Good night

霜野 結姫

第1話GREEDY EATER

 その日、世界は、ぼくたちを取り残して、死んだ。

 残された者たちには、「それ」に抗う術なんてない。



 俺たちは、ずっと幸せだった。

 これぽっちもそんなこと考えもしなかったけれど。

 自分よりも幸せな人を見ては、苦しんでいた。

 自分よりも不幸な人を見つけては、喜んでいた。

 俺たちの性格が特別悪いとかじゃなくて、この世界の人がみんな、そうだった。

 そうすることでしか生きられなかった。

 それくらいに、世界は酷い場所だった。

 酷い場所だと、思っていた。

 目に見える形で、格差を作り出す奴らに、反吐が出た。

 それを受け入れるしかない、無力な自分にも。

 所謂、俺は世界の最底辺の人間だった。

 生まれた時から、何となくそれを感じていた。

 俺の記憶の中に、父親というものは存在しない。

 恐らく、母親が何らかの事情で、勝手に生んだのだろう。

 ただ生んだだけで、何もしない女を、母親と呼びたくはないが。

 多分、俺が大きくなったのは、奇跡なんだろう。

 生まれて間もなく、死んでいたっておかしくはなかった。

 たまたま季節が春だったから、放置されても凍えることもなく、生き延びた。

 元々の生命力も、強かったんだと思う。

 お陰様で、俺は十七まで風邪一つ引くことなく、至って健康体だ。

 母親にとっては最悪だったろうが。

 俺という瘤がいるせいで、まだ若かった筈の母親は、新たな幸せを掴むことが出来なかった。

 学もなく、若さしか取り柄のない女がやれることなんて、限られていた。

 生きて行く為に、彼女は何だってやった。

 自分というものを、使い尽くした。

 俺という存在は非常に邪魔だったのだろう。

 彼女が「それ」に励んでいる間、俺は、外へ出された。

 暗くなるまで、暗くなっても、真夜中まで、夜が明けるまで、朝が来るまで。

 俺は、ただ空を見ていた。

 見上げてごらん夜の星を、と誰かが歌っていた。

 星を見て何になるのか、と。

 それで腹が膨れるわけでもないし、と。

 不貞腐れて、捻くれたことを言う奴はいるだろう。

 確かに、お腹がいっぱいになったことはない。

 だけど・・・・・・。

 だけど、星々は俺の頭の上で瞬き続けていた。

 何をしてくれもしない。

 俺を掬い上げて、助け出して、何処か遠くて連れて行ってくれるわけでもない。

 ただ、優しく其処に、いるだけだ。

 そして、数えきれないほどたくさんの星の光を従え、綺麗な月が夜の世界には耀いていた。

 月明かりは、誰にも気付かれないような暗い地の底にいるような俺さえも、照らしてくれた。

 俺が息をしていることを、動いていることを、ちゃんと俺に見せてくれるのだ。

 死んだようになっていても、生きているのだと思い出させてくれた。

 やがて夜が明け、朝になり、周りが目を醒ましても尚、月は暫く俺のことを見守っていてくれた。

 俺は死ぬまで、あの月の美しさを忘れない。

 死んだ後ことなんか、全然分からないけれど。

 あの月の少しでも傍に、行けるなら。

 それでいいかもなって、思ったりしたんだ。

 

 

