第24話 深入りしない。それが大人。
元婚約者の衝撃的な事実を知った雫は、あまり話が出来る状態ではなくなっていた。
色々な感情が入り混じっているのだろう事が伺えるその顔を見ているだけで、今にも壊れてしまいそうだと心配になる。
こういう時に頼りになるのは、やはり家族の存在、或いは恋人だろう。
残念ながら、俺はそのどちらでも無い。
だから、俺に出来る事は少ないし、雫も俺に対して、家族や恋人程頼りには出来ないという思いが伝わってくる。そこまでは求めてはいないのだろう。
ならば俺が出来る事は何か?
そうだな…雫の問題を一緒に受け止める事が出来ないのであれば、俺は彼女の逃げ場所になろう。
一時しのぎにしかならないが、その間に彼女を思って彼女の為に動いてくれる人達がいる。
解決の糸口が見えるまで、雫は俺が預かる事に決めた。
今日は雫を抱き締めて眠ろう。
当然かもしれないが、眠れないようだった。
「雫、大丈夫?」
「あ、はい。あの、シンさん。」
俺の胸の中で小さくなりながら、身体を密着させてくる。
どうした?と彼女が何か言いにくそうにしている言葉を促す。
「暫く、会うのやめませんか?シンさんまで危ない目にあって欲しくないです。」
自分の心配をしなさいよ。
こんなだから守ってあげたくなるんだよな。
「はははっ…雫は心配し過ぎだ。ぶっちゃけ明日にでも警察にさっきの話をしたら、終わるような気もするけどな〜?」
「そうでしょうか?」
「断言は出来ないけどね?でもあの男が自由に動けなくなるのは間違いないと思うよ?」
「だったら良いですけど…」
「もしそれでも警察がなかなか動いてくれそうになかったら、来週まで家においで?送り届けるって話だったけど、俺の家に来た方が安全だろ?あの男は俺の家なんか知ってる筈もないんだから。」
「え?シンさんの家に?」
あら?急に雰囲気が変わったな。
やっぱり明らかに狙われるだろう自分の家より、安全地帯に行ける事が安心になっているのだろう。
「そ、それって、同棲じゃないですか!」
あー、そっち?それが嬉しいのか?
何はともあれ、少しでも気が休まったのなら良しとしよう。
翌朝、雫のマンションに向かった。
幸いあの男は居なかったので、何事も無く雫の部屋まで辿り着いた。
部屋のドアを開けて、右手にある下駄箱の上に、雪乃さんの写真が置いてある。
「また来てしまいました。お邪魔します。」
雪乃さんに挨拶をして、部屋に上げてもらう。
取り敢えずソファに座り、雫にコーヒーを入れてもらった。
人心地付いたところで、川口家にメールを入れてもらう。
朝なので川口家もまだ家に居ると思ったが、居酒屋を経営している為、深夜まで仕事をしている。
まだ寝ている可能性があるので、時間が出来たら連絡をくださいと。
しかしそんな心配は必要なかったようだ。
メールを送ってすぐに雫の携帯が鳴った。
「今から二人でこっちに来てくれるそうです。」
ややあって、川口家はやって来た。
「スミレさん、龍二さん、朝早くからすみません。」
「大丈夫よ。シンちゃんも居るじゃない。何かあったの?」
「じゃあ、俺から話すよ。大将、スミレさん、昨日一週間時間くれって言ってたけど、ちょっとこっちも、話が俺達の手に余るからさ、色々と伝えないといけないヤバい事も出てきたし。」
「ヤバい事?何か向こうからの動きがあったのかい?」
二人に、昨夜聞いたユミさんとの会話を話した。
雫には大丈夫と言いながらも、俺的には、大変な事態だと思っているのだが、二人は存外動じないで話を聞いてくれた。
話を聞いた後、『警察には連絡をしないといけないけど、それは此方で連絡する。ユミさんって子も悪いようにはしない。』なんて言ってくれたが、悪いようにはしないってさ、この夫婦はいったい…
深入りしない。それが大人。
「龍ちゃん、ちょっと面倒な事になったけど、逆に探りやすくなったんじゃない?」
「そうだな。早目に片をつけよう。」
深入りしない。それが大人…なんだが…
「なぁ大将、そんな簡単に考えて大丈夫なのか?」
どうしても不安が消せないし、川口家との温度差が酷い事になってるから、聞かずにはいられなかった。
すると、スミレさんがニッコリ笑って手招きをする。
スミレさんの傍にいくと、耳打ちをされた。
「あのね、ウチのお店、入口に観葉植物あるでしょ?」
「あぁ、あるね?」
「あれね、レンタルなんだけど、幾らすると思う?」
何の話をしているんだ?そう思ったのは一瞬。
聞いた事あるな…
観葉植物やおしぼりを取り扱う業者があって、その業者って…
「あぁぁぁあ!もういい!」
思わず耳を塞ぎ、聞こえないフリをすると、スミレさんは、怪しく微笑み、それ以上の話はしてこなくなった。
深入りしない!!それが大人!!
「そうだ、奴の動向がわかるまで、俺ん家に泊めようと思うんだけど、いいかな?」
「あら?同棲するの?」
「あ、いえ。その、一時的に避難させて貰おうかと…エヘへ」
「ふぅ〜ん。まぁいいんじゃない?」
なんだこれ、三人ともニヤニヤして。
昨日までの張り詰めた空気感はどこに行ったんだ?
川口家凄いな。器がデカいんだろうな。
俺の器ってお猪口くらいなんじゃなかろうか。
いや、多分潜り抜けた修羅場が違うんだ。
修羅場って…なんだ?
まぁいいや。この二人がいると雫も安心しきってるのか、自然な笑顔が見える。
取り敢えずこの件は、色々と川口家に任せて問題無いようだな。
川口家じゃないとどうしようも無いとも言えるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます