第7話 真相

 シズクちゃんは、思い切り泣いて漸く落ち着いて来たのか、俺から離れて、『ごめんなさい。』と、少し恥ずかしそうに俯いている。


「顔グチャグチャになっちゃったね?」


「エヘへ…」


 スンスンと鼻を鳴らし、スッキリした顔で微笑んでいる。


「一緒にお風呂入ろう!」


 シズクちゃんをお姫様抱っこして、バスルームに向かう。

『ええー?』ってちょっと焦りながら、それでも首に抱きついてきた。


 そうそう、今更恥ずかしがる事もないでしょ。


 ラブホテルのバスルームは広い。

 二人で入っても全然余裕がある。

 さっき入ってから少し時間が経っているので、温めのお湯だった。

 温かいお湯を入れながら、備え付けてあった入浴剤も入れ、ちょっとリラックスして貰おう。


「なんかいきなり重たい話して、しかも泣き出して、ごめんなさい!」


 謝る必要はない、と伝えて彼女を後ろから抱きしめる。

 シズクちゃんは、抱きしめている俺の腕に自分の手を添えて此方を振り返る。


「シンさん、さっき…してた時、キスしてくれませんでしたね?キスは嫌ですか?」


「ああ、それね。どちらかと言えば、シズクちゃんが嫌なんじゃないかと思ってしなかった。」


「どうして?」


「好きでも無い人と、キスするの嫌かな?って。エッチまでしてておかしい気遣いだと思うんだけど、キスって大事じゃない?」


 何となく、そう思っている俺はおかしいのかな?

 セックスの最中でも、キスをすると気持ちが高まる。

 んー、どちらかと言えばS寄りの性癖だからかな。舌を絡める様な深いキスをすると、支配欲が満たされるって言うか、ぶっちゃけめちゃくちゃ興奮して、どんどんセックスに没頭していくんだよな。


 だから、相手もそうじゃないかなと。

 好きでもない人に支配されてるみたいで、気分良くないかなと。


 纏まらないながら、そんな感じの事を伝える。


「ぷっ!あははは!」


 吹き出さなくても良いんじゃない?

 だってさー、セックス大好きで俺としたかったって感じじゃなかったし、なるべく後悔しないようにした方がいいんじゃないかとか考えるんだよ!紳士だから!


「シンさん、優しいですよね。スミレさんに言われたんです。遊ぶなら上手に遊んでくれる人と遊びなさいって。それで、シンさんなんかどう?って。フフッ…」


 なんだよ上手に遊ぶって。俺は遊び人だと思われてるのか?スミレさんェ…


 若干不服そうな、微妙な顔をしていると、シズクちゃんは身体ごと此方を振り向いて微笑む。


「私も最初はスミレさんが何を言ってるのかよく分からなかったけど、何となくシンさんを勧められた意味が分かる気がします。」


 うーん。俺はわからんけどね!

 シズクちゃん可愛いからいいけどね!


「私、シンさんの事好きになっちゃったかもしれません。だから、キスしてもいいですか?」


 あぁ、可愛らしい。

 勿論です!


 可愛らしい彼女の唇が俺の唇に重なる。

 顔を離し彼女を見つめると、顔を真っ赤にしながら俯いた。


 ほらね、エッチの時とまた違う反応。


「確かに、キスって大事ですね…なんかドキドキします。」


 シズクちゃんは、また後ろを向いてしまった。

 後ろから抱きしめて、彼女の耳元で囁く。


「俺も好きになっちゃったかも…」


 言いながら彼女の首元にキスをする。


「…んっ」


 艶のある彼女の声が漏れた。


 大人の攻撃力を舐めるなよ!

 可愛いらしさに終始やられっぱなしだったが、今度は俺のターンだ!


 と思ったが、ふと気になる事を尋ねてみたくなった。


「シズクちゃん、なんでヤラセてくださいって言ってきたの?女の子からあんまり言わないよね?」


 シズクちゃんはピクリと反応して、此方を振り向かずに教えてくれた。


「例の元婚約者の彼女さんと話した時に、最初どうやって声を掛けられたか聞いたんですけど…」


 え?ちょっと苦笑いだわ。

 スミレさん、やっぱりあんたが絡んでたのね!


 シズクちゃんが言うには、例の彼女が居酒屋で友達と飲んでた時に、別のグループからナンパされて、その中に圭一さんがいた。

 圭一さんのグループは既にかなり飲んでいたらしく、ずっとヤラセてって言ってたらしい。

 話しも弾んでいて、楽しかったからまあいいかなと、誘いに乗ったのが最初らしい。


 圭一さんと別れてから、傷心の傷も塞がってきた時にスミレさんに話したら、『じゃあ、今度それ使ってみたら?』って言われたと。


 それで今日、スミレさんに『シズク、あれを言う時がきたわ!』等と唆された。


 スミレさんは面白半分な所もあったかもしれないけど、いつまでも悲しんでいる自分を笑顔にしたかったんだと、そう思っているそうだ。


『ずっと落ち込んでないで、一度パーっと遊んで忘れなさい。』と言ってくれたんだと。


 シズクちゃんは、スミレさんを昔から知ってる優しくて頼りになるお姉ちゃんなんだと話してくれた。


 なるほどね。

 そういう意味では確かに俺が適任なのかもしれないな。俺は深入りしないし、出来ない。好きだと思っても愛せない。遊びなら兎も角、本気で、というか、将来を期待されるような付き合い方は、今後しないと決めている。

 好きな女だと思って、笑顔にしたいとか、助けられる事があれば助けたいとは思う。だけど、愛情の面でだけは深入りしないし、相手にも勘違いをさせないようにはしている。


 いやはや、スミレさんの選球眼は超人的だな。

 そんなスミレさんが選んだ大将は、とてもいい男なんだろう。


 俺の何とも言えない視線を受けて、シズクちゃんは今更恥ずかしくなったのか、顔の半分をお湯の中に沈め、真っ赤になってぶくぶくと息を吐いている。


 真面目なんだろうね。

 めちゃ可愛らしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る