 幾つもの夜を、そんな風に凌いでいるうちに、妹が生まれた。

 妹の父親のことも、俺は知らない。

 妹も当然、知らない。

 母親さえ、そうなのかもしれなかった。

 俺とは違い、妹は病弱だった。

 ほんの些細な切欠で、妹の呼吸は止まってしまいそうになるのだ。

 いつも咳き込んでいて、常に微熱状態にあった。

 時々高い熱を出し、その度に俺は、妹を背負って医者の元に走った。

 幸いにも、俺たち兄妹にも親切にしてくれる医者が近所に住んでいた。

 その小さな診療所には、俺たちのように貧しい人たちがひっきりなしに訪れていた。

 世の中はこんなにも、貧しくて無力で、病んでいる人で溢れている。

 なのに、偉い先生たちは、全然俺たちを助けてなんかくれない。

 見て見ぬフリなのか、見えていないのか。

 どっちにせよ、死んでもいい存在であることに変わりはないようだった。

 妹に治療を施してくれる医者に、俺は尋ねたことがある。

 俺にとって、彼だけが頼れる大人だったから。

 「神様っているのかな?」

 「・・・・・・どうだろうね」

 と、彼は首を傾げた。

 「先生は、いると思う?」

 「今は、まだいないんじゃないかな」

 「じゃあ、そのうち現れるの?」

 「そうかもね」

 「今は、何処に居るの?」

 「眠っているのかもしれないね」

 「神様って、誰なの?」

 「さあ・・・・・・少なくとも、あの人たちじゃないことだけは確かかな」

 「あの人たちって、誰?」

 「何千年も前から、地上に降りて来た神様の子孫だって自称してる人たちとかかな」

 「皇王様?」

 「それと血の繋がっている人たちも含めてかな」

 つまり、皇族のことだ。

 平然と、そんなことを言ってのける人間は、この国にはいない筈だった。

 この国に生まれたものは皆、皇族の方々は途轍もなく高貴な身分の方たちと教育される。

 国民として、あの方々の盾となり剣となることが誉なのだ。

 しかし、彼は堂々と語った。

 「本当に尊き者たちは、真っ先に血を流すものだ。民の盾となり、剣となる。神とは、そういうものなんだよ」

 「どうして、そう思うの?」

 「僕は、そう教えられて、育っているからね。そうとしか考えられないんだ」

 「先生は、誰なの?」

 「僕は、ただのお医者さんだよ。世界が、皆のことが大好きなんだ」

 「そうなの?お医者さんって、凄いのね」

 いつの間にか目を醒ました妹が、目をキラキラさせる。

 「先生、∬‡¶のことも、好き?」

 妹は、彼のことを慕っていた。

 父親のように、思っていたのかもしれない。

 「好きだよ。きみのお兄ちゃんのことも、ね」

 「・・・・・・」

 愛されることに慣れていなかった俺は、ありがとうを言えなかった。

 でも、本当は言いたかったんだと思う。

 言えなかったのは、ただただ、照れくさくて。

 だから、今になって考えるんだ。

 結局言えず仕舞いになったありがとうの代わりに、俺が出来ることが何なのか。

 彼のことを思い出すと、胸が熱くなる。

 同時に力も湧いてくる。

 嗚呼、俺はこの人のようになりたいんだと思った。

 彼と同じに、俺のように無力な人たちに手を差し伸べたい。

 救いたい、なんて烏滸がましいけれど。

 一人でも、たくさん幸せに生きてほしかった。

