第14話 回顧 ・決別の日 1

決別の日 当日

 結婚生活終了



 泊まりの予定が無くなった俺は、行く宛もないので、自宅に戻る事にした。


 帰る道すがら、いきなり帰るのも驚かせるなと、自宅近くなって思い当たる。


 恐らく麻衣子は家にいないが、出張は中止になり、今から帰るとメールを送った。


 案の定、家の電気は着いていなかった。

 彼と一緒にいるのだろう。

良かったじゃないか。彼と二泊も出来るんだな。



 家に入ると、身体の力が抜けた。

 こんな歳になって、誕生日に祝って欲しい等と思っている訳では無いが、せめて普通に過ごせればと思っている。


 着替える事も出来ないほどの脱力感を感じながら、キッチンに行き、適当に夕飯の材料を探す。


 冷蔵庫に殆ど食材が無かったので、カップラーメンにお湯を入れて、缶ビールと一緒にテーブルに持っていく。


 照明も着ける事が出来ず、ラーメンをすすり、缶ビールで流し込んだ。


 こんな状況で、よく食い物が喉を通るものだと自分に感心しながら、食べ終わって空になった缶ビールと、少しだけスープの残ったカップ麺をそのままに、ソファに深く腰掛けて一服する。


「マジで何やってんだよ…俺の知らない所でやれよ…」


 力が出ない。暗闇に慣れてきた俺の視界に、カーテンの隙間から漏れてくる、僅かばかりの外の光を受けて、薄らと見える紫煙をボンヤリと眺めながら、これまでの事に思いを巡らせた。


 いつからだったか?麻衣子から誕生日を祝われなくなったのは。


 毎年恒例だった花蓮からのメールも今日は無い。

 そう言えば、麻衣子の行動を熟知していた花蓮だが、麻衣子が居ないことがわかってはいても、俺の家に入ってセックスをした事はなかったし、花蓮もそれは出来ないと言っていた。


 もう崩壊しているとはいえ、夫婦の聖域とも言える自宅だ。勿論俺だって、それは侵してはいけないものだと思っている。

 変な所で意見が一致するもんだと、苦い思いをしたのを憶えている。


 さて、最初からこうなる事は分かっていたが、最後がこんな結末か。


 離婚だな。


 まぁ別に、麻衣子が憎いとか、悲しいという感情は湧かない。そんな心の揺れがあるのなら、飯なんか入らないだろう。

 そもそも、俺に気持ちが無い女とこれ以上一緒に居る意味もない。


 ただ、少しだけ、結婚したら幸せになれるかも知れないと思ったなどと、お笑いだな。


 愛情ってなんだろうな。


 そんな事を、寝室から響いてくる嬌声を聞きながら考えていた。


 数分後、コトが終わったのだろう。

 声が聞こえなくなり、暫くして慌ただしい音が聞こえてきた。


 限界まで伸びたタバコの灰が、今にも落ちそうになっているのに気づき、空き缶の中に落としながら、苦笑いする。


 メールを確認したのかな?


「帰ってくる…!」


「はぁ?出張って言ってただろ?」


「無くなったって!早く…!」


 なんて焦った様な声が聞こえるが、そんなに慌てなくても大丈夫だと言うのに。


 俺はもう帰って飯と酒を頂き、リビングで一服してるしね。


 バタバタと音をさせながら、家の照明が着きだした。


 そして焦った顔をした下着姿の二人がリビングに入ってきて、照明を着けた。






「ただいま。」





 俺は優しい微笑みで語りかけた。

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