第9話 セックスフレンド
カーテンの隙間から陽射しが洩れている。
いつの間にか、眠っていたようだ。
今は、9時を過ぎた辺りか。
横を見ると、俺の腕枕でシズクちゃんが眠っている。
んんっ、腕が痺れている。まぁ幸せな痛みだな。
シズクちゃんの顔に掛かっている髪を、指でそっと横に流して、マジマジと顔を見てみる。
「やっぱり、すげー可愛いな…」
女の子の寝顔をマジマジと眺めるのは、マナー違反かもしれないが、見ていたくなる位に可愛らしいのだから仕様がない。
ん?目元がピクリとしている。
起きたかな?あ、いやこれは…
顔を寄せて、軽くキスをする。
「おはよう。」
シズクちゃんはそっと目を開けて、気まづそうに口を開く。
「おはようございます。起きてるの気付いてましたか?」
30分程前に起きて、隣に俺がいる事に恥ずかしくなったけど、もう少し腕枕で引っ付いていたかったと。
ああ、もう!
なんだこの可愛らしい生き物は!
チェックアウトの時間が11時なので、二人でノロノロと起き出す。
昨夜は久しぶりだということもあり、没頭してしまったな。これは、あれだ。明日辺り、腹筋が筋肉痛になる。
筋トレとは別の筋肉を使っているのだろうけど、久しぶりだと、なっちゃうんだよな。
あの後、いつの間にか眠っていた為話はしていない。
二人で軽くシャワーを浴びて、外に出る準備を始める。
俺はあっという間に着替え終えたけど、女の子は色々と大変だな。
彼女が身支度を整えている間、コーヒーを二人分用意して、普段全く見ないテレビを適当にザッピングしていく。
煙草に火を着け、ワイドショーのチャンネルで止めた。
通り魔事件か。一時期はこの辺りでもそんな事件があったな。
急いで準備を終えたのか、シズクちゃんが俺の隣に座る。
テレビは消して、彼女に向き直った。
「お待たせしました。」
「シズクちゃん、コーヒー入れたからどうぞ?」
飲み頃の温度になったコーヒーを勧める。
「…ありがとうございます。」
どうしたんだ?反応が鈍いな。
疲れてるのかな?
「シンさん。昨日の夜はシズクって呼んでくれましたよね?」
ああ、うん。そう言う事してる時って、ちょっとテンションおかしいからな。
んー、まぁいいか。
「じゃあシズク、コーヒーどうぞ。」
「はい!いただきます!」
嬉しそうにするなぁ。
俺達のこの関係って、どうなるんだろう。
彼女次第って所かな。
「また、会って貰えますか?」
突然、少しだけ不安そうな顔をしてそんな事を言う。
俺はどうしたのかと、シズクを見つめた。
「私、昨日エッチ好きじゃなかったとか言いながら、シンさんに甘えてしまいました。こんな事言うのは失礼だと思うんですけど、元婚約者との行為は気持ち良いとかではなくて、あの…」
言ってたね。気持ち良いとかじゃなくて、好きだったから受け入れる事に意味があったって。
もう好きだったとも言いたくないのかな?
ちゃんと覚えてるよ、と言いながら話を促す。
「好きでは無くなった今思い出すと、昨日シンさんとした行為とは全然違うもので、昨日は私の女としての部分がとても喜んでる感じがしました。」
「そんなに言って貰えると、凄い嬉しいけど、俺にはその彼みたいに、無理に感想を言わなくてもいいんだよ?」
「違います!…なんて言っていいか。」
何となくだが言いたい事が分かってきた。
俺から言った方が良いだろうな。
「シズク俺さ、昨日はめちゃくちゃ気持ち良かったんだよ。でね、俺もバツイチになってそれ程時間も経ってないから、今すぐに彼女とか作ろうと思えないんだ。でもさ、お互いに恋人がいないなら、またシズクとしたいなって思うんだ。どちらかに好きな人が出来るまでだけど、また会って貰えるかな?」
凄い下衆な事提案してる事は、自分で言ってて分かってるけど、シズクも恐らく同じような気持ちなんじゃなかろうか。
恋人を作る一歩を踏み出すのは、とてもエネルギーがいる。
でも今は疲れてて、踏み出せない。
それでも傍に人がいて、その温もりを感じられるなら、誰にも迷惑をかけないなら、感じていたい。
それくらいに寂しいんだ。
「あ…はい!よろしくお願いします!」
「ありがとう。シズクとしてる間は、他の人とはしないから、病気の心配もしなくていいからね?」
ふざけてそんな事も言ってみる。
「もう…そんな心配してません。私も他の人とはしませんから。心配しなくて良いですよ?」
やりかえされた。
二人で笑いあった。
今の俺は、生きているから、生きているだけだ。
何の目標もなく、何の為に生きているのかもわからないし、もしもいつの間にか自分でも気付かないうちに死んでいるなら、それでも構わない、と言うくらいカラッポだ。
そんな俺にも人肌の温もりを与えてくれると言うのなら、そんな相手に俺が出来る事はしてあげよう。
その間は、俺の渇き続けている喉も潤せるしね。
誰にも迷惑を掛けず、誰も不幸にしないなら、お互いに利用し合うのもいいだろう。
こうして俺にセックスフレンドが出来た。
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