入学式
「アルくーん!」
寮を出て入学式の開場である学園の体育館に向かう道中、後方から聞き覚えのある声が聞こえたので振り向くと、案の定エリナだった。
「こっちに向かって来てるみたいだけど知り合い?」
「知り合いって言うか幼馴染だ」
「隣にいる子も?」
エリナの隣には泡色のロングヘアーをした女の子が居た。
「いや、知らないな……まぁ多分紹介されるだろ。ほら、初対面の人には自己紹介は必須だからな」
「はは、そうだね」
そうこう話してる内にエリナ達が俺達の所まで辿り着き、周囲に聞こえるくらいの声のトーンで話しかけてきた。
「さっきぶりだね!アル君!」
「あぁそうだな」
いつもより随分とテンションが高いな。まぁ、今日は入学式だしこれからの学園生活を思えば無理もないか――。
俺の方を向いていたエリナは次に俺の隣にいるマルコ方を向き話しかけた。
「あ!そっちの人は初めましてだね!エリナだよ宜しくね!アル君の幼馴染をやっています!」
「やらされています」
「あはは、二人とも仲良いんだね――マルコだよ宜しくねエリナさん」
「宜しくね〜後呼び捨てで良いよぉ〜」
「じゃあそうさせて貰うかな。……でそちらの方は……」
そう言ってマルコはエリナの隣にいる泡色髪の女の子の方に視線を向ける。
それに従い俺も彼女の方へと視線を向ける。
さっきは離れてて良く見えなかったけど、近くで見ると顔も整っていて身体も引き締まった、贅肉の無い女性らしい身体つきをしていて、エリナが無邪気で幼さのある女の子だとすれば彼女のは見た目やその立ち姿から何処か大人の女性を思わせる様な雰囲気をしていて、エリナとは違ったベクトルの可愛さをしている。
それにしても二人とも制服が良く似合ってるな。
「初めまして。リゼと申します」
「リゼちゃんは私のルームメイトで、私とアル君と同じA組なんだよ!ねー?」
「えぇ、そうね」
話し方や姿勢からして何処ぞの貴族様かと思ったけど名前にファミリーネームが無いってことは違うのか。
「へぇ、じゃあ俺達全員同じクラスだな」
「え?じゃあマルコ君もA組なの?」
「あはは、凄い偶然だね」
「それより俺の自己紹介がまだだったな。俺は――」
「アルスさんですね?」
「え?あ、あぁそうだけど……」
(この人、何で俺の名前知ったんだ?)
「ふふ、貴方の事はエリナさんに聞いてます」
どうやら思っていた事が顔に出てた様で彼女はそれに答えてくれた。
(エリナはいったい彼女に何を話したんだ?)
そう思い、エリナの方へ視線を移すとそれに気付いた彼女は、舌を出し片眼を閉じて――テヘッ!
いや、テヘッ!じゃ無いよ!なんかエリザさんふふって笑ってたよね!?一体彼女に何話したのねぇ!?
「な、成る程。宜しくリゼさ――」
「リゼで良いです」
この人、結構強引な所あるなぁ。
「そ、そうか。じゃあ改めて宜しく、リゼ」
「僕も、宜しくね!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
自己紹介も終わった事だし、俺はリゼに一つ気になることを聞いてみた。――そう、それは可愛い子が同級生となったからには絶対に聞かなければ……いや、確認しなければいけない事だ!
「ところでリゼってか「アル君?」きフライ好き?」
怖ぇ〜!エリナさんまじ怖ぇ〜!そんな睨まないでくれよちびっちゃうだろ!てか、かきフライって何だよ!誤魔化すにしても他に言いようがあったろ!
「かきフライですか?」
ほらぁ!彼女困ってるじゃん!そうだよね!今日知り合ったばかりの人にいきなり「かきフライ好き?」何て言われたら困るよね!?当然の反応だよ!本当はそんな事聞きたいんじゃ無いんだけどね!?
