第11話 納得できない。それなら僕も行くよ

「共同任務っていうのは初めてですね。とはいっても共同でやる意味があるのかどうか分かりませんが。うちだけでも十分なんで」

「それはこちらのセリフですね。うちのTAISレッドが伊達に定時レッドと言われていないことを証明してあげましょう」


 青田とリキュアオレンジが固く握手を交わしている。双方ともに頑張って力を入れているけど、明らかに青田の姿勢が悪くなっているということは力負けしているんだろう。普段からの鍛え方が足りないからだ。


「あんなのリキュアルージュの必殺技で一撃ですから!」

「定時レッドが殴れば一発ですから!」


 なにを主張しあっているか理解できないわけだが、青田がポリキュアーズの若いやつと張り合いだして数分が経っている。その間に僕は下流の方を眺めながら電話をしている。現場に到着したのはアクショ忍もポリキュアーズもほぼ同時刻だっったけど、肝心の怪人はまだ下流からさかのぼってきている最中なのだという。まだ下流のほうに被害は出ていないとのことだけど、本当にここまでのぼってくるのかどうか不安になるのは仕方ないと思う。

 そう、今回の怪人は海から川を上って泳いでいるという。そしてここは市の境の橋の上であり、お隣のポリキュアーズとの管轄の境目である。ちなみに下流は他の警備会社の担当(元職場)で、すでに撃破されてしまったとのこと。


「ねえ、どうするの?」

「そんな事言われてもどうしようもないよ。僕はちーちゃんが小学校から帰る前に仕事を終わらすだけだから、美和がやってくれても全然構わないよ」

「和也がよくてもそっちのメンバーは納得してないじゃない」


 チームメンバーたちが橋の中央に固まって話し合っている最中に僕と美和は橋のあっちとこっちに分かれて電話で話し合っている。周囲からは社長に電話で確認を取っているように見えているだろうが、うちは現場判断を僕に任されているし黒木はそんな面倒な決断はしたくない人間だ。


「分かりました! 怪人の右半身はうちのリキュアルージュが担当しましょう!」

「ええ、左半身はこちらの定時レッドにお任せください!」


 なにが分かったのかは分からないけど、最悪なことに僕と美和で怪人の半身ずつを担当することで話が決まったようだった。たしかに青田に交渉を任せてしまった僕の落ち度だけど、これはないんじゃない?


「なんか、変な風に決まったような声がしなかった?」

「ううん、僕は聞いてない。聞いてないんだ」


 家族との会話だけあって、全力で現実逃避する。だいたい半身だけ攻撃するなんてめんどくさいことこの上ないし、反対側を傷つけてはならない雰囲気だし、もう帰りたい。


「赤井さん! なんとか半分だけでも攻撃の権利を勝ち取りましたよ!」

「何が半分だけでもなんだよ……」


 美和との通話を切って、僕はこちらに喜色満面で駆け寄ってくる青田の額にチョップをかました。若干青田の足が橋にめり込んだ音がしたけど、これは怪人との交戦時のものであると申請してもらおう。


「いったぁ……」

「なんてめんどくさい条件にしてくれてんだよ」


 まあ、どうせ美和の攻撃で怪人は倒されるはずだから僕は攻撃の瞬間を合わせるだけでいいだろう。そうすればどっちがどっちを攻撃したとか関係なく全体を爆発四散させて……。



『おおっと、ここで怪人の姿が確認されました! すでに下流でカメレオンライダーの面々を病院送りにしたとのこ情報の怪人ですが、ここ数年では確認されていないほどの規模の大きさです!』

『これは、くじら型の怪人でしょうね。あの巨体で川をさかのぼるという行動は理解できませんが、カメレオンライダー14号を倒したときの潮吹き光線は脅威としか言えません。あれは海面であったからこそ被害が全くなかったわけですが、住宅地のど真ん中で発射されるとかなりの範囲の建物が破壊されてしまうでしょう』

『周辺住民の避難は完了しておりますが、ここはなんとしても被害を少なくしたいところ。すでに警察だけではなく自衛隊の出動すら検討されているという情報も入っております』

『自衛隊の武器では被害をまったくなくすということはできないでしょうね。やはりここはリキュアルージュか定時レッドに期待をしたいところです』

『両名ともに出動時の怪人討伐率は100%。一度も失敗したことのない二人の領域に、この前代未聞の大きさの怪人が迫ります』



 姿を確認した瞬間に美和とアイコンタクトをとる。これはまずい。ちょっと本気でかからないと周辺の被害が甚大だろう。さらに言うとただようオーラから、僕も美和も一撃で倒すことはできないほどの実力を怪人から感じ取ることができた。おそらくは僕らが討伐してきた怪人の中で最も強い。

