第10話 モンスター飯

 夕飯の時刻、《鉄尾》の食堂車は大盛況だ。

 みんなのトレーには、翼竜のガーリックステーキ、人狼のしゃぶしゃぶ鍋、スライムのゼリーよせ、翼竜の巨大な腸詰め肉(ソーセージ)等々豪華なモンスター飯が並んでいる。

 

 よだれが出そうなのに、なんと私は食べられない! 共倒れを避けるため鉄道長と同じものは食べられない規則があるのだ! 紋様があるのは危ないと言っても聞き入れてもらえなかったしな!


 シャーロット・フォックス! 怒りの納豆三パック! 


 私は、無表情でひたすらねりねりと納豆をかき混ぜていた。これだけあると匂いもすごい。ステーキの匂いが台無しになるのを恐れてみんな近づかない。

 だから私の周りだけテーブルはがら空きになっていた。


「あらあら、昨日も一昨日も食べはってたね。シャルの納豆三パック。イライラしたり、元気出したいときはいつもこれやもんね」


 くすくすと笑いながら、トレーを持ったお姉さまがやってきた。

 ここ、座ってもええ? と隣の座席を示されたので仏頂面で頷く。どうせお姉さまもモンスター飯なんだ。納豆食べてる私の横でモンスター飯を食べる気なんだ、ちくせう!


 それでも気になるので、ちらりと横目でトレーを覗く。……なんとモンスター飯ではなかった。

 トレーの上には、納豆とキムチとどんぶりご飯が乗っているだけである。

 驚愕してお姉さまの顔をみると、お姉さまはふふふっと楽しそうに笑っていた。


「うちも納豆食べたくなってん。シャルとおそろいやねぇ」


 お、お姉さま。私のことを気遣って……!


「お、お姉さまぁ!」


 納豆をほっぽり出して、おもわずひしと抱きつく。さすが私のお姉さまだ!


「あらあら、シャルは甘えんぼさんやねぇ」


 ぎゅっと抱き返されて、ぼわっと心があったかくなる。こころなしか私たちの花が周りに咲いているようだ。そう、ユリ科の花が。

 そうだ、モンスター飯がなんだというのだ。私にはお姉さまがいる。お姉さまはモンスター飯にも勝るのだ。

 私とお姉さまは笑いあうと、一緒にねりねりと納豆をかき混ぜる作業に戻った。飯テロには匂いテロだった。


□□□

 

 夕飯の時間も終わり、食堂車は歓談する者でいっぱいだ。

 夜食にと各テーブルに置かれたクラッカーとクランベリージャムも絶品である。

 納豆テロはやりすぎたのか、私とお姉さまのテーブルの近くだけ窓が開けられていたが、私はお姉さまがいれば無問題である。

 私とお姉さまもカードに興じている。お姉さまはこの前、賭けカードのやりすぎで出撃が遅れたのを随分気にしていたらしく、今日まで自重していたとのことだった。

 しょんぼりした顔で言われたが、私の胸は愛しさでいっぱいだった。あー、もう可愛い! 大好き!

 お姉さまとはいっぱいはしゃいで、いっぱいおしゃべりした。最高に楽しい時間だった。周りの音は耳に入らず、二人っきりの世界。


 ――だから、気付かなかったのだ。食堂車に異変が起きていることを。

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