side 川口 菫

 私の名前は、川口 菫。

 愛しい旦那様は、川口 龍二。


 この『居酒屋ぐっち』を二人で始めて、8年になるわ。


 常連さんも沢山出来て、凄く順調。

 愛する旦那様といつも一緒で、幸せすぎて怖いくらい。


 私の方が龍ちゃんに惚れて、それはもうしつこく付き纏ってやっとの事で落としたの。


 今では『お前で良かったよ』なんて言って貰えて、我が生涯に一遍の悔いなしって感じね。


 今日も今日とて『居酒屋 ぐっち』には色んなお客様がいらっしゃるわ。


 その中でも気になっているお客様がいる。


 正確には身内みたいなものだけど、私の親友である雪乃の妹、雫。


 私はこの子を本当の妹だと思って接してる。


 雪乃には、私も龍ちゃんも凄く助けられたし、だからって訳じゃないけど、この姉妹を私達は大切にしたいと思ってるの。


 昨日その雫に、一人の男性を紹介したんだけど、それがウチの常連のシンちゃん。


 シンちゃんは女性関係でとても苦労していて、女性に対して精神的に一歩引いて接する所がある。


 だから、雫にはちょうど良い遊び相手だと思ったの。

 雫が嫌がったら、簡単に引いてくれるからね?


 でも雫は嫌がらないと思う。

 正直、シンちゃんはモテる。


 何故かと言うと、女の子の心にスルスルと入って行って、とっても居心地が良い関係を作り上げるから。


 シンちゃんは気付かずに天然でやってるんだけど、ちょっと高級な夜のお店でママをしていた私が驚愕したほどよ?


 女の子に安心感を与えるって、凄い事だと思う。

 ただ、シンちゃんとお付き合いすると、それに甘えて浮気しちゃう子もいるんだろうけどね。


 そんな事を考えてたら、早速来たわね。


「あら、いらっしゃい。」


「雫ちゃん、いらっしゃい。」


「…」


 あらあら、恥ずかしがってるわね。

 私と目を合わせないようにして、カウンターの端っこに行く。


「どうしたの?雫?」


 取り敢えずライムの酎ハイを渡して聞いてみる。


「スミレさん!龍二さんも!何をニヤニヤしてるんですか!」


 あら?顔に出てたかしら?


「まぁまぁ落ち着いて、ニヤニヤなんかしてないわよ?」


「してるし…」


 可愛い妹だ事、フフっ。


「それで?シンちゃんどうだった?」


「どうって……エヘへ」


 真っ赤になっちゃって。上手くいったみたいね。


「あれぇ?なんの話なの?スミレさん。」


 楽しそうな話題に耳聰いマヤちゃんが絡んできた。


「シンの話?なになに?シンとシズクちゃんが何か?」


「あ、いえ…昨日マヤさんが帰った後も少し一緒に飲んだって話で…」


「へぇー、ふぅーん。」


 マヤちゃんまでニヤニヤしだしちゃったわ。


「で?その後は?あれですか?肉体関係ですか?」


「ええ!なななななんでそうなるんですか?!」


「怪しいからだよ!どうなの?シンは良かった?」


「何を言ってるのかちょっと…マヤさん飲み過ぎじゃないですか?」


 雫、実はマヤちゃんノンアルコールビールしか飲んでないのよ。なにせこの子、今も仕事中だから。

 これがこの子の素なんだから、雫には手に負えないわよね。


「お、シンちゃんいらっしゃい!」


 そのシンちゃんも来たわね。

 これで雫は解放されるかな?


「大将、ビールと夕飯!」


「はいよ!シンちゃん、昨日はお楽しみでしたね!」


「な、何を言ってんだよ!」


「ははは、今日は角煮でいいかい?」


「ん、任せた!」


 雫が居ること分かってるのに、カウンターの真ん中に座ったって事は、マヤちゃんのニヤニヤした顔を見て避難したって所かしら?


「シン、どうなってんの?雫ちゃんと何をしたの?ナニをしたの?」


「はぁ?お前は馬鹿なのか?馬鹿なのだな?」


「いやいや、照れなくていいから、ふへへへ…」


 シンちゃんが来たことでマヤちゃんの矛先が雫からそれて、雫はホッとしてる。


 いつも通り、シンちゃんにからみだしたわね。

 あれ?雫が複雑な顔してる…フフっ。

 面白いから暫く見てようかしら。


「ふぅ〜ん。何もないんだ。あ、じゃあ私としてみる?」


「お前なぁ、いつもいつもそんな事ばっかり言って…冗談もオッパイだけにしとけよ?」


「ちょっと!私のオッパイは冗談じゃないわよ!本物だし!」


「ばかやろう!乳を押し付けるんじゃねぇよ!」


「…シンさん?」


「ん、あ?雫。あはは。」


「…隣良いですか?」


「あ、はい。」


「ほらぁ!怪しいじゃん!二人とも怪しいじゃん!」


「怪しい怪しいうるせえよ!怪しいのはお前のオッパイだ!」


「本物だって言ってるでしょ!?ほら!ほら!」


「突き出すな!」


「シンさん、胸が大きい方が好きなんですか?」


「いいや、女はオッパイじゃないと思うよ?何事も程々が良いんだよ?」


「ですよね!」


「私のオッパイをディスり出した!スミレさぁん!やっぱり二人は肉体関係なんですか?」


「お前は芸能リポーターかよ。」


「肉体関係…」


「雫?」


「どうなの?シズクちゃん!肉体関係なんですか?」


「お前は肉体関係って言いたいだけだろ!」


 なんだか、収拾がつかなくなってきたわね。


 でも、雫も久しぶりに本当に楽しそうで良かったわ。


「肉体関係よ!」


「「スミレさん!?」」


「ほら!やっぱりー!」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る