第22話 森山 雪乃1
フードコーディネーターなんて肩書で名刺を作ったものの、そんな大した事はしてない。
初めは料理教室を作って、たまたま近所の個人飲食店の経営者と知り合って、メニュー開発の手伝いをしたら、それなりに繁盛した。
その経営者の紹介で、また他のお店を手伝った。それの繰り返し。
人と人の繋がりがあってこそ、今の自分が居ると思っているわ。
だから、謙虚な姿勢は何時までも忘れないようにしないとね?
アドバイザーとして関わったある飲食店の経営者に『小嶋 明夫』は居た。
仕事に対しての真摯さと謙虚な姿勢、人あたりの良さ、いざと言う時に頼りになる彼の事を尊敬してた。
菫の旦那である龍ちゃんに彼を紹介して、暫く修行させてもらったり、お世話になった事もあって、好感を持ってたわ。
ただ一点を除いてね!
彼のお店はランチタイムから夕方迄はカフェのような事もやっていて、雫もよく利用していたの。
私の妹だって知っている彼も、雫に良くしてくれた。
それは良しとしましょう。
でも私は知っている。雫が彼にほのかな恋心を抱いている事を!
彼に向ける雫の笑顔の眩しいことときたら…いえ、雫の笑顔は何時でも眩しいのだけどね。
ったく、私の雫に色目を使うなど言語道断だわ。
ちょっとイライラして態度に出てたのかもしれないわね。
彼も雫に対して悪い印象を持ってなくて、『雫ちゃん可愛いね。』なんて宣ってるもんだから『当たり前よ?』なんて冷たく言って彼に冷や汗をかかせたりしたわ。
だから少し驚いた。
ある時彼から結婚を前提に付き合ってくれと言われたことに。
その時私の頭に色々な思いが渦巻いていた。
何故私なのだろう?
私は彼の事を好きなのか?
雫の思いを知っているのに…
結婚なんかしたら雫はどうなるのか?
困惑している私を見て、彼は苦笑いをしながら『俺じゃダメかな?』なんて私の気も知らず呟いてるものだから言ってやったわ。
「私の優先順位は雫が一番。あなたはそれでも私と結婚したい?」
「そんな事は知ってるさ。俺はそんな君を尊敬してる。そんな君だから、俺は結婚まで考えたんだ。」
よくそんな恥ずかしい事が言えるものね?
……なんだか今日はやけに暑いわ。空調が壊れてるんじゃないかしら?しょ、食材が傷まないか心配になってきたわ。
「そう…私もあなたを尊敬してる。お互いに尊敬し合えるなら、良い関係が作れるのかもしれないわね。」
何故かしら、彼の顔を見れなかった。
ああ!そうか!!そうよね!!!
きっと、食材の事が気がかりで、挙動不審になってしまっただけ。そう、それだけよ!
まったく、なんて暑さなのかしら。
両親が他界してから、私は恋愛なんかしている暇があったら雫と一緒に居ようと決めていた。
雫が、自分のせいで私が彼氏を作れないんじゃって、申し訳なさそうに言ってきた事があったから、一度だけ、告白してくれた男性とお付き合いをしたけれど、私があまりに雫を優先させるものだから、これじゃ付き合ってる意味が無いと言って離れて行ったわ。
「じゃあ!」
「まって!当然だけど、先ずはお付き合いから。それで嫌になるかもしれないし…」
「ありがとう!絶対に幸せにするから!」
「気が早いわね。それと一つ条件があるわ。」
「条件?まだOK貰えてなかったんだ。でもその条件を俺が飲めればってことだな。」
「そうよ。条件は、もし私があなたより先に死んだとしたら、私の代わりに雫を守ってあげて欲しいの…」
「え?どう言う…なにか病気でも?」
「違う違う。私達にはお互いしか家族が居ないの。両親が事故で他界して、だから私達には突然の別れが怖いし、身近にあった事だから…」
「ああ、なるほど。」
「約束してくれるなら、お付き合いして下さい。」
「わかったよ。任せて!二人とも幸せにしてみせる!」
舞い上がっているのね?
変な事口走って…
この人なら雫も任せられる。
後は雫にどう話そう…
あぁぁぁ!雫の泣き顔とか想像したら居た堪れない…
やっぱり断わるべきかしら?
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