、瓶なども、その中にあった。


 誰かの持ち物だったはずの本の、本来ならメダルが収まっていたはずの場所。そこが、青白い光に包まれていた。茜はそっと、本を持ち上げた。すると、本はまるで見えない糸で引っ張られるかのように、空中をふわふわと浮遊しながら進み始めた。茜は慌てて立ち上がって、本の後を追いかけ始めた。


♢♦♢♦


 その頃。とある場所の一室にて。薄暗い室内の中で、部屋に置かれた鏡だけが、室内唯一の光源となっていた。鏡には、空中を漂う本を追いかける茜、そしてそれをなぜか勝手に追いかけるトランクの姿が映し出されている。


 部屋には、一人の人物がいた。フードをかぶっていて男なのか女なのか、よくわからない。その人物は、鏡に映る茜の姿を見つめていた。そして、独り言をもらす。


「……今回の外部からの招待客は、二人で間違いないのかなぁ。本が求めた結果だ。どの招待客もこの世界に呼ばれた理由が少なからずあるとは思うけど……」


 その人物は、鏡を見つめながら続ける。


「じきにもう一人の招待客と出会うかな。前みたいに相性が悪かったりしないといいけれど……」


 フードの人物の声は、鏡の中に吸い込まれていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る