第2話星野祭①
パムは自分の家に駆け込むと、扉も閉める暇もなく鎧を脱ぎ捨てた。
だって城からこの村までの2日の旅の埃と汗が気持ち悪い。
小さな水桶に僅かに湯を差して体を濯ぐ、村の離れの湯治場で小さな浴槽に身を沈めることもできたが今はそんな時間もないし、早く着替えを・・・。
「んっ・・?、胸がキツイ。」
ドレスは母の形見、鎧と共に先祖よりずっと受け継がれてきた、鎧とお揃いの百合と剣の刺繍があり、肩と背中が大きく開いていて、靴は少し高めのヒール、どれも純白と深い緑のコンビネーションで造形され古風ながらも品があった。
ああ、鎧には納まるのにドレスに胸が納まらない、「どうしてなのよ。」
「えいっ!うそ、キツイいぃ。」
去年は問題なかったのに。
苦戦していると、いつの間にか横に来ていたジャムが「ねえねえ、おねえちゃんおっぱい大きくなったの?。」聞いてくる。
「え?え!、いえそんなはずは、き、筋肉ついたからね。」
「男の人喜ぶね。」
「もう、おませさんね。」痛くない様にジャムの頭をポンと叩く。
これってもしや胸じゃなくて背中に筋肉が付いたの?、しょうがないな、花か何かで胸を隠そう、これじゃ胸ばかりが目立ちすぎる。
そうだ、ドレスの上に短い上着を羽織ってみた、「んー」微妙だけどしょうがないわね。
「おねえちゃん、おまつりおわっちゃう、たべるものなくなるよお。」
泣きそうになっている。
「大丈夫だから。」
パムとジャムがなんとか着替えを終わって家から少し離れた広場に駆けつけた頃には、宴は始まり既に盛り上がっていた。
「おいしそう、ごちそういっぱいあまってるよ。」さっきまで泣きそうになっていたのにもうジャムの目が泳いでいる。
「ご馳走、間に合ったね、食べ過ぎてお腹壊さないでね。」パムの話が終わる前に、ジャムは他の子供たちと一緒にご馳走の山に走り去っていく。
祭りの途中で村長の大地の精霊への感謝の祈りが終わり、遅れて現れたパムのために王国騎士の話を振ってきた。
そうこうしているうちにも宴もたけなわになり、人々の関心は自分から離れたいるのを確認するとパムは幼馴染みが一人になるのを待って近くに寄って行った。
「ちょっと隣いい、ねえケンタス、貴方に話があるんだけど。」
ケンタスの結婚が決まっているのはさっき聞いてよく分かっていた、波風立てたいと思っているわけじゃなかったが、自分にけじめをつけたかった、せめてドレスの大きく開いた背中と肩を、胸だって勿体なかったって思うように見せつけてやるからね。
「なんだよパム、幼馴染なのにらしくないな、おっつこの肩、腕この前会った時よりより随分と逞しくなったな。」
「う。」この野暮男が。
「今だから言うけど私もあんたのこと好きだったの、おめでとうって言うのが先なんだけど、に、ニマと一緒になるんだってね、あの子は親友だし美人だし料理も上手いし女の私から言わせてもいい子だよ、でもちょっと悔しいな」
「いや全く気がつかなかったよ、そうだったのか、しかしお前の好意は嬉しいが俺は男同士なのは困るな。」
「うぐ、き、切り捨ててもいいか?」
思わずドレスの隠しポケットの短剣に手をかける。あっ又やってしまった、どうしてこう私はすぐ剣を抜きたがるんだろう、これじゃダメ女じゃないの。
ケンタスはワンステップでスッと身を引き短剣の範囲外に逃れた、村人のくせにイラつくほど何気に慣れてるし。
「おいおい冗談だよ、殺さないでくれよ、結婚前のお前の親友を未亡人にさせるなよ、それに、俺はパムは王国騎士って聞いたんだ、、その、騎士は一生独身だって聞いたから、だから。」
ああもっと問い詰めたいのに、もしかして、いえ、でもこれ以上は。
「それはちょっと違うの、私のほら母さんも王国騎士だったけど結婚したのよ、子供ができると、いえそういうことをすると・・・ええとなんて言うか、身分が変わるだけなのよ・・なに言わせるのよね・・あーあ、なんかこう今まで緊張してたのが力が抜けちゃったな、とりあえずおめでとう。」
「あ、ああ、ありがとう。」
言うが早いか一目散に逃げていく、「行き先はどうせ新妻の所でしょ。」
パムは大きくため息をついた。
ほんの少しの間、酷い脱力感で切り株の椅子でぼーっとしていると。
「パムおねえちゃん、ごちそうたべようよ。」
声の方を見るとちょこんと肉料理が載った皿が目の前にあった、食べて貰おうとジャムが懸命に手を伸ばしている。
「ごめんね。」
「どうして、ごめんねなの。」
「じゃ、ありがとう、ジャムちゃんご馳走持ってきてくれたのね。」
何やってるんだろ私。
「よーし、全部食べちゃおう。」そっと皿を落とさない様に抱き上げる。
「はーいい、ぜんぶー。」手と口に果汁や肉汁をつけたままジャムは嬉しそうに笑った。
飴玉ー騎士巫女の物語 猫3☆works リスッポ @nekosanworks
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