第3話 死刑囚は要求する
「……私に警察の真似事をしろとおっしゃる?」
「真似事ではない。独自の観点で捜査を行ってもらいたい。言うなれば、探偵の真似事、いや、探偵そのものかな」
悪いニュースではなく、悪い冗談に聞こえた。捜査の指揮を執れるはずがないのは分かり切っているが、まさか独力で捜査し、事件を解決せよというのでもあるまい。
「必要な情報は、警察が用意する。基本的に警察が捜査に着手してから解決に至ることなく半年以上経過したものを難事件と見なし、そちらに回すことになるだろう。9999番がそれまでの捜査資料にないものを新たに欲するのであれば、速やかなる検討の後、追加捜査の可否について判断を下す。手足になって動いてあげようというのだ、悪い話じゃあるまい」
「何故、こんなことを。私を処刑したいのなら、明日にでもやることだって問題なく可能だろうに」
「一部の者がおまえの能力を買っている。クイズやパズルを解かせるだけでは単なるゲームだ。その頭脳を難事件の解決に役立たせれば、利益を生む」
「そちらが買ってくれるとしたら、それは私が作った未知の毒物でしょう」
分かっているんだとばかり、言い放つ。所長は動じないどころか、あっさり認めた。
「もちろん、それもある。教える気がおまえにないのは百も承知だが、あきらめきれないのでね」
「――正直なのはよいことです」
皮肉めかして言うと、要請に応じてもいい旨を表明した。胸に片手を当て、
「よいニュースも悪いニュースもしかと聞き届けました。基本的に受ける方向ですが、条件を追加させてもらいます」
「おいおい、随分上から目線だな。言うまでもないが、条件を聞いてやれるかどうかは確約できん」
真に受けていないのか、所長は笑みを浮かべながらそう言った。
「こちらとしては真っ当なことを申し述べるつもりですよ。条件その一。警察関係者が犯人だったり、捜査員が捜査に手心を加えたり等していた場合、たとえ私が解けなくてもカウントに入れないでもらいたい」
「はん! 警察が犯罪に手を染めることなど――」
「ないとは言わせません。歴史上、いくつもあった。極めて珍しい例外と呼べるレベル以上にね。今後、起きないなんて保証されても信じられない」
「……警察関係者のせいで君が謎を解けなかった場合は、警察関係者が犯人、もしくは犯人に加担していること自体、判明しないのではないかな? それをノーカウントにしろと求められても無理というものだ」
「そうかもしれないし、判明するかもしれませんよ。要するに、痛くもない腹、いや、痛い腹を探られたくなければ、警察の関与がわずかでも疑われる事件は、私のところに持ち込まないようにするのが賢明だってことです」
「むむむ……」
「条件その二。捜査するに当たって、こちらの指示を迅速に出せる仕組みを整えること。人を介していては、何かと理由を付けられて遅らされる恐れがなきにしもあらず。安物でいいから携帯電話を貸与してもらいたいですね」
「そんな物を渡したら、何に悪用されるかしれたもんじゃないじゃないか。却下だ」
「まあ、最後まで聞いてください。発信先を制限してくれればいい。物理的にね。特定の人物の番号にしかつながらないような細工は、比較的簡単にできるはず」
「……よし。検討してみよう。他にはまだあるのか?」
「次で最後にしますよ。この三つ目こそが、最も受け入れてもらいたいものなんです」
「早く言うんだ。そろそろ、戻らねばならん時間になる」
所長が苛立たしげに爪先で床を叩くのは、見ていて愉快だったが、飽きるのも早かった。
「最後の条件は、明確な目標なり期限なりを設定してもらいたい」
「ん? というと何だ?」
「私が未解決事件に取り組むのを終えるタイミングを定めるように、ってことです。言われたようなきついルールで獄死するまで頭脳労働にこき使われるのは、割に合わない。本来、死刑囚には役務を課さないのが原理原則でしょうに」
「それはそうだが」
珍しくもすんなり肯定する所長。
「一存では決められん。参考までにおまえの希望する設定を聞いておこうか」
「そうですねえ、四年間務め上げたか、連続で五十件を解決に導いたとか」
続く
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