第2話 歪み
「それで?さっきの話ってどう言う事なの?」
晩飯を食べ終え、芋のお湯割りを大将から貰って一服していると、もう待てないとでも言うようにマヤが質問をしてくる。
面倒臭い。どうでもいいだろうに、人の恋愛観なんてもの。
「ん〜、あのさ、その前にテーブル席に移動しようか?」
大将に許可を貰い、テーブル席に移動した。
「なんで移動?」
マヤが聞いてくるが、カウンター席の端に座って、大将の奥さんであるスミレさんと話をしている様子の、20代と思わしき女性が、チラチラと此方の話に反応しているのが気になったからだ。
スミレさんは大将とお似合いのこれまたとても美しい女性で、品すら感じる。
『まるでどこかの高級クラブのママさんみたいな雰囲気だよね?』って冗談で言ってみたら『あら?昔の事よ?フフっ…』なんて妖しく微笑んでいたから『あ、ははっ…』って笑いながらそれ以上は突っ込まなかった。
スミレさんは、話を聞くのがとても上手で女性達の相談を良く受けていた。
大抵、男女関係のドロドロとした相談のようなので、今スミレさんと話している女性に、こんな話しを聞かせるのも悪いと思いながら移動した次第である。
そんな事を一々説明するのも面倒なので、何故移動するかと言う質問には答えず、グラスと灰皿をもってそそくさと移動した。
「先ず大前提として、人の数だけ恋愛観がある訳じゃん?だから飽く迄も俺の場合って事で話すぞ?」
「ラジャー!」
「よろしい。俺の中では好きって言葉と、愛しているって言葉の間には大きな隔たりがある。」
「んー、まあ何となくわかるけど、誰でも付き合ってる人とか結婚相手には、普通に好きだとか愛しているって言うよね?」
テーブルに肘を立てて顔を乗せ此方の話を聞いているマヤが、片眉を下げながら聞いてくる。
うん、オッパイがテーブルに乗ってる。
これが見たいから移動した訳では無い。
「やっぱりお前、顔だけは良いよな?」
「いきなり何?て言うか顔見てないじゃん!オッパイガン見じゃん!」
「いや、ある意味オッパイもお前の顔みたいな物だからな。」
「全然意味が分からないんだけど…普通はオッパイだけで人の区別つかないからね?なんなの?溜まってるの?抱いてあげようか?」
女から抱いてやるとか言うなよ…
抱いて欲しくなるだろ!
溜まってるのはしょうが無い、彼女もいないんだから。
「オッパイオッパイうるせーな、続きな。」
「あれ、なんで怒られた?先に言い出したのは…あ、私だ。」
煙草に火をつけながら続きを話す。
「つまりだ、好きになったからって愛するまでに中々辿り着かないんだ。」
説明が難しい。心情的な事だからな。
要は本当に愛している人と付き合ったり結婚したら、浮気はしない。出来ないって事を言いたいんだが…
「じゃあさ、シンが思う愛してるってどう言う気持ち?私は好きの延長にあって、その気持ちが大きくなったみたいな感じかな?」
そうだな。漠然としてるが普通はそんな感じだろうな。
「俺は、そうだな…その人しかいらない、この人がいれば何もかも捨てても良いって思える気持ちにならないと愛しているって言えないな。」
目の前のオッパイがピクっと反応した。
カウンター席の女性もチラッと此方を見た気がした。
いやー、今自分で言って思ったが、これは重いな。だからそこまで辿り着かないんだ。
ここ迄思えた相手なんて、俺が純粋な時、最初に付き合った相手しかいないしな。思い出すと未だに鬱になりそうな思い出だが。
「へぇー、それって言われて見れば確かにそうかもね。あ、だから本命が愛している相手とは限らないってことね。本命は好きだけど、愛している迄には辿り着いてないって事か。」
腕を組んでうんうんと頷いている。
オッパイが腕に乗っている。主張が激しいな。もしかしてこいつは、オッパイが本体で、他は付属品なんじゃないだろうか。ちょっと触って確かめてみよう。
さり気なくオッパイに手を伸ばしてみたら、思いっきり叩かれた。
「さり気なくとかじゃなくて、鷲掴みしようとするな!」
怒られた。ケチ。
「て事で、好きな人がいて浮気した時の気持ちって、どうせそっちもやってるんだからいいだろ?って気持ちかな。」
話した後、マヤは目を見開いた。
なんだその反応は?
「はぁぁぁ?今の流れでなんでそうなった??ちょ、えぇ??」
「あのなぁ、好き程度の気持ちなら、誘ってくる相手に好意があって、そんな状況になったら、誰だってやるよ。そんな状況になって恋人の事を優先出来る奴は、恋人を愛しているんだ。」
断言してやった!
だから俺は愛した事はあっても、愛された事は無い。そして、もう人を愛する事なんて出来ないのだろう。
「んんー、否定出来ないな。でもさ、シンは歪んでるよね。何かあったんだろうな、とは思うけどさ。」
自覚はあるな。歪んでる。
裏切られたくないから、愛することを躊躇して、軽い関係でいたいと思う。
裏切られても傷が軽くて済むように。
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