第20話 覚悟

 ボロボロになった《鉄尾》の鼻先を撫でる。


「ごめんね《鉄尾》。もう一働きしてね。皆を助けるためなの」

《謝る必要hあり、ませn。なぜなra、私m同じ気持ちだkらでs》


 ……もう発声もおぼつかない。これが最後の旅程になるかもしれない。


「ありがとう《鉄尾》」


 私もお姉さまも《鉄尾》も死ぬかもしれない。

 だけどただで死ぬ気はない。魔法陣を描き切って呪いの大地を浄伐して死んでやる!


「行きましょう! お姉さま!」


 勢いよく《鉄尾》に飛び乗る。が、お姉さまは乗らなかった。


「お、お姉さま?」

「シャル、今死ぬ覚悟をしたやろ?」


 お姉さまは地面に立ったまま私を見上げた。


「……はい」


 お姉さまは騙せない。肩がこわばる。


「ああいや、怒ってるわけやないんや。こんな絶望的な状況じゃ、立ち向かおうとするだけでも上出来やし」


 ただ……、とお姉さまは続ける。


「ただ諦めたらあかんよ。うちはまだ信じとる。浄伐が成功して皆が解放される事、全員無事に帰れる事、全部無事に終わった後ようやったなってシャルと笑いあえる事。全部叶うって信じとる」


 ――じわりと目が熱くなる。


「なら……私もお姉さまが死なないって信じてもいいんでしょうか」

「うん」

「っ……《鉄尾》も、皆も、私も死なないって信じてもいいんですか」

「勿論やわ」

「もし、お姉さまが死んじゃったら、私……」

「うちはずっとシャルの傍におるよ。どんな時もや。……うちのこと信じて」

「信じます! 信じますから……、死なないでください」


 お姉さまは優しく笑った。


「ええよ」


 そう言ってふわりと隣に飛び乗り、涙を拭ってくれた。


「シャル、次泣くときはうれし涙にしよな。悲しくて泣く涙は心が痛くてかなわんからな」 

「……ふふ、嬉しいときは泣き顔じゃなくて、笑顔が一番ですよ」

「ふふふ、これは一本取られたわぁ」


 これから死地に乗り込むというのに、穏やかな気持ちだった。お姉さまへの信頼感が私を支えている。そうだ、生きるために死地に赴くのだ。皆を助けるんだ。


「行きましょうお姉さま、生きて帰るために」

「よう言った。それでこそうちのシャルやわ。絶対に生きて帰ろうな」


 お姉さまは私の頭を撫でると、《鉄尾》の天井へのぼっていった。

 私も運転席に座り、マスコンに手を置いた。深呼吸して、少しずつレバーを傾ける。

 車輪がきしんで、動き出した。


「発車します! フルスロットルで行くので吹き飛ばされないように、お願いいたします」

「ふふ、遠慮せんでええんよ。うちは平気やから、絶対速度を緩めたらあかんよ」

「はい!」


 青白色の結界の中は地獄だ。だけど、地獄の中にも希望はある!

 私たちは、結界に再突入した!

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