第19話 生クリームセット
夕方まで二人で色々と楽しんだ。
色々とは何かって?
それはまぁ、色々だよ。
その中でも、昼食後に『デザート頼んで良いですか?』と聞かれ、それが雫の気になっていたメニューだと知り、俺も興味があったので頼んでみた。
『生クリームセット』?
良くわからん。生クリームの何をセットにするんだ?色々な味があるのか?
運ばれて来た
なるほど、フルーツに生クリームを付けて食べるのか。
それにしては、生クリームの量が明らかに多い。
透明の容器に、氷が張られ、その中に透明のボールが入っていて、たっぷりの生クリームが…
雫はニコニコしながら、『これ興味あったんですよ〜!』なんて喜んでいるからまぁいいか。
フルーツを摘んで生クリームに付け、一口で食べる。
んー、それ程甘ったるくなくてイケるな。
「甘さ控えめで、なかなか美味しいじゃん?雫も一口たべ…」
雫にも勧めようと隣を見て、言葉が止まった。
「シンさん…デザートです。召し上がれ?」
胸に生クリームを乗せて悩ましげな視線で此方を伺ってくる。
……フッフッフ。
なるほどな。だから生クリームの量が多かったのか。
いやいや、でもそれは流石にハードル高いよ?
いくらエロ紳士へと進化覚醒した今の俺でもちょっと恥ずかしい―――
なぁんて事はある訳もなく、やたらと興奮してしまい、雫の肩を両腕で掴んだ後、真剣な顔をして一言。
「いただきます!」
「あんっ!…召し上がれ?」
かなりの量だと思っていた生クリームは、あっという間に無くなり、フルーツに付ける分が足りなくなってしまった。
だがな、構わん構わん!!
そんな些事、かまへんかまへん!!
メニューにあった、生クリームセットの紹介文はこうだ。
『二人の甘さを際立たせる、甘さ控え目な生クリームです。
いつから雫はこれに目を付けていたんだ?
エッチに対しての感覚が、かなり変わったよな。
こんな事まで…悪くないな。
胸焼けするかと思ったがそんな事もなく、十分に楽しんで、リフレッシュ出来たと思うが、帰ったらまた例の件で悩んでしまうんだろう。
「雫、今から『ぐっち』に行かないか?それで疲れてたり用事がないなら、その後またホテルに来ようか。」
「え?いいんですか?お休み二日とも私が貰っちゃって?」
「全然大丈夫。もっと雫としたいし。」
「えぇー。私もです…フフっ」
それもあるけど、本当は帰るのが怖いんじゃないかと思ったからだ。
あの男が張ってるかもしれないしな。
と、言う事で、一度二人で『ぐっち』に向かうことにした。
俺は車だから、今日は飲めないけどな。
ホテルで雫と飲み直そう。
最近になって分かった事がある。
実は、雫は酒に弱い。
初めて会った時は、緊張して飲んでも酔えなかったと言っていた。
最近一緒に飲むと、安心しているのかすぐに酔っ払って、絡み付いてくる。
基本、雫は甘えん坊なのだ。だから俺と会うまでの期間は彼女にとって、とても辛い物だったと思う。
スミレさんによると、それでも周りに心配をかけないように、気丈に振舞っていたようだ。
『ぐっち』に着いて、暫く大将やスミレさんと当たり障りのない馬鹿話をしながら、雫には酒を飲ませ、少し疲れていたのか、うつらうつらし始めたので、肩を貸して眠らせた。
今のうちに、スミレさんに聞いておきたいことがあった。
「スミレさん、雫の元婚約者と面識あるの?」
「ええ、一応は紹介してもらったわよ?どうしたの?」
「いや、スミレさんがどんな印象を持ったのかと思ってさ。スミレさんって人を見極めるのが異常に上手いじゃん?」
そう、スミレさんの観察眼は凄い。
超能力者なんじゃないかと思う程だが、恐らく高級なお店のママさんをしていたようだから、一般人とは一線を画す場数を潜り抜けてきた賜物だと思う。
「フフっ、異常って失礼しちゃう。そうね、一度しか会ってないけど…正直結婚を辞めさせたかったわ。」
「んん?なんで?」
「目がね、嫌な感じだったの。なんて言うか、自分に対して損か得かみたいな目で人を見てるって気がして。この人は雫の事も物のように見てるんじゃないかって。」
やっぱりこの人パネェ…
一度しか会ってないけどって、俺は今朝あの態度を見たからスミレさんと同じような感想をもてたけど、紹介されたって事は普通に挨拶しに来たはずだ。
なんでわかるんだよ…
「へ、へぇ〜…そ、そうなんだ。詳しい人柄とかは知らないんだよね?」
「さっき言った通り、一度しか会ってないから知らないわ。でも、雫には辛いかも知れないけど、あの男の自爆で別れてくれて良かったわ。雪乃だって生きてたら反対したはずよ?」
そうだな。確かに結婚してたら幸せになれなかったと思う。
「さっきからあの男の話をしてどうしたの?雫から何か聞いたの?もう関係ないから気にしなくても良いと思うわよ?」
「所がさ、もう関係ないって状況では無くなってるんだよ。」
「どういう事?」
スミレさんの表情が厳しくなった。
なんだろ、オーラ?が出ているのか?怒りのオーラ?背中に冷たい汗が…あはは。
「実は今朝…」
俺は一通り、今朝あった事と雫がどういう精神状態か、待ち伏せの危険がある事などを詳しく話した。
話していくうちに、スミレさんの表情が怒りで歪んでいく。
「何を考えているのかしら…もう別れたって聞いたから安心してたのに。雫ももっと私達を頼ってくれても良いのに…」
スミレさんは少し悲しそうな顔をして、俺の肩で眠っている雫を見る。
「二人が大切だから、心配かけないようにしてるだけだよ。でも、こんな事が起きてるのにそれを相談しない方が、逆に心配させるのをわからないかな〜?」
雫の頬をつんつんしながら、呟いた。
「本当よね。私ちょっと調べてみる。龍ちゃん!」
「ん、聞いてたよ。シンちゃん、少し雫ちゃんの事頼むよ。一週間時間貰えるかな?」
「頼むって、どうしたもんかな。大将なんかするの?」
「はっはっはっ!内緒だ!スミレも雫ちゃんの事守ってあげな?」
「任せて!」
なんなんだろう。川口家…
あまり内緒って所に深入りしない方が懸命だな。
しかし、もう一つ聞いておきたい事がある。
「なぁスミレさん。大将も。」
「ん?何?」
「なんだい?」
「二人は顔が広そうだからさ、雫に紹介してやれる男っていないのか?」
「シンちゃんを紹介したじゃない?」
スミレさんがニヤニヤとしながら言う。
大将もニヤリとしてるし、似た者夫婦だな。
「いや、分かってて言ってるだろ?」
ため息をつきながらそう言うと、二人は顔を見合わせて、困ったような顔をする。
「冗談よ。私も龍ちゃんもね、雫の事はちゃんと考えているのよ?」
「シンちゃん、変な事に巻き込んで悪い。俺達もこんな事になるとは思ってなかったんだ。迷惑じゃ無ければ、雫ちゃんの事、もう少し任せてもいいかい?」
迷惑なんて事ある訳ないだろ。
「いいよ。ここで引いたらヤリ逃げみたいじゃないか。雫はいい娘だし、ほっとけないわな。」
「ありがとう。それにもう少ししたら…」
川口家の二人には、何か考えがあるようだ。
それならそれ迄は任されようと思った。
取り敢えず、眠っている雫を起こして、ホテルに向かうことにした。
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