第12話 回顧 ・結婚生活

 決別の日から遡る事1年前

 結婚生活


 一見、夫婦生活は問題無く続いているように映った筈だ。

 周りの人達からも、仲の良い夫婦だと言われる程順調に続いていた。


 俺も麻衣子も、お互いに好きあっているし、それは間違いが無い。


 夜の行為に関しても、俺は彼女に対しては淡白だったが、レスになる事もなかった。


 多分、俺とカズトくんの間で気持ちの均衡が保たれているのだと思う。


 結婚して四年目

 その均衡が、カズトくんに傾いた様な行動が目立ってきた。


 俺は今まで通り接していたが、夜の行為をやんわりとだが拒否される様になった。


「ごめんね。最近仕事忙しくて、残業も多いし、疲れちゃってるから…」


「気にしなくて良いよ?最近遅くまで頑張ってるのは分かってるし、無理しないようにね。何かあったら頼ってくれて良いから。」


「……ありがとう。」


 麻衣子は複雑な表情で答える。


 あぁ、気持ち悪い。

 何時から俺はこんな話し方をするようになったんだ…


 本当に、気持ちが悪い。

 俺は今、薄ら笑っているのだろう。


 本当の俺はどこへ行った?

 本当の俺って、どんなだった?


 まぁ、いいか。



 しかし麻衣子の奴、今迄残業など殆ど無かったのに、急に忙しくなったんだな。カズトくんと。


 それでもまだこの家に帰ってくると言う事は、まだ俺にも気持ちは有るのだろう。

 それならそれで構わなかった。


 俺の知らない所で何をしていようが、お互いに好きであるのなら気にしない。


 今日は俺の誕生日だ。

 だが疲れているようだし、忙しくて忘れてしまったのだろう。


 麻衣子は先に眠ってしまった。


 俺は一人で晩酌をする。


 芋焼酎のロックを三杯空けたところで、毎年恒例のメールが着信した。


『誕生日おめでとう。

 いつまでもあなただけを愛しています。』


 律儀な奴だな。

 もう俺は何の気持ちもないと言うのに。


 差出人は、昔俺が唯一愛した女

『橘 花蓮』


 別れてから一度もメールを返してないが、毎年『愛しています』と送ってくる。


 自分の現状を悲しく思う事は無いが、何となく、本当に何となく、返事をしてみようと思った。

 酒のペースが早かったのか、少しだけ酔っていたのかもしれない。


『久しぶりだな。俺は結婚したぞ。』


 すぐに返信があった。


『メールありがとう!とても嬉しいです!結婚の事は知ってます。それでも私はあなただけを愛しています。』


『そんな事言って、お前は何をしたんだ。いや、今更だな。すまん。』


『私は今も昔もあなただけを愛しています。心はあなたに捧げています。』


 壊れてるな。話にならない。

 俺も壊れてるからちょうどいいか…


『結婚相手もお前と一緒だ。好きだと言いながら、違う男に身体を許す。女ってのはこんなものか?』


『一緒にしないで!私はあなただけを愛してる!』


 何言ってんだか。


『浮気された。って言うか、結婚前から知ってたけど、一人ならいいかと、納得してたんだ。』


 俺もなんでこいつにこんな事言ってんだか。

 そうだ、納得してたんじゃないのか?


 別に麻衣子に思う所は無いはずだ。

 嫉妬もしていないし、カズトくんとの事も割と本気でどうでもいい。

 彼女が家に帰ってくる選択をしていて、俺に分からない様に彼との関係を続けると言うなら、結婚生活を続けようと思う。


『それは、奥さんが浮気相手にも心が有ると言うことなの?』


『そうだな。俺も彼も好きみたいだな。最近は彼の方が大事みたいで、レスになっちまった。笑えるよな。』


 愚痴のメールみたいだな。いや、みたいじゃなくて、愚痴か。


 暫く待ったが、返信が来なかった。


 まぁいいか。

 一人でちびちびと酒を飲みながら、急に手持ち無沙汰になり、寂しく…


 ああ、そうか。

 俺は寂しかったのか。


 自業自得だな、と自嘲した。


 麻衣子とは別で眠り、翌日休みだった俺は、昼前に玄関のチャイムで眼を覚ました。


 起き上がると、当然だが麻衣子は仕事に行っていた。


 ちょっと寝過ぎて重たい頭を振りながら玄関を開ける。


 そこには絶世の美女がいた。


『橘 花蓮』だった。


 久しぶりに会ったが、相変わらず美しい女だ。


 良い家のお嬢様である花蓮は、清楚な感じの服装を好む。


 白のワンピースだ。

 30代とは思えない容姿に一瞬目を奪われた事を苦々しく思い、尋ねる。


「何の用だ?なぜこの家を知っている?」


 花蓮は久しぶりに逢えた事に感激して、頬を上気させているようだ。


 熱に浮かされたような、ウットリとした目をしながら、いきなりこう言い放った。


「シン、逢いたかった。貴方には何も求めない。だから、寂しいなら私を使って?」


 従順そうな、縋るような、そんな表情を浮べる花蓮を見て、俺は欲情した。

 真っ白なワンピースを着た、この美しい女を、汚して滅茶苦茶にしてやりたいと思った。


 そうかよ。

 じゃあ、遠慮なく使わせてもらうわ。


 それがお前の望みなんだろ。

 俺も発散出来るしな。


 ウィンウィンってやつだ。


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