第8話 漂流者

 お風呂から上がって、再びソファに座る。


 冷たい飲み物が欲しいな。

 おお、このホテルは飲食物に力をいれてるのか?

 メニューがまるでファミレスのようだ。


 ビールにするか。シズクちゃんは…はいはい、レモン酎ハイね。


 テレビのリモコンで注文が出来るらしい。

 最近のラブホ、侮れんな!


 色々聞いたが、まだまだ謎な部分もある。

 まぁ無理に聞いても仕様がないし、彼女が話したいと思った時に、ちゃんと聞いてあげるか。


「シンさん、『ぐっち』で聞こえて来たんですけど、浮気した事があるんですか?」


「あ、あー…うん。」


 元婚約者の浮気で悩んでいたこの子に、その話はきついんじゃなかろうか…

 でも聞こえていたのなら、誤魔化しても仕様がない。


「あ、良いんです。その後の話も聞こえちゃったし。」


 あれだな、相手が浮気してたのが分かってたから、罪悪感無く浮気したって。


 でもね、どんな訳があっても浮気はクズがする事なんだよ。

 その行為に正当性なんぞ欠けらも無い。


「シンさんも浮気されたんですね。彼女さんだったんですか?」


「彼女もだし、妻もだよ?」


「え!…なんかごめんなさい。」


 ああ、いいのいいの!

 もう全然気にしてないし……


「だからねシズクちゃん、君の場合、ある意味結婚前に相手の浮気がわかって良かったんだと思うよ?」


 そうだ。結婚なんて紙切れたった一枚の契約だけど、そのしがらみや責任はとても重い。


「そうですね。それは色々な方から言われます。」


 ピンポーン!

 部屋のチャイムが鳴った。

 飲み物が到着したようなので、部屋の入口の横にある、小さな受け渡し窓のような所で受け取る。


 シズクちゃんに飲み物を渡して乾杯をする。


 運動して、風呂に入った後のビールはとても美味しい!

 シズクちゃんも、一気に半分ほどを飲んだ。

 飲むねー、この子。


「俺の浮気された時の経験を語ってみようか。」


 シズクちゃんは、目を見開いて俺を見てくるが、聞いていいものか戸惑っているようだ。

 それでもやっぱり興味はあるんだろうな。


「俺はもう全然大丈夫だから、笑い話だと思って聞いてみる?興味あるならだけどね。」


 なんて言っていて、自分の中にいるもう一人の自分が失笑しているような、なんとも情けない気持ちになる。


「興味は…あります。けどそれを聞いてしまったらまた色々考えちゃう気がして。」


 そうかー。じゃあ止めといた方がいいかな。


「だから、その前に…シンさぁん」


 あれ?キスしてきた?

 色々考えちゃう気がするから、聞かない方がいいって話しじゃなくて?


 そっち!?そんな気持ちになる前にもう一回って事なのか!


 アルぇー?この子エッチあまり好きでは無いって言ってなかったか?


 よろしい!受けてたちますよ!

 キスも解放された事だし、本気で攻めさせて頂きます。


 さっきは俺も久しぶりだったので、割とガツガツしてしまったからな。

 今度はちゃあんと気持ち良くなってもらおうか!


 シズクからキスをしてきたので、そのまま今度は彼女の口に俺の舌をねじ込む。


「あっ…ん」


 シズクは声を漏らしながら、それを受け入れる為に口を開く。

 お互いの舌を絡め合いながら、強く抱き合う。


 しばらく濃厚なキスを交わした後、ベッドに彼女を誘った。


 彼女に覆いかぶさりながら、首筋にキスをする。

 首が弱いのか、シズクは身体を震わせる。

 そのまま舌を這わせて、甘噛みする。


「あっ…!」


 耐えられないとでも言う様に、シズクは俺の頭を抱き寄せる。


 それでも俺は攻めの手を緩めない。


 シズクの引き締まった腰から、大きくはないが、形の良い胸まで優しく指を這わせていく。


「シンさぁん…」


 蕩けそうな顔で名前を呟きながら、俺の首を両手で引き寄せ、濃厚なキスをせがんでくる。


 ピチャピチャと音をたてキスをしながら、彼女の細くて柔らかい太腿に指を這わせる。


 内腿から腰にかけて優しく触れていく。


「んっ…んっ」


 ビクンビクンとシズクの身体は脈を打つ様に反応する。


 キスから解放された俺は次に胸にキスをする。

 シズクの全身に触れながら、反応を楽しんでいく。


 反応が良かった内腿に舌を這わせてみる。


「ああっ…だっ…め」


 内腿を甘噛みしながら彼女の耳まで指を伸ばし、優しく愛撫していると、シズクはその手を取って口に咥える。

 我を忘れたように、俺の指を舐めている。


 そんな姿に俺も気持ちが昂って、充分に濡れている部分に舌を這わせる。


「んあっ…!」


 シズクの身体が一際大きく反応した。


 お互いに音をたてながら、優しく舐めていく。


「シンさん…お願い」


 もう待てないようだ。


 俺はシズクにゆっくりと重なっていく。


「あっ!…んむぅ!」


 完全に重なったのと同時にキスをする。


 シズクも俺の身体を強く抱きしめて、キスを貪る。


「シズクって甘えん坊かな?」


 キスが好きな様なので、シズクの耳元でそう囁く。


「いや…ん…シンさぁん」


 やっぱり甘えん坊だな。



 そして何度もキスをしながら、身体を重ねていった。


 明日は休みだからな。

 体力なんざ気にしないで楽しむ事にする。


 そうだ。これは楽しむ為のセックス。

 愛し合う者同士の行為とは違うものだ。


 お互いにフリーなら、誰にも何も言われることの無い行為。


 楽しむ…本当にそうなのか?

 シズクは裏切られた辛さを紛らわせる為だろ。


 そして俺はいつも感じている寂寥感を埋める為。


 寂寥感?ククッ…

 何が寂寥感だ。理由はあるだろうが。

 ただ認めたくないだけで。


 そんな気持ちは結婚をしても満たされる事は無かった。


 俺は大海の真ん中で漂流しているかの如く、渇いた喉を潤そうと海水を飲み続ける。

 喉の渇きは満たされることも無く、誰も助けてはくれないし、誰かの助けを求めている訳でもなく、何時か訪れる死を、ただただ惰性で待ちわびているだけだ。


 そんな下らない事を考えながら、俺の下にいるシズクを貪る。

 俺は今どんな顔をしているのだろうか。




 ゆっくりと、夜が更けていった。

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