第25話 告白

 一時的に俺の家に避難する事になったので、雫の着替えや、生活必需品をある程度纏め、大きめのキャリーバッグに詰め込んだ。


「しばらくの間、よろしくお願いします。」


 頬を赤らめて、雫が頭を下げる。

 なんだこれ?避難だよ?

 若干嬉しそうに見えるのは気の所為と言う事にしておこう。


「シンちゃん、雫の事よろしくね。雫、ヤリすぎちゃだめよ?」


「ス、スス、スミレさん!何を言ってるんですか!」


「フフっ。あまり考え過ぎないで、楽しんで来なさい?」


「ちょっと、スミレさん?これ避難だよね?もう少し緊張感持とうよ。」


「シンちゃん、こんな状況だからって、ずっと緊張してたら胃に穴が空いちまうぞ?」


「大将も余裕だな…」


 もうこの夫婦は肝が据わってるって言うか、肝がコンクリートで固められてるんだろう。


 動じないんじゃない。あまり気にしてないんだ。


 まぁ今はそんな態度が、雫の為にも有難い。

 俺も肝を据えよう。


「まぁいいや。そういう事なら雫、毎日いっぱいしような?」


「ななな…シンさん!?………エヘへ」


「あらあら、若いわね〜。」


「菫、じゃあ俺達も頑張ろうか!」


「龍ちゃん!大好き!」


 混沌としてきた。


 こんな軽口を叩くのも、雫の為だよな。

 川口家は雫の事が良くわかっているんだな。


 だよな?そうだよな?


 いやいや、大将?スミレさん?

 なんで抱き合ってるの?


 もういい、家に帰ろう。


「あ、雫ちゃん!明後日に師匠が帰って来るからさ、店においで?」


 帰る間際、大将が雫にそう声をかける。


 師匠?

 それを聞いた雫は、とても嬉しそうに頷いた。



 さて、雫を連れて、俺のマンションに到着した。

 賃貸だが、割とセキュリティもしっかりしてるし、安心して過ごせばいいと雫を部屋に案内する。


 ウチにはあまり物がない。だから雫の荷物を置いておくのも問題ない。


 適当に荷物を置いて貰って、一応部屋の中を案内した。


「本当に物が無いですね…あ、ごめんなさい!」


「ははっ。なんで謝るの?広くて良いだろ?ベッドは一つしかないから、一緒に寝る?」


「あ、一緒に寝たいです!シンさん、キッチン見ても良いですか?」


 キッチンも大して物がないんだよなぁ〜。


「食材とか殆ど無いから、ここに居る間は外に食べに行こうか?」


「お世話になりっぱなしなので、ご飯は私が作ります!」


「あ、え?いいの?」


「はい!料理好きなんで!」


 という事で、雫に料理を任せるようになった。


 早速、近くにあるスーパーに食材を買いに行く。


 レジ袋を持って、二人で歩いていると、雫が寂しそうな顔をしている事に気付いた。


「どうした?何か思い出した?」


「はい。お姉ちゃんとも良くこうやって買い物に行きました。一人になって気付く事って多いですよね。やっぱり家族っていいな〜って。」


「そうだね。俺も家族居ないからな。たまに寂しくて、この世に一人なんじゃないかって気持ちになる。だから無理をして結婚までして。でもやっぱり家族は愛し合ってないとダメなんだって思ったよ。雫はちゃんと愛し合える人と一緒になりなよ?」


「私、人を本気で好きになるのが怖くなって、シンさんとこんな関係を続けさせて貰ってますけど、やっぱりちゃんと人を好きになりたいです。」


 不意に立ち止まり、此方を伺う雫の視線に戸惑った。


「私はシンさんが好きです。恋人になりたいのか、家族になって欲しいのか、今は自分の気持ちが良くわからないですけど…」


 雫の告白に、俺はどうする事も出来ない。


 今じゃないんだ。

 この状況を乗り越えて、普通の関係を築いて、それから自分の気持ちに向き合って…


 俺達は最初から身体の関係になってしまったから、気持ちがついて行っていない。


 身体の関係をもつと、感情も引っ張られやすい。

 寂しい思いをしている雫は特にそうだと思う。後悔しないようにして欲しい。


 寂しいから傍にいる人を好きになるのではなくて、好きだから傍にいたいと思う人を選んで欲しい。


 俺は…俺には受け止める事が出来ない。

 こんな言い方は良くないんだが、適当で軽い気持ちなのだとしたら、受け入れられるかもしれない。


 だけど、俺は雫の事を知ってしまった。

 彼女を大事に思っている人もいて、どんな思いで彼女を見守っているかも、知ってしまったんだよな。


 一時しのぎで、羽を休めるための枝程度なら、支えてやれる。だが、こんないい子の一生を支えるには、俺には足りないものがある。


 俺は誰も愛せないから。

 軽い気持ちで、時間をかければ愛情がわいてくるなんて、いい加減な事を言いたくはない。


「今はまだ、無理に色々と答えを出す必要はないさ。多分、自然と答えは出るんじゃないかな?」


 誤魔化すようにそう言った。

 今この場でお断りをしたら、ただでさえ不安定な雫の精神状態が、更に良くない方向に向かうかもしれない。


 別に付き合って欲しいと言われた訳でもないんだ。

 この問題が解決して、きちんと話し合えば良いだろう。


「そう…ですね。」


「腹減った!今日は何を作ってくれるのかな?その後、雫も食べていいよね?」


「私は食べ物じゃないですよ?でも、私がシンさんを食べちゃうかも知れませんけどね?」


 今は現状をどうにかする。


 考えるのはそれからだ!それ迄はいつも通り!


 あ、どうにかしてくれるのは川口家か…

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