第二章 Birthday

第17話 いっぱいしましょうね?

 雫とセックスフレンドになってから、2ヶ月が経った。


 主に週末に会う機会が多かったが、不意に雫から会いたいと言われたら、会う事もしばしばあった。


 俺と会っている時の雫は、とても明るい様子だったが、やはり女の一人暮しは、寂しい時があるようだ。ふとした時に、なんだか不安そうな顔をしている事もあった。


 今迄は夜に会っていたが、今日は土曜日の朝。


 朝からホテルに篭もり、夕方までゆっくりイチャイチャしたいと、雫からの要望だ。


 俺達はセックスフレンドだ。

 だから恋人ではないし、お互いに束縛し合わない関係で、どちらかに好きな人が出来ても終わる関係。


 とても気楽な関係ではあるが、あまり長い期間継続する事は、雫の為にはならないだろう。


 彼女はまだまだ若いし、酷い目には合ったが、これから幾らでも出会いの機会はあるのだ。


 もう恋愛はしないって言うには早すぎる。


 雫がいない時に、スミレさんに聞いた事がある。


『スミレさん、俺は何時まで雫の傍に居ていいのかな?』


『それは二人が決める事だけれど、私も雫には幸せになって貰いたいの。シンちゃんには、繋ぎみたいな役目をさせて悪いとは思うけど…』


『ああ、それは構わないんだ。俺だってあんな可愛い子と関係が持てるなんて、幸運だと思ってるよ?』


『ありがとう。でもシンちゃんのおかげで、男全般に対しての嫌悪感は軽くなってるみたい。本当にあの事があってから、自殺するんじゃないかと思ったくらいの落ち込みでね?男の人は信じられないって言ってたもの。』


『役に立ってるなら何よりだけど、この関係ってさ…ん〜、彼女にとっての頭痛薬みたいな物なんだよ。痛みは和らぐけど、根本原因を断つ事が出来ない。ちょっとは癒されて次に行く元気を取り戻せると良いけどね。』


『そうね、でもそんなに慌てなくてもゆっくり相手を探せれば良いんだけど…今は良い羽休めになってるのは間違いないわね。シンちゃんもそうじゃない?』


『まあそれはね。俺が彼女にとっての毒にならないようにしないとな。』


『なんならシンちゃんが雫を貰ってくれてもいいのよ?』


『そんな可哀想な事は出来ないな。』



 正直さ、スミレさんに言われるまでもなく、考えたさ。何度も身体を重ね、自分の気持ちと向き合い、雫の事をどう思っているのか。


 結局雫に好きな人が出来るか、どちらかがこの関係を終わらせたいって思うか。

 それ迄は続くだろう。




 車で雫のマンションの下に着き、メールを入れ、車から降りて待つ。


 気持ちのいい青空だ。

 両腕をグッと上げ、伸びをしながら、欠伸を噛み殺した。


 こんな日は、ドライブデートなんかもいいな。

 だけど、雫とデートをしたことは無いし、これからもする事はないだろう。


 それが俺達の関係だからな。


 ぼーっと考えていると、雫が姿を現す。


「シンさん!おはようございます。あはは、朝からってなんか変な感じですね?」


「そうだな。新鮮でこれはこれで良いじゃん?」


「確かに。」


「朝飯どうする?どっかで食べて行く?」


「あ、ホテルで食べませんか?メニュー充実してたし!」


 俺達が最初に行ったホテルは、その後も毎回利用していたが、夜に行く事が多かった為、その豊富なメニューを利用する事は飲み物くらいしかなかった。


 何か気になるメニューでもあるんだろうな。


「了解。じゃあ行こうか?」


「はい!シンさん、今日は…いっぱいしましょうね?」


 そう言いながら腕を絡ませてくる。

 最近積極的になってきた。


 恥ずかしそうにだが、こういう事も言うようになった。

 男に対しての免疫の修得は着々と進んでいるようである。


 車の助手席に案内して、ドアを開けた時にその声は聞こえた。


「雫!!」


 助手席に乗り込もうとしていた雫が肩を跳ねさせ、顔を強ばらせた。


「誰なんだ!そいつは!」


 男がこっちに近づいてくる。


「シンさん!行きましょう!」


「え?誰?大丈夫なの?」


「例の、元…です。」


「はぁ?なんでまた…いや、行こうか。」


 男が此方に辿り着く前に、急いで車を出す。


 何か大声で叫んでいるようだが、無視!無視だ!


 隣の雫は小刻みに震えながら俯いている。


 雫の手を握り、落ち着かせるように優しく言う。


「大丈夫。大丈夫だ。」


 根拠の無い言葉だが、兎に角落ち着かせよう。


 クッソが。折角免疫を獲得して来たというのに、このままじゃ、元の木阿弥だ。


「ありがとうございます…シンさん、ごめんなさい。」


 雫は暗い表情で、何も悪くないのに謝る。


「謝らなくていいよ?雫は悪くない。それより…」


 走らせた車が交通量の少ない信号で止まったタイミングで、雫の耳元に口を寄せる。


「今日はいっぱいするんだろ?さっきの事なんか忘れさせるくらいしてあげるよ?」


 囁いて耳を甘噛みする。


「あっ…ん。…はい。」


 あ、表情が少しエッチモードに戻った。



 ちゃんと話を聞いて、スミレさん辺りに相談した方がいいかな…



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