 死んだ方が楽でしかない世界でも。

 生きててよかったと、いつか思える可能性を潰したくなかった。

 此処に、死ななかったことを嬉しく感じている人間がいる。

 それが、証だ。



 なりたいように、なる為に。

 俺は、死ぬ気で働いた。

 悪事には手を染めず、真っ当に生きることは辛かった。

 でも、お天道様に顔向けできないような姿は、妹に見せたくなかった。

 妹の病気は、結局良くならなかった。

 それは、もうどうにもならないものだったらしい。

 痛みや苦しみを緩和する程度の治療が精いっぱいだった。

 もう永くは生きられない妹に、俺なんかが出来ること。

 それは、妹に取って、いいお兄ちゃんで在り続けることくらいだった。

 寝る間も惜しんで働き続け、ほんの僅かな泡銭で、妹の為の薬を買う。

 心臓が動いている限りは、息をし続けている限りは。

 辛い想いなんかさせたくない。

 妹には、綺麗なものだけを見ていてほしい。

 それが、俺の願いだった。

 彼のように、多くの命を救いたいという夢も、妹がいてこそのものだった。

 俺にとって、それは当たり前のことだった。

 この世界の片隅で、俺は妹と一緒に生きていく。

 悲しい予感は、常に俺に付き纏ったけれど。

 妹を不安にさせたくないから、俺は努めて明るく振る舞った。

 そしてそれは、妹も同じだったんだろう。

 妹は、俺が居なくては、此処まで生きられなかったに違いない。

 俺もまた、妹なしでは生きられそうになかった。

 お互いがお互いの、命だったのだ。

 だから・・・・・・、

 「叶えられない夢だけど、わたしには夢があるの」

 妹が言った。

 それはどんな夢かと問う俺に、はにかみながら、

 「あのね・・・・・・歌を歌いたい」

 「歌?歌なんて・・・・・・」

 いつだって歌える。

 今だって。

 「俺が、聴いていてあげるよ」

 「うん。ありがとう・・・・・・でも、」

 「でも?」

 「わたしは、歌を唄い続けたい。ずっと」

 「ずっと?」

 拙い台詞を反芻する。

 つまり、妹は。

 「歌手になりたいってこと?」

 「うん」

 「どうして、また」

 言いかけたところで、その質問に意味がないと気付く。

 そんなの、歌が好きだからに決まっている。

 「お姉ちゃんが・・・・・・」

 「お姉ちゃん?」

 「凄く綺麗なお姉ちゃん。歌がとっても上手いの」

 「・・・・・・俺、会ったこと、ある?」

 「ない。わたしも、一回しか」

 当然、お姉ちゃんと呼んでいても、俺たちのきょうだいではない。

 「何処で会ったの」

 「先生のところ」

 「診療所?」

 患者だろうか。

 色んな人がいるから、見かけたとしても分からない。

 「先生は、娘だって言ってた」

 「娘」

 彼に娘がいたとは、知らなかった。

 思いもしなかった。

 だって、そんな年齢いってるようには、見えない。

 「お姉ちゃんの歌を聴いたら、わたし、痛くも苦しくもなくなったの」

 「へぇ」

 「いつもはお咳がいっぱい出るのに、いつの間にか寝ちゃったの」

 「・・・・・・」

 それを、どのように解釈すればいいだろうか。

 たまたま、薬が効いただけじゃないだろうか。

 でも、もしもそうじゃなかったら?

 歌にそんな力が、あるのだろうか。

 ない、とは言い切れない。

 精神上、楽になったのなら体だって。

 「だからね、わたしもお姉ちゃんのように、病気で苦しんでる人に歌ってあげたいの」

 「そう、だね・・・・・・」

 苦しいまま、息を止めるのは辛い。

 それは、見てることしかできない者たちにとっても。

 いや、実際に病に侵されている者たちよりも。

 「・・・・・・叶うよ」

 俺は言った。

 「そうかな」

 「うん」

 「そうだといいな」

 そうだね。

 俺は、それを願ったよ。

 何よりも、何よりも。

 この世界が続いていれば、99.9%は無理でも、0.1%の可能性くらいはあったんじゃないかと、思う。



 あまりにも残酷だ。

 ただ一つの夢を見ながら、静かに生きていた俺たち兄妹の上にも、「それ」は容赦なく落ちてきた。

 突然だった。

 いきなり、空が割れた。

 あれは、新宿の方向だったと思う。

 灰色の空に、厚く立ちこめた雲を取り込んだ闇が。

 得体の知れない欠片をばら撒きながら、「それ」は落ちて来たのだと、後に誰かが言っていた。

 想像を絶する大きさだった。

 いや、そもそも想像なんて出来るわけもない。

 それまでは、誰一人として「それ」が何かなんて知らなかった。

 まして、空から落ちてくるなんて。

 「それ」が今まで何処に在ったのかなんて、ずっと空の上に在ったのかなんて。

 空の下にいた俺たちに、解る筈ない。

 新宿の高層ビル群を薙ぎ倒し、地上へ容赦なく倒れ込んだ「それ」は、異常な巨大さを除けば、何となく人間のようにも見えた。

 生きているのか、死んでいるのか。

 下敷きになって呻き声をあげる人々や、呻くことさえ出来なくなった塊が、阿鼻叫喚でしかなかった。

 そして、「それ」はそれだけで終わらなかった。

 闇とともに、大量の何かが地上に押し寄せていた。

 奴らを何と、表現したらいいのだろう。

 異形の者たちだ。

 角が生えていたり、牙や爪が異常に発達した生き物だった。

 皮膚はドラゴンのように硬く、口から火を噴いたり冷気を吐いたり、目から石化ビームのようなものを出すものもいた。

 人間と同じくらいのものもいれば、巨人のようなものもいた。

 ただ、人間ではないことは明らかだった。

 奴らは、人間の姿を見つけるや否や、物凄い勢いで集り襲い掛かって来るのだった。

 捕まえられたら、最期。

 食い千切られ、贓物や骨さえも噛み砕かれ、奴らの腹へ収まるのだ。

 奴らは、人間を食べていた。

 それが、地上の生き物で言う食事であるのかは、謎だ。

 空腹でなくとも、奴らは人間を手当たり次第に食べるのだと思う。

 今まで捕食の対象にされた経験のない人間たちは、恐れ戦いた。

 奴らは外見が邪悪で、嫌悪感を齎すものでしかなかった。

 逃げ惑う以外に、成す術がなかった。

 暫くの間は。

 だが、人間たちも大人しく食われるのを待つばかりではなかった。

 生き残る為に、戦うことを決めたのだ。

 不幸中の幸いで、奴らの中に飛行タイプのものはいなかった。

 そして、奴らにも弱点のようなものが存在した。

 奴らは体の中に、人の拳ほどの大きさの玉を持っていた。

 必ず、ひとつ体の中心に。

 それを露出させて破壊してしまえば、奴らは生命活動を維持できなくなる。

 というか、体を保つことが出来なくなる。

 どろどろに、溶けてしまうのだ。

 問題は、ドラゴンの皮膚並みに硬い体にどうやって傷をつけるのかだが。

 それは、とある考古学者の手によって齎されたという。

 海底深くに沈んでいた超古代遺跡から見つかった謎の物質。

 それを用いて作られた武器のみが、奴らの体を切り裂き、奴らの玉を砕き、奴らを殺せた。

 その物質が何なのかは、不明のままだ。

 それを分析する間もなく、人間たちは戦うだけで精一杯だった。

 超古代遺跡から掘り出され加工されたその武器を、手に出来る人間もまた、限られていた。

 奴らの数に対し、圧倒的に少なかった。

 命を懸けて、死を覚悟で海底に潜る人間もまた、そうそういたものでもなかった。

 戦況は一向に、好転しなかった。

 寧ろ、悪くなる一方だった。

 このまま皆で死んでしまおうという集団も現れ始めていた。

 或いは、総ての人間を平等に生かすことはせず、選ばれた者たちのみが生き延びればいいと考える者たちもいた。

 高く高く聳え立つ巨大な壁を張り巡らせ、その者たちは其処に居住した。

 選ばれざる者たちは壁の内側に入ることは許されず、盾に使われていた。

 俺と妹もまた、選ばれざれる者たちだった。

 壁の外で、怯えながら生きていた。

 あれから既に、多くの人間が食い殺された。

 俺と妹が生き延びているのは、運が良かったわけではない。

 壁の外に放置された者たちも、自らを護る為に壁を築き上げていた。

 最初に作られた壁の外側を囲うように。

 俺は妹を先生に預け、壁づくりに参加した。

 その時に、見付けたのだ。

 ひっそりと、草の陰に突き立てられた剣を。

 それは、奴らを唯一殺せる素材で作られていた。

 何故、そんな場所に突き立てられていたのか。

 持ち主がいないのは、何故なのか。

 食われたのか、それとも・・・・・・。

 考えている暇はなかった。

 俺は、剣を手に取った。

 本当は俺たちも、何処かの集団に加わるべきだっただろう。

 けれど、敵は奴らだけではなかったのだ。

 別の意味で、恐ろしい敵がいて、そいつらは俺たちを同じ姿をしていた。

 見ず知らずの他人を、信じることが出来なくなっていた。

 そうして、襲い掛かってくる敵を、俺はもう数え切れないくらいに、殺した。

 妹を護る為、ただそれだけの理由で。

 背中側で妹が、また激しく咳をした。

 本人は隠しているけれど、とうとう妹は血を吐くようになった。

 こんな状況下じゃ、薬なんか手に入らない。

 こないだの地震で、先生とも逸れてしまった。

 このままじゃ、妹はもう数日も持たないだろう。

 「ごめんね・・・・・・お兄ちゃん」

 「謝らなくていい」

 「でも・・・・・・わたしが咳をするから、悪魔に・・・・・・見つかっちゃうよ」

 「見つかったら、お兄ちゃんが全部、殺すから」

 だけど、俺の方も体力的に限界だった。

 もう、何日も飲まず食わずだ。

 折角の剣も、振るえなければ意味がない。

 それでも、妹の前でこんな姿を見せるわけにはいかなかったから、

 「何か、食べられそうなもの、探してくるよ」

 俺は、剣をどうにか持って、立ち上がる。

 「此処に隠れているんだよ」

 「わかった」

 と、妹がうっすらと笑った。

 その、直後に。

 「!?!?!?!?」

 俺の体に、謎の衝撃が走った。

 何事かが分からず、数回瞬きをした。

 痛みは、時間をおいて訪れた。

 何が起きたのかを、俺自身が理解した瞬間だった。

 「あ゛あ゛あああ゛あぁぁあ゛あ゛ああぁぁあああ゛ああっ!!??」

 剣を持ったまま、俺は噛り付かれていた。

 辛うじて、まだ体は全部が繋がった状態だった。

 奴らだ。

 どうして接近に気が付かなかったのか。

 妹に気を取られ過ぎていたのか。

 今更、答えを知っても遅い。

 嫌な音を聞いた。

 俺の骨が、肉と一緒に持って行かれる。

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 妹の悲鳴が上がる。

 奴らは、妹も食い始めていた。

 「怖い、怖い怖い怖い、怖いよぉ・・・・・・お兄ちゃん」

 助けて、と叫んだ。

 やめて、と叫んだ。

 生きたまま、食われるだなんて。

 そんなものを、俺に見せるなんて。

 嗚呼、俺はこの世で唯一の大切なものさえも護れないのか。

 こんな、最期の瞬間まで、兄に助けを求める妹が、ただただ哀れだ。

 死ぬんだ。

 俺たちは、今、死ぬ。

 死にたくない。

 死にたくない。

 どうして、俺たちなの。

 どうして、こんな世界になったの。

 教えて、助けて、誰か。

 誰でもいい、ねぇ、誰か。

 「答えなんか、無い」

 俺の問いに、誰かが答えた。

 「強いて言うなら、遠い過去の人たちの過ちが、この事態を招いた」

 誰。

 俺は問いかける。

 返事はない。

 「・・・・・・どうすればよかったのか、なんて。どうしていけばいいのか、なんて。分からない」

 生き残る為になら、何をしたって構わないのか。

 本当に?

 「ただ、これだけは言える」

 小さな影が跳躍した。

 「それは、こんなこと絶対に、許しちゃいけないってことだ」

 「!」

 俺よりもずっと小さな少女だった。

 息を呑むほどに華奢で、幼気な少女。

 その少女は、奴らを一匹も残さず木っ端微塵にするまで、十秒もかけなかった。

 少女が、

 「しね」

 というだけで、奴らはただただ死んでいった。

 武器なんて、必要なかった。

 「まとめてくればいい」

 大群の第二陣に、少女は言い放った。

 「一匹だって、逃さない。皆殺してやる」

 少女の瞳は、如何なるものをも圧し、怒りを滾らせていた。


 ―――これは、大災厄に見舞われた後の世界の、物語。

 神になり損ね、神を名乗った者たちの歴史を記す。

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Good night 霜野 結姫 @YUUKi_SHiMONO

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