第21話 クズたる所以

 雪乃さんが亡くなった当時、雫と住んでいたマンションの辺りでは、通り魔が問題になっていた。

 深夜に一人で歩いている女性を狙って、カッターで切りつける事件だった。

 三人の被害が出ていたが、何れも軽傷で、逃げて行く犯人も目撃されていた為、間もなく逮捕された。


 結果、四件の被害を出して事件は終息した。


 四件目の被害者こそが雪乃さんだった。

 今までと違い、背後からナイフのような物で足を刺され、大事な血管を傷付けた。

 更にハンドバッグも奪って逃走。


 人通りが少なく、携帯もハンドバッグと一緒に奪われた為、発見は遅れ出血多量で亡くなった。


 当時全国ニュースになったので、俺も覚えている。


 逮捕された犯人は、18歳の女子高生だった。


 受験のストレスが原因だと、そんな報道があった気がする。


 確か、一貫して四件目は自分ではないと話し続けていたらしい。


 その後の話は良く分からんが。




 ユミさんが話している内容に、疑問を感じたのか、雫は不思議そうに尋ねる。


「セックスが良くなった事と、クズのクズたる所以に何の関係あるんですか?」


 まぁ、普通はそう思うよな。

 でも今朝見たあの男の様子から話を繋げると、何となく見えてくるものもある。

 だってさ、あの様子だぜ?

 今朝の激昂した表情を思い出すと、真っ赤になった顔をして、目もイッちゃってる感じだったからな。

 あんな奴を見たら、冗談でもそういった可能性を考えてしまうだろ?


 まさか、とは思うものの一応聞いてみる事にした。


「クスリ、使われたのか?」


「え?!シンさん?」


『…そう。正直あまり人に言いたくないんだけどね。あのクズが捕まったら、私も捕まるんじゃないかとか、不安でさ。』


 確かに。無理矢理とか、知らない間に使われてた場合ってどうなるんだろう。

 クスリを使用してのセックスは、特に女性に効果が出ると言う。それが女性がハマりやすい原因の一つだと。


「その後も、何度か会ったのか?」


『いや、会ってない。セックスした時にとんでもない快感があって、終わった後私、ベッドで抜け殻みたいになってたの。気が付いたらあのクズ、ソファで何か炙って吸っててさ、凄い腹が立って今度こそぶん殴ってやろうと思ったんだけど。』


「踏みとどまったのか?まぁクスリやってるような奴に何か言って、逆上されるのも怖いからな。」


 クスリがどういう物か、どういう症状が出るかなど俺は知らないが、不安定になるイメージが強い。

 怒りっぽくなるとか聞いた事もあるしな。


『いや、それもそうなんだけどね。なんかブツブツ独り言呟いてるのが気持ち悪くて。その内容もさ、多分雫ちゃんの事だと思うんだけど。』


 さっきから雫は青い顔をして、小刻みに震えている。


 俺は雫を抱き寄せ、落ち着かせるように髪を撫でながら、ユミさんの話に相槌をうつ。


「どんな内容だったの?」


『んー、あの女俺の物の癖に逆らいやがってとか、あんな事になるのは想定外だったとか、あの女が悪いとか。もうなんて言うの?自分勝手の極みだよね。それですぐに逃げて、メールとか色々と来てたけど、あんな物使ってる人とは付き合えないって何度も断ってたわけ。最後に電話で何か喚き散らしてたけど、こっちも怒りMAXだったから、めちゃくちゃに罵倒してやったら、ごめんなさいとか急に言い出して、それっきり。雫ちゃんの方に行くんじゃないかと思って連絡しようかとしたんだけど、クスリの事があったから…遅くなってごめんね。』


「いえ…ありがとうございます…」


 雫はか細い声で礼を言う。


 これは不味いな。

 聞いてるだけでも精神不安定なのが伺える。


「色々と言い難い事も聞かせてくれてありがとう。もう関わりたくないと思うけど、何か聞きたい事が出来たら連絡してもいい?」


『そうね。正直関わりたくない。けど、またいつかこっちに来るかもしれないし、私も情報は入れときたいからいいよ?』


 情報をくれたユミさんに礼を言い、電話を切った。


 雫は聞いた内容が衝撃的過ぎて、改めてあのクズに狙われている事に恐怖している。


 はぁ〜、こりゃ手に負えないかもしれないな。


 俺が出来ることも限られているし、取り敢えず警察に連絡したら終わる話なのかな?


 その時はユミさんに迷惑がかかるが、しょうがないだろう。


 一週間と言わず、明日にでも川口家と相談しよう。


 今日のところは、雫を落ち着かせて寝かせてやるか。

 それともこういう時だから、抱いた方が良いのか。


 わからん。

 あー、とんでもない事になってきたなぁ。

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