リリム


 今までの妾の気持ちを一言で表すなら――退屈。


 そう、妾は退屈だったのだ。


 何をするにしても活力が起きず、例え新しい事を見つけても、直ぐに興味を失い、飽きてしまうのだ。


 だが、主人に出会ってからそんな気持ちは、なくなったのだ。


 正直召喚の呼び掛けに応えたのは、例え一時でも、この退屈をなくせるのならばと思ったからなのだ。


 視界が捉えたのは、一人の男だったのだ。


 顔付きは整っていたが、なんか弱そうで頼りなさそうだと思ったのだ。


 だから妾が自分の強さを示したら、この男、なんと妾を子供呼ばわりしたのだ!

 妾はを子供扱いするとは失礼なのだ!

 妾は、立派なレディだと言うのに!


 ……でも、妾に向かって堂々とモノを言う奴は、初めてなのだ。


 ……まぁ正直、今まで一人だったから、話しをする相手なんて居なかったから当たり前なのだが、そんな些細なことは、どうでも良いのだ!


 この男ならば、妾を退屈から救ってくれるかもしれない。そう思ったのだ。


 そしてそれは、案の定だったのだ。

 

 これまでの自分の生活が嘘だったかのような日々だったのだ。


 何かを歌うように鳴く小鳥達。

 街を笑顔で駆けまわる子供達。

 屋台でジュウジュウと肉を焼く音や香り。


 視界に入るどれもが妾にとって初めての光景で、尊いとさえ感じたのだ。


 そして、料理はどれも絶品だったのだ!

 今まで食事をしなくても生きていけたから、初めての食事という事で、余計にそう感じたのだ!


 特に、はんばーぐと言う食べ物は、ヤバイのだ。

 あれは妾の大好物になったのだ!


 ただし、ピーマン。アイツはだめなのだ!

 口に入れた瞬間、苦味しか感じないではないか!

 あんなのは食べ物ではないのだ!


 幼馴染や友達とやらで、この男の周りは、いつも賑やかで、妾自身も、姿を現す事が出来なくとも、それを見て、退屈しなかったのだ。


 だからこれからもこの男――いや、主人と共にいたいと、そう思った矢先の事だったのだ。


 迷宮で己の力を過信しすぎ、まんまと魔物の罠にはまってしまったのだ。


「……リリム……ごめん……こんな事になって」

「全くなのだ!」

「……そこは気にするなとか言って慰めるべきじゃない?」

「何を馬鹿な事を言ってるのだ!こんな状況になったのも、少し強くなった程度で調子に乗った主あるじ達のせいでは無いか!」


 まったく!主人が馬鹿な事言うからつい怒ってしまったのだ!

 本当は、もっと色々と言いたい事はあるのだ。

 けど、この状況で全てを話すのは無理なのだ。

 ……でも、この気持ちだけは、伝えるのだ!


「……この四ヶ月間、妾は楽しかったのだ」




 それから、数分も経たないうちに主人は、生き絶えてしまったのだ。


 このまま妾も消えるのだろうか……。


 そう思った時、不思議事が起こったのだ。


 なんと、主人の身体の欠損部分から骨が再生し、肉がウネウネと生成され始めたのだ。


 正直気持ち悪いのだ。


 我に返った妾は、とにかくこの場から離れようと、主人を抱え十階層に戻ったのだ。







「……」


 召喚者である主人が死んでしまえば、妾も消滅してしまう。


 人間の死と違って妾達、『悪魔』や『天使』の消滅は、元いた場所に帰るだけなのだ。


 でもそれはつまり、また何もないところで一人ぼっちになってしまうと言う事なのだ。


 主人が死んだ時、妾も自らの消滅を覚悟していたつもりだったが、どうやらそれは虚勢だったのだ。


 本当は、嫌で嫌で恐ろしかったのだ。


 思えば妾は、寂しかっただけなのかもしれない。

 だからこそ何をやるにしても活力が湧いてこず、退屈だったのだ。


 そんな時に主人が召喚してくれたおかげで妾は、救われたのだ。


 だからもうあの頃に戻るのは嫌なのだ!だからお願いなのだ!目を覚ましてくれ主人!妾は、まだ、主人と居たいのだ!


 すると願いが届いたのか、主人の目元がピクリとも動いたのだ!


「主人!...…主人!」

「うぅ……ん……」

「おぉ!気が付いたのだな主人よ!」


 良かった。本当に良かったのだ!

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