「まぁ、嫌いでは無いですけど、それが何か?」
「え?えっと。お、美味しいよね」
「はぁ……」
「さっきから何言ってるのアルス?」
「……」
♢♢♢♢♢♢♢
体育館には既に多くの新入生が集まっていて、それぞれのクラスの列に並んでいた。
それに倣い、俺達も自分のクラスの列へと並び始める。
「へぇ〜。マルコってウオの街出身なんだ」
「ウオの街と言えば、漁業が盛んな街で、確か王都で売られてる魚の殆どがウオ産ですね」
「うん。そうだよ」
「良いなぁ。私達の街なんて特に何かある訳でもないし、あるとしたら近くに『危険領域』って言われてる森があるくらいだよーしかも其れのせいで、王都まで行くのにいっつも遠回りしなきゃ行けないんだよ〜」
入学式が始まるまで特にする事がなく四人で世間話など会話に花を咲かせていると、一人の男が舞台に登り演台に立つ。
すると俺達を含め、周りの生徒達が一気に静かになった。其れを確認した男が入学式開催の宣言をした。
どうやら男は入学式の司会役のようだ。
それからというもの入学式は問題なく着々と進み、新入生代表の挨拶までに至る。
司会の人が新入生代表の名前を呼びあげると、「はい!」と返事をした金髪の男が演台に立つ。
「暖かな風が吹き始めると共に桜も咲き始める、春爛漫の今日、私達はこのアルカナ王立学園の一年生として入学しました。――――――――――――――」
俺達は列の前の方に並んでいるので、舞台との距離はそれなりに近くであり演台に立つ男の容姿がはっきりと見える。
彼を一言で説明するなら――イケメンただその一言に尽きる。
顔もここから見る限りだと、そばかすやニキビなど一切無い綺麗な顔立ちをしている。体の方も演台に隠れていて胸から下辺りが見えないが、きっとスタイルも良いのだろう。
あんな奴がクラスに居たら女子の視線は全て彼の所に向くだろう。折角これから学園生活が始まると言うのに好意が全てあの男に向くか溜まったもんじゃないよね!折角の青春のせ文字も感じられ無くなるよ!せめて同じクラスでは無いことを祈ろう。
それにしても話長くない?
長かった入学式も無事終了すると次に待ち受けているのはロングホームルームだ。其れは、各教室で担任の先生の話を聞く時間だ。
最初は四人で教室に向かっていたが、途中でトイレへ行きたくなり三人には先に教室へ行って貰い、用を足した俺は、現在一人で教室へ向かっている。
すると突然背後から声を掛けられた。
「おいっ、お前!」
振り返ると其処には入学式の時に新入生代表として挨拶をしていた男がいた。えっと名前は……何だっけ?
「……誰だっけ?」
「ケインだ!新入生代表のケインだ!入学式の時話聞いてなかったのか!?」
「だって話が長くてずっと立ってたら腰やら足やら痛くなってさ、そっちばっかに意識が向いてて途中から全然聞いてなかったよ。あっ、俺アルス。宜しくな!」
「あ、あぁ宜しく……じゃない!」
「うわっ何だよビックリしたな。急に大声出すなよ……で?なんか用か?用があるから声かけてきたんだろ?」
「あ、あぁそうだったな。……えっと、その、あ、あの子とはどう言う関係なんだ?」
「は?あの子って誰だよ?」
「は、ほら桜色の髪をした子だよ。ず、随分親しそうじゃないか」
「あーエリナの事?あいつとは幼馴染なんだよ」
「幼馴染だと!?……これは随分と強敵だな(ぼそぼそ)」
「なんか言った?それよりエリナがどうしたんだよ?」
「え?い、いやその可愛いなって……」
「まぁ自慢の幼馴染だよ。て言うかお前何で俺達と同じ方向に進んでんだよ?」
「はぁ?そんなのこっちの方向に目的地が在るからに決まってんだろ」
「目的地?……まさか!!」
「あぁ、俺もA組だ。宜しくな」
「嘘だあぁぁぁあ!!」
あぁ、さらば青春よ。短い付き合いだったがお前の事は一生忘れないよ。
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