第10話 今日の夕飯のメニューは豚の生姜焼きがいいと思うんだけど
「また腕を上げたのね?」
「ふふん、分かるかい? 僕は常に進化し続けているんだ」
「しんかって、なぁに?」
「進化っていうのはすごくなることだよ」
「パパすごいんだね!」
赤井家では珍しいことに、美和が僕のことを褒めていた。時間帯は夜で、今日は美和も早めに帰宅していたから三人で御