第20刑 満たされない一角獣―B
また、任務は失敗だった。民間人にも多くの犠牲者を出し、班長である
「あー、お前らは心配すんな。責任は全部俺が取るからさ」
「母さん。いつからその身体だったんですか」
「大体7~8年前だ。ゴードン=バーズリーっていう《罪人》を処刑した時、身体半分吹っ飛ばされてな。その時に
「それじゃあ、まだ日本で暮らしていた頃から?」
「ああ。ほら、お前が小学生の時、俺入院したことがあっただろ? あん時だよ」
その頃、晶はまだ両親の仕事をよく知らなかった。母はどこかの捜査官だと話していたし、何となく警察官のようなものなのかと思っていた。
「今思えばあの男、《臣公》の1人だったんだろうな。最近補充されたのが憤怒と怠惰だというから、多分《憤怒臣公》か――」
そして
「それで。あなたの壊れた部分は直りますの?」
怪訝な顔をして尋ねる
「超が付く程の機密情報だけど、一応修理できる奴はいる。直らないということはないだろうさ。必ず復帰して、またお前らの力になるよ」
「無理はしないでね、お義母さん」
「
「分かってる。アタシは死なないよ」
杏樹は、クリスティーナの残った左手と、固く握手を交わした。
「晶。お前もだぞ。達哉のことを調べるのは、いい。許す。でも死ぬようなことだけはするんじゃねぇぞ」
「母さんも。今度会う時に、全身機械になっていないでくださいね」
「ああ。気ぃつけるよ」
息子の頭を撫でる母。晶は、ようやく認めてもらえたように思い、嬉しくなった。
「乃述加。こいつらのこと、よろしく頼むわ」
「ええ。任せてくださいまし」
「それとお前も……。気をつけろよ」
「分かっていますわ。けれど安心してくださいな、あたくしはもう、あんな奴らに負ける程やわではありませんから」
「そっか。それじゃあ安心だな」
そう溜め息を吐くクリスティーナの顔は、どこか苦しそうだった。
翌日。十谷クリスティーナは、破損した義手、義足の修繕のために帰国した。移動中は、一応通常の義手、義足を装着している。
太平洋の遥か上空。飛行機の中。彼女は真剣な面持ちで考えていた。
「(《臣公》か……。あれから約10年。俺の考えすぎならいいんだがな……)」
思い出すのは、初めて邪庭乃述加と出会った時の事。
とある《罪人》によって愛する人を奪われ、失意の底にいた彼女の姿だ。
「不幸な星の下に生まれた奴ってのは、どうも惹かれあうらしいな」
十谷晶。
彼女たちが集まったことは、どうも偶然ではないように思える。
偶然が折り重なれば、それは必然となる。しかしそれは、決して不運なことではない。
「(マイナスとマイナスが掛け合わさればプラスになる。お前らはプラスだよな)」
そうに違いないと、彼女は思った。本音では、そうであって欲しい、ということだった。
彼らの向いている方角がプラスでないと、クリスティーナもやるせない気分になる。
「(ところで俺は、どっちなのかね……)」
飛行機は雲を見下しながら、アメリカへと向かう。
× × ×
『E.S.B.』アメリカ局。
時間は少し前に戻る。日本で晶たちが、戸蔵永人と交戦していた頃だ。
「こんな時に――――、アルバートはどこへ行ったの!?」
エリーナ=カルマスは、突風により撒き散らされたアスファルトの破片を
《罪人》の目撃情報を受け出動したが、敵の力が予想外に大きかった。処刑人10人掛かりでも歯が立たない。彼らも、決して弱い訳ではない。むしろ、最新鋭の道具ウェポンや技術を駆使して闘う、精鋭たちだ。それなのに、地面に這い蹲っていることしかできなかった。
「まだまだだねぇ。クリスティーナ=トオヤや、アルバート=ブラックがいなければ、こんなに脆いのかい」
背中に2メートルはくだらない、超巨大な翼を持つ《罪人》イーグル・ディシナ。彼だか彼女だかは分からないが、それはゆっくりと、じわじわと、処刑人たちを
「さてと……。うん、見つけた」
イーグル・ディシナは、後衛として待機していた、シャルロット=ロールに目をつけた。
「何をする気だ――」
エリーナは、息も絶え絶えになりながら問い掛ける。
「これから先、厄介になりそうな奴は早めに叩いておこうと思ってね。今回のターゲットは彼女って訳」
《罪人》は、鋭い鉤爪と持った手を、シャルロットへ向けて構える。
逃げろ、その一言が出せないことを、エリーナは悔しく思った。息が上手く整わないせいだ。
標的となったシャルロットは、恐怖で脚が竦んでいるのか、動こうとしない。
「バイバイ~」
爪が、彼女の頭部を捉えた。
「あぁ…………あ、やめ――っ」
ぐちゃっ!
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