第17話 《アンソニー》復活!
数十分走って、ようやく《アンソニー》を発見した場所に帰り着いた。
一か月ぶりの《アンソニー》を前にアンジェラ鉄道長の目は、感に堪えないように潤んでいた。攫われてから色々あったんだろう。涙は見ないふりをした。
「で、お姉さまは空に飛んで行ったまま、暫く経つわけですが……」
私は空を見上げた。ほとんど夜明けで、辺りは明るくなっている。雲がこんもりと盛り上がっているが、雨の気配はない。
お姉さまは「ちょお、雷落としてくるわぁ。皆は《鉄尾》の中にいて。危ないからね」と、言いおいて空にすっ飛んで行った。フットワークとノリが軽すぎる。
私たちは言われた通り、《鉄尾》の機関車の中で作戦に従事する人数の班割をしていた。
結界外に救援を求める班は《鉄尾》とお姉さまと私。魔法陣の残りを刻む班は《アンソニー》とアンジェラ鉄道長と、科学部員、呪術部員である。
後者二人はあからさまに鉄道長の監視が役目と言ってはばからない。先ほど宣言した通り、鉄道長がまた《フローラ》に乗っ取られないか危惧しているようだ。そしてその監視を鉄道長が受け入れているため、班の空気は重い。
(お姉さま、助けてー!)
泣き言をもらしかけたとき、ふいに冷気が車窓から吹き込んだ。
(な、何?!)
身をすくませる暇もなかった。ピカッと空が光ってすぐ……。
突然、ドガアアン!! とすさまじい音が響き渡ったのである! びりびりと大気が震え、雷が落ちた! それも複数連続で!
体の震えが止まらない。総毛立ち、鼓膜が破けそうになっている。
なのに、雷はこちらの事情などお構いなしに次々と降ってくる。
皆身をかがめて鼓膜を守るのに必死になった。
……しばらくしてようやく雷は終わったようだった。
恐る恐る外に出てみると、草は焼け焦げているし、大気もパチパチと震えているようだった。
アンジェラ鉄道長は落雷がおさまると、真っ先に《アンソニー》の機関車両に乗り込み、エンジンをかけ始めた。何度かチャレンジして――、……かかった!
重々しい待機音があたりに響く。鉄道長は喜びに上ずった声を上げた。
「《アンソニー》の魔力炉が充填されている! これなら、残りの魔法陣も描けるぞ!」
やっぱり先ほどの雷で《アンソニー》の魔力が補給されたらしい。
(さすが、お姉さま! 最高! かっこいい! 天才!)
心の中で、目いっぱいの讃辞を捧げていると、空から「シャル――!」と叫ばれた。
翅天翼を生やしたお姉さまが空から降ってきた。慌てて受け止める。
「成功したみたいやな。うまくいったようでなによりやわ」
「はい、もう百点です! お姉さま! でもどうやって雷降らせたんですか?」
「ふふふ、雷は寒暖の差で発生するんよ。だからうちは上空五千mにあったマイナス二十℃の空気を魔法で地上付近の空気にぶつけたんよ。そうしたら、狙ったところに雷落とせると思て。まぁ今日の天気あればこそやけどね」
見事その思惑は成功したというわけだ。私はもう感極まって、お姉さまの頬に自分の頬を摺り寄せた。
「流石です、お姉さま! もう最高です!」
「ふふ、シャルも信じて待っててくれてありがとなぁ」
ふたりでいつまでもニコニコしていると、流石に声がかかった。
「モンスターが来ないうちに、出発しよう。そこの二人も《鉄尾》に乗り込んでくれ」
「「はい」」
アンジェラ鉄道長に促され、私たちは《鉄尾》に乗り込んだ。
私たちの班は救援要請のために、結界の外へ。鉄道長たちの班はこれから魔法陣の続きを刻むことになる。
アンジェラ鉄道長が檄を飛ばす。
「いいか、我々の働き如何に生徒たちの命運が掛かっているといっても過言ではない! 命を賭してでもそれぞれの任を果たせ!」
私たち四人はそれぞれの決意を込めて、答えた。
「「「「はい!!!!!」」」」
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