ロングホームルーム

  教室に着いた俺は、エリナ達が居る席へ向かい隣に座る。すると何故かケインが俺の後に続いて俺の隣に座った。


 席は五人で一席の長机となっていて、左から、リゼ――エリナ――マルコ――俺の順に座っていて、ケインが来た事で俺達の座っている席は満員になった。


 ケインは俺の隣に座るなり他の面々に自己紹介をし始めた。








 互いが互いに自己紹介をした後は、入学式の時のように会話に華を咲かせていた。



 其れからしばらくすると、ガラガラと教室のドアが開き一人の女性が中へ入って来た。


 彼女はそのまま俺達やクラスメイトに見向きもせず、真っ直ぐ教壇の所まで向かい、着いたところでようやく俺たちの方へ視線が向く。


  「私がこのクラスの担任となったヴァイオレットだ。皆んな宜しく」


 そう言ったヴァイオレット先生は、俺達と五六歳くらいしか離れていない、非常に若い女性だ。


 紫色の長髪を後ろに縛って纏めていて、黒縁の眼鏡が似合っており、スーツも皺が一つも見当たらないくらいしっかりと着こなしていて、如何にも仕事が出来そうな見た目をしている。


  「さて……私の話といきたい所だが、恐らくここに居る殆どの者が初対面だろう。だから先ずは自己紹介だ。という事で……えーと、ケインだったか?まぁお前は新入生代表挨拶の時に自己紹介はしたと思うが、改めてお前から順に自己紹介を始めてくれ」


  「分かりました」


 指名されたケインは返事と共に席を立つ。


  「ケインです。宜しくお願いします――」


 順番的に次は俺の番か……


  「女神様から『三枚羽』の加護を授かりました!」


 ――は?何言ってんのこいつ?別にそんなこと言う必要ないよね?


  「ほぉ、『三枚羽』か。流石新入生代表だな。さて、次は……」


 なんか先生も興味持ちはじめちゃったじゃん!うわぁどうしよう、「俺、『紋無し』です」なんて言えるわけないじゃん!でもこれ、言わなきゃいけない流れになってるよね!?いいの言っちゃって!?良いんだね!?


  「アルスです。宜しくお願いします。」


 良いだろう言ってやろうじゃないか!後で聞いた事を後悔するからな!


  「俺は――」












  「うむ、これで全員自己紹介したな、改めて皆んな宜しく!」


 多少トラブルはあったものの、その後はつつがなく自己紹介を終えた。


 トラブルの原因は俺が『紋無し』である事とエリナが『五枚羽』である事だ。


 案の定俺が『紋無し』だと知った瞬間、見て取れるくらいに皆動揺していた。幸いにも同情する様な視線はあったが、見下すような視線は一切感じなかった。ケインなんかは、自分の発言でまさかこうなるとは思っていなかったらしく、少し申し訳なさそうにしていたが、直ぐに気を持ち直し俺にだけ聞こえる声で「別に同情なんてしないからな」と言ってきた。


 そして俺以上に周囲を驚かしたのは、エリナだ。エリナが『五枚羽』と知ると、歓喜する者など、男子なんかは、エリナの美貌も合い間って、顔を赤くしていたりして、俺の時とは真逆の反応だった。


 そして面白かったのがケインの反応だ。まさか自分の近くに自分以上の其れも『五枚羽』の加護を授かっている者がいるとは思いもせず、ぽかんと呆気に取られたのか、しばらく口を開けたまま固まっていた。


 それにしてもこいつ、俺の時といい結構表情が豊かだよなぁ。


 因みに、マルコとリゼは『二枚羽』だった。


  「では今から皆んなに配る物があるから配ってくぞ!」


 そう言って先生は皆んなに何かを配っていく。


 其れは、縦6センチ横4センチほどの鉄の板で板の上辺には小さな穴があり、其処からチェーンが通っていて、見た感じだとネックレスみたいだ。


 これを見るのは決して初めてではない。


 俺の父さんや母さん、エリナの両親など成人を越えたほとんどの者がこれを身につけている。





 全員の手元に渡されたのを確認した先生は説明し始めた。


  「これはステータスプレートと言って……そうだな、皆んな試しに其れに魔力を注いでみてくれ」


 そう言われて俺は、恐る恐るステータスプレートに魔力を注ぐ。すると……



 ================================================


 アルス (人族) Lv 5


【体力 】 500


【魔力 】 250


【技能 】 《????》 《?????》


 ================================================


 ステータスプレートから何やら文字や数字が浮かび上がった。


  「ステータスプレートってのは言葉通り、自身のステータスを表示する物だ。名前の隣に記されてるレベルが現状のお前達の強さを表していて、そのレベルでの【体力】や【魔力】を数値化しているのだ……そうだな、今のお前達ぐらいだと、レベルが1〜5、【体力】が100〜500、【魔力】が100〜300くらいだな」


  「俺、レベル4だわ」

  「あたし、レベル3だ」

  「【体力】250で【魔力】135か」

  「俺は【体力】300の【魔力】100だぜ!」


 自身のステータスを確認するクラスメイトの声が次々と耳に入る。


 成る程、つまり今の俺はレベル5で、【体力】や【魔力】の数値は、レベル5である時の数値という事か。だがこの【技能】ってのはなんだ?


  「先生!先生!【技能】ってのは何ですか?」


 俺が気になっていたことをクラスメイトの誰かが代弁してくれた。


  「【技能】は魔力を必要としない技の事だ。取得すると【技能】の隣に技名が記されるようになる」


 ――ん?ていう事は、すでに俺は二つの【技能】を取得してるって事か?けど、?ってなっていて名前が分からないんだけど、どういう事だ?……ちょっと聞いてみようかな。


  「あの、せんせ――」

  「あっ!一応ステータスは個人情報だから、あまり周りに言いふらしたりするのはお勧めしないぞ!」

 

 あぶねぇ!聞いちゃうところだったよ……そうか、個人情報なのか……なら、あまり無闇に口に出せないな。ていうか先生もそうゆうのは先に言おうよ。見てよほら!さっきまで自分のステータス言いふらしてた人達が固まっちゃってるよ、可哀想に。


  「まぁ、家族や友人とか信用出来る人には別に自分のステータスを教えるのは構わないけどな……ステータスプレートを無くしたり、盗られたりしたらとか思うかもしれないが其処は安心してくれ。ステータスプレートは其れに魔力を注いだ者のステータスしか見る事が出来ないから、仮にそうなったとしても自分のステータスを知られる事は無いから大丈夫だ。だから無くす事はあるとしても、盗られる事は無いな。もし無くしてしまった場合は、学校や冒険者ギルドで確か……銅貨二枚くらいで買えるから、一応覚えておくといい」


 銅貨十枚で銀貨一枚で銀貨百枚で金貨一枚だから銅貨二枚は安いな。


  「これでステータスプレートについては以上だ。それじゃあ最後に一つだけ……四ヶ月後に迷宮で実戦訓練を行う予定だから明日からの授業、休まずにしっかり受けろよ」

  「「「「「はい!」」」」」

  「よし、じゃあ解散!皆んな気をつけて帰れよ」

  「「「「「ありがとうございました!」」」」」







 ロングホームルームが終わると、エリナはリゼと買い物に出かけ、マルコは学校の図書館へケインは……知らないが、それぞれの時間を過ごした。


 そんな中、俺は真っ直ぐ寮へ帰った。……いや、だってやる事ないし。

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