 それにもっと大事な問題もある。


「ちょっとこれはあれだね。どうする?」

「たまには私が行こうか?」

「そうだね、その方が適任かもしれない」


 もはや電話で話し合っている場合ではないと判断した僕たちは直接相談することにした。周囲のメンバーが、あれ? なんでそんなに親しげ? みたいな顔をしているけどそれどころじゃない。


「じゃあ、たまには時間外労働でもするよ」

「「「「!!!?」」」」

「はいはい、それじゃあ作戦変更してポリキュアーズはこの橋の死守ね」

「アクショ忍は両岸に分かれて被害を少なくして。光線が降り注ぎまくるかもだけど、身を呈して守ってね」


 僕は橋の欄干の上に立つとぽきぽきと指と首を鳴らす。あれは普通にやってても定時までに倒すことはできそうにもない。闘いは長期戦になるし僕は全力を出さないといけないだろう。たしかに美和がいれば戦力的には十分かもしれないけど、美和の必殺技は周囲を巻き込む可能性もある。それほど普段使うような弱い必殺技が通用するかどうかは分からない相手なのだ。



『おおっと、定時レッドが動くようです! すでに定時が近づいている中、早く討伐してしまいたいのでしょうか。対するリキュアルージュは後方で橋の防衛に徹する構えのようです!』

『珍しいですね、定時レッドは基本的に他に討伐ができる人物がいれば仕事を譲ることが多いのですが』

『もしかすると、あの怪人の危険度を感じ取ったのかもしれません。それに……、なにやら装備を取り出しました。珍しい光景です』

『ガントレット、でしょうか。格闘用の小手のようですね』

『定時レッドが初めて装備品をつけました。これだけでも十分なニュースですね! ……定時レッドがリキュアルージュとなにやら相談をしているようです。他のメンバーは橋と周辺の警備へと散った状態で、橋の中央で二人が作戦を話し合っているのでしょうか?』



「ちょっと待ってよ。たしかにちーちゃんの迎えはたまには美和が行けばいいけど、なんでそうなるの?」

「どっちにしても時間がないじゃない。そりゃ和也はいつもやってるから慣れてるかもしれないけど、私は時間がかかっちゃうのよ」

「普段からやらないからでしょ。それに他にもやり方ってもんがあるんじゃないの?」

「いいじゃない、たまには」

「納得できない。それなら僕も行くよ」

「和也が行くならいつもどおりでいいじゃない」



『なにやら、相談というより言い争っているようにも見えますね』

『ええ、どちらが攻撃するかでもめているのでしょうか』

『どちらにせよ怪人が射程範囲に入ります。周辺住民の避難は完了しているはずですが、できるだけ被害は少なく……おおっとぉー! リキュアルージュの必殺技で勢いをつけた定時レッドの攻撃です! 怪人は倒されました! すごい威力だ! これは過去最高の攻撃かもしれませんね!』

『さきほどのガントレットの効果でしょうね。さすがにあれだけの威力では耐えられなかったのか、定時レッドの肩付近まで装備が壊れているのが見えます。それにしても二人での共同攻撃というのは初めてみましたが、凄まじいですね』

『どちらにせよ怪人は討伐されました! 警察が討伐証明を確認し次第、警報は解除されます。市民の皆さんはそれまで念のため屋内で待機してください』




 ***




「結局、定時レッドは時間外労働はせずに定時で帰宅して行きましたね。やはり腕を負傷されたのですか?」

「いえ、装備はボロボロでしたけど、腕は全然傷ついてなかったようですよ。むしろリキュアルージュの必殺技で足が痛いとか言ってました。まあ、帰るのは家庭の事情というかいつもの事なんで。……なんか、そちらのリキュアルージュもいなくないですか?」

「なんだか、こちらも個人的な用事があるからって帰っちゃいました」

「なんか二人、橋の上で言い争いしてませんでした?」

「そうですね。詳しい内容までは聞こえませんでしたが、本気出したらあの装備が壊れるとかなんとか言っていた所だけはなんとか聞こえましたよ」

「たしかに、あれはかなりレアな鉱石を使っているとかで、壊れたらうちの博士が怒鳴り込んでくるような物だったんですよ。明日の朝がちょっと憂鬱ですね」

「ああ、そうなんですね。それでか」

「普段はあまり言い争いとかしないんですけどね、うちの定時レッドは」

「リキュアルージュはいつもあんな感じです」

「はは、そうなんですね」



 だって美和がちーちゃんを迎えに行ったあとにケムタッキーに寄ってフライドチキン食べるなんて言い出すのが悪いんだ。普段は節約しなきゃと言って自炊なのに自分が迎えに行くときは外食だなんて納得できないのだ。

 結局、二人でちーちゃんを避難場所の学校に迎えに行って、その足でケムタッキーに行った。美味しかった。


 翌日、出勤と同時に博士に無茶苦茶怒られたけど、後悔はしていない。

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