第6話 モンスターハンティング
朗報だ!
結界に入ってすぐ《アンソニー》のわだちを見つけた。
草原の草花がなぎ倒されている。普通の列車にはありえない、魔法のレールの跡だ。
どうやら刻みかけの魔法陣の一部らしく、微かに魔力の残り香がする。
この後を辿れば、いずれ《アンソニー》にたどり着くはずだ。
「早速手掛かりとは幸先がいいなァ」
先頭機関車で鉄道長が機嫌よさそうに笑う。勿論そのレール跡に沿うように列車を走らせていた。
「そりゃあ、私が必死に行路計算しましたもん。《アンソニー》が魔法陣を刻みながら走っていたのなら、その軌跡は計算通りのはずですし」
私はペンをくるくる回しながら、どや顔して見せる。
もう片方の手には地図。余白には計算式がびっしり。そして地図上には予測される完成された魔法陣の姿。
幸先のいい出だしに、私たちはうかれていた。任務の成功を半ば確信していた。このままいけば楽勝だと。
が、手がかりはそこでついえた。
草原を《鉄尾》が疾駆する。いい風が吹き渡り、実にのどかな風景だ。……しかし、突入してから三日目、何も起きない。
呪いも発動した形跡はないし、いつまでたっても《アンソニー》はみつからない。今は予測される魔法陣の四分の三近くに来たところだ。事件と言ったら時折モンスターが襲ってくる程度である。それも十分片付けられるレベルの。
特S級呪いの大地と聞いて緊張していた生徒たちも、気が緩んできてのんきにモンスター飯が食べたいと言ってきた。モンスター飯とは、その名の通り狩ったモンスターを調理してご飯として美味しくいただくことである。
すっかり飽きてきた鉄道長は、それを許可した。次にモンスターがやってきたら、狩りのちご飯である。
《鉄尾より、鉄道防衛部に通達! モンスター出現! スケルトン十二、翼竜四、スライム三、人狼十五! 迎撃を開始してください。繰り返します――》
そら、おあつらえ向きにやってきた! 心なしか、慣れた手つきで《鉄尾》を停止させる鉄道長の背中がわくわくしているように見える。
が、私はビスケットを齧りながら、内心くさくさしていた。
どうせ今回は鉄道長がモンスター飯にありつくに違いない。だから、どうせ私は持ち込んだ食料を食べることになるにきまってる。同じものを食べて二人とも腹痛で倒れたら、誰も列車を運転できなくなる。魔導学園列車が走れる魔法のレールを敷けるのは鉄道長と、副鉄道長たる私しかいないからだ。
……実を言うと、滅茶苦茶悔しい。翼竜のガーリックステーキは極上で有名なのに。むきーっ!
若干白けた気分で、車窓から身を乗り出して外の様子を見る。戦闘系部活のモンスターハンティング部五十人が我先にと列車から飛び出していくところだった。
一人が振りかぶった重斧が鈍い風切り音を立てて、スケルトンを押しつぶした。別の一人は人狼が噛みついてくるのを最小限の動きで躱して、カウンターで剛腕をぶち込んでいく。
攻防は人間の優位で進行していた。
と、視界の端に何か赤いものが映った。
「ん?」
「どうした?」
「気のせいかな。モンスターの腹に赤い紋様が見えるんです。ほらそこ」
指さすも、その人狼は首をへし折られて死んでしまった。途端、腹の紋様が掻き消える。
(死ぬと消えるのか?)
死んだ人狼を見て鉄道長が首をかしげた。
「……どれだ?」
「いや、別の奴の腹にもありますんで!」
と、今度は空の翼竜を示すも、誰かの魔法で吹っ飛ばされて焼け落ちていった。
「……どれだ?」
「ちょっと待って下さい! ほらあのスライムですよ! 見てください!」
と言った端から、そのスライムは魔術使いの魔法で大穴を開けられて、崩れていった。
鉄道長が目をすがめる。
「……だから、どれだ?」
「――キエエエエエェイ!!!!」
私はブチギレて、車窓から飛び出した! もはや己の拳以外に信じられぬ!
着地。手近にいた人狼が驚いて飛びすさる。一瞬で距離を詰め、魔力の籠った拳で急所を殴打する。刹那に十発!
人狼が血を吐いてのけぞる。だが殺さぬ! お主の腹の紋様を鉄道長に見てもらわねばならぬからな!
ぐらりと倒れ伏しかけた人狼の首後ろの皮を掴んで、ぷらーんとぶら下げる。
腹の毛皮をかき分けると、地肌の一部が赤く発光していた。
「どうです?! 確かにあるでしょ? 赤い紋様が!」
ご丁寧に人差し指で人狼の腹を指す。そこには小さな細長い楕円が鎖のようにつながっている意匠の、赤い紋様があった。これで文句も言えまい!
先頭機関車を見上げると鉄道長が引き気味に頷く。
「お、おう……、あるな、紋様……」
ハッと辺りを見渡せば、静かなもんである。モンハン部の面々も、モンスターたちも突然の闖入者に目を見開いている。
私は咳ばらいをすると構えた。
「ついでだ。全員の紋様、あらためさせていただこうかい」
私の殺気に反応したのか、モンスターたちが気色ばむ。こうならやけだ。とことん確かめさせてもらいましょう!
私は地を蹴った。
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