第5話 訳
数年ぶりに女性を、しかもこんな美女を抱いて興奮冷めやらぬ中、ベッドに座り煙草に火を着けた。
うん、セックスの後の一服は美味い。
人の受け売りだが、この歳になると分かってきたのだ。
深く煙を吸込み、ゆっくりと吐き出す。次第に薄くなって消えていく煙をボンヤリと眺めながら、離婚する前の事を思い出す。
何故かって?
それは最後にセックスをした相手が元嫁だったからだ。
離婚する前、もうどれくらい前だか忘れたが、何時の間にかレスになっていた。
離婚して一年も経っていないのに、数年ぶりのセックスってのはそういう訳だな。
離婚問題の時、何かあったような気がするが、気の所為という事にしておく。
アイツの事は、ノーカンだ。
あれは夢だった。そうに違いない。
隣で恍惚とした表情のシズクちゃんが、シーツに埋まっている。
おっと、こんな時に他の女の事を考えているなんて、失礼が過ぎるな。
「どうした?シズクちゃんも久しぶりだった?大丈夫?」
優しく声をかけてみる。
しばらくボーッとしていたシズクちゃんは、ハッとして顔を真っ赤にしながらシーツに潜る。目だけシーツから出してる姿に悶えそうになるな。
「いえ、あの…はい。」
「痛くなかった?」
「とんでもない!…とても、良かったです…」
あー、頭からシーツ被っちゃった。
お褒めの言葉を賜り光栄です!
俺もシーツに潜り込んで、シズクちゃんをギュッと抱きしめる。
さてさて、どうしようか。
訳有りだってのは分かってるけど、ここで聞くのは無粋ってもんかな。
そんな事考えてたら、ポツポツと話し出した。
「シンさん、ありがとうございます。訳も聞かずに抱いてくれて。」
「いやいや、それは俺が我慢出来なくなったから…あはは。シズクちゃん可愛いもんね。」
「そんな事ないです。私、本当はエッチあんまり好きじゃ無かったんです。」
そんな事ありますとも!
君のような美女に抱いてと言われれば、大抵の男は抱きますとも!
寧ろ、抱きたいって思ってる男は沢山寄ってくるだろうに。
なんで俺なんだろう。
しかもエッチ好きじゃないとか言ってるよ。
「そうなんだ、じゃあ今日はしんどかった?そこまでしてやる訳があるんでしょ?」
「えーっと、そんなに大層な訳は無いんです。それに、今はシンさんで良かったって思ってます。スミレさんに感謝です。」
大層な訳は無いか。
やっぱりスミレさんが絡んでるんだ。
でもそれならこっちも。
シズクちゃんを抱きしめる力を少し強くしながら聞いてみる。
「スミレさんに勧められたんだ。じゃあ俺もスミレさんに感謝だな。」
至近距離でお互いの顔を見つめながら、笑いあった。
あー、この子可愛いわー。
「それでさっき言った通り、エッチあまり好きじゃ無かったんですね。私にとってそれは好きな人が求めてくれるから、応えたいって思ってしてました。だから相手のしたい様にして下さいって。」
あ、うん。好きな人に求められたら嫌だって言いづらいよね。
それで嫌われたく無いからしてた。
それか、求められるのが嬉しくてしてたって所かな?
「以前付き合ってた人は、毎回同じやり方だったんですけど…キスして、胸を触って、下を触って…」
なるほどなるほど。んで入れて腰振って終わりと。
しかも、やたら激しくて、そんなに求められてると思うと嬉しいんだけど、気持ち良くは無かった。
それで終わった後は、感想を聞いてくるか。
高校生か!はぁー最悪だわ。
あんまり人の好きだった人の事を批判したくないけどさ、凄い自己中で自分だけが気持ち良くなってて、激しくしてるんだからお前もきもちいいだろって思ってんだろうな。
しかも感想とか聞いてくるって…自信あるんだろうなぁ。
なんて、偉そうに批判する程の甲斐性が、俺にあるとは思っていない。
それは結婚に失敗した事から御察しだろう。
「それじゃエッチ好きになれないよね〜。好きって補正なかったら逆に嫌いになるだろ。じゃあ今日は頑張ったね。」
自分で何言ってるか良く分からなくなるけど、頑張ったね!って。俺アホか…
でもさ、なんで頑張らないといけなかったんだ?
「いえ!さっきも言いましたけど、とても良かったです。エッチしてこんなに充実した気持になったの初めてって言うか。こんなに気持ち良いエッチは初めてでした。」
最後の方は言葉が小さくなって言ったが、俺の胸に額をあてて密着してくる。
確かに最中はちゃんと感じてたみたいだし、ちょっと驚いてるような所もあった気がする。
「俺もめちゃくちゃ良かったよ?」
そう。良かった。反応が可愛いかった。
「エヘへ…ありがとうございます。それでその以前の人って言うのが私の初めての人で、婚約者だった人なんです。」
おぅふ。何?俺で二人目なの?マジかよ。
婚約者だったって、下手すりゃ生涯その人だけって事もあった訳だ。
スミレさん!いいの?こんな箱入り娘に俺なんか勧めてさ!
まったく……ん?
婚約者だった?
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