幕間

緊急会議

「それでは今から、緊急会議を行います。進行は、学校ではクラス委員長の私、森山 雫が努めさせて頂きます。」


 わぁ〜!パチパチパチ!×4


「雫!素敵よ!」

 パシャ!


「もう、お姉ちゃん…」


 今日はお姉ちゃんとアキさん、龍二さんとスミレさん、それに私が集まって緊急会議を開催しています。


 議題は…


「えーっと、龍二さんとスミレさんのお店がグランドオープンするまで、後一ヶ月を切りました。それにあたり、まだ決まっていない事がありますね?」


 四人とも真剣な表情で頷いているけど、正直私はこう思うのだ。


 遅くない?


 なんか、こういうのってお店を始める時に最初に考えると思うんですけど…


 違うのかな?


「そうです!店名が決まってないのです!

 これは由々しき事態だと愚考します!」


「そうね!雫の言う通りだわ!」

 パシャ!


「雪乃、落ち着いて…」


 アキさんがお姉ちゃんを宥めてる。

 正直、ちょっと恥ずかしい。お姉ちゃんは私の晴れ舞台だと言って、さっきから写真を撮りまくってる。

 その行動も恥ずかしいけど、今日の私は、花粉症で鼻が少し赤いし…


「でも龍二、お前の中にはある程度候補があるんじゃないか?」


 アキさんが弟子の龍二さんに候補を言ってみろと、意見を促しました。


「そうだね師匠、店を作ったらこれにしようと思ってたのはあるよ?」


「そうなの!龍ちゃんはもう決めてるみたい。」


 そうなんだ。二人の中ではもう決まってるんだ。じゃあ、なにもこんなに慌てて会議しなくても良かったんじゃないかな?


「じゃあ龍二さん。発表してください。」


「わかった。店名は『龍’s BAR』だ!」


「龍ちゃん素敵♡」


 え?本気?


「なんなの、その思わず瞳を閉じそうになる名前は?」


「雪乃、その突っ込みは分かりづらいから。と言うか龍二、お前BARを作るんだっけ?」


 うんうん。私もそう思った。バー?


「いや、違うけど?なんかカッコイイかと思って。」


 ダメだ、これは会議して正解だ。


「ちょっと菫!いいの?二人のお店なんでしょ?龍ちゃんの名前しか入ってないじゃない!」


「お姉ちゃん?そう言う問題?」


「え?そうか…龍ちゃん、私も入れてくれる?」


「心配するな菫。ちゃんと入ってる。『龍’s← BAR』ほら、ここに菫のsが入っているだろ?」


「龍ちゃん♡」


 ええ〜。スミレさんって龍二さんが絡むとダメダメになっちゃうよね。


「馬鹿野郎!却下だ!て言うかBARじゃないだろ。」


 アキさんはこの四人の良心だ。


「はい、それでは龍二さんの案は却下となります。」


「雫!輝いてるわよ!」

 パシャ!


 …もういいや。

 突っ込む余裕も、今の私にはない。

 何故なら、今にもくしゃみが出そうだから!

 くしゃみを堪えながらの進行は、なかなか大変なんだから。はぁ〜、嫌な季節だなぁ。私の一番好きな季節は秋。その次に冬。そして夏となって、憎き春。


「なん…だと」


 私がボーっとする頭で、ボーっと考えていたら、いつの間にか正面で龍二さんが項垂れていた。

 さっきの店名、本気で自信があったんだね。

 どうかしてるよ。


「じゃあ明夫さんと雪乃なら、どういった店名がいいと思うのかしら?」


 龍二さんを慰めながら、スミレさんが二人に協力をお願いする。


「そうね、どうせなら二人の苗字に因んでみたら?そしたら二人の名前が入るでしょ?それと、あんまり洒落た名前にすると、繁盛しないわよ?親しみがあって、常連さんが来やすくなるような感じがいいかしら。」


 なるほど。伊達にお姉ちゃんは、色々なお店に出入りしてるわけじゃないようだ。


「あ、じゃあはい!」


 スミレさんが元気に手を上げた。


「はい。スミレさん、お願いします。」


「苗字よね?じゃあこれはどうかしら

『喫茶 川口』どう?」


 ス、スミレさん?き、喫茶?


 項垂れていた龍二さんも目を見開いてスミレさんを凝視してるし。

 あれは…冷や汗かな?


「スミレちゃん…何故に喫茶?」


 アキさんも苦笑いしながら尋ねてる。


 あ、お姉ちゃんなんか顔を逸らして肩が揺れてる。


「えーっと、語呂が良かったから?」


「ぷっあははは。」


「お姉ちゃん!」


 あーあ、ついにお姉ちゃん爆笑しちゃったよ。私なんか堪えるの必死なんだから!

 今笑ったらくしゃみも一緒に出ちゃうじゃない!


「兎に角、BARでも無ければ喫茶店でもないだろ?居酒屋だって言ってたから、俺も雪乃もそれにそったメニューを一緒に考えたんだ。だったら 『居酒屋○○』って感じじゃないのか?あるいは『呑み処○○』みたいな感じかな。」


 そうです!アキさんは正しい!


「でも師匠、『居酒屋 川口』とかだと、なんか店内で演歌とか流れてそうじゃないか?」


「うーん、確かにな。」


「じゃあ龍ちゃん、あだ名とかあったんじゃない?」


 なるほど!それなら親しみやすいかも!


「あだ名、あだ名かぁ。ぐっさんとか、ぐっちゃんとかかな。何何口って苗字の人間は大概こんな感じじゃないかな?」


 ですよね〜。

 ウチのクラスの関口さんは、ぐっちゃんって呼ばれてる。


「龍ちゃん、取り敢えず『居酒屋 ぐっちゃん』にしてみる?」


「うーん…まだ後一ヶ月近くあるから仮にそれで進めてみようか。」


「いいんじゃない?ね?明夫?」


「まぁ、妥当な所じゃないか?いい名前があったら変えればいいさ。あ、絶対に二人で決めるなよ?」


 一応これで纏めていいのかな?

 花粉症のせいで頭がボーッとしてきたし、もう終わりでいいよね?

 あー、くしゃみでそう…


「それでは仮になりますが、

 店名は『居酒屋 ぐっち!』あ…」

 パシャ!


 思わずくしゃみ出ちゃった。

 お姉ちゃんなんで写真撮ってるの!


「あっはっはっは!雫可愛い!

『居酒屋 ぐっち』で決まりね!」


 ええ〜…




 ◇◆◇◆◇◆


「なんて事がありまして、ぐっちになったんですよ。」


「マジかよ…」


 ある日のシンさんとの会話でした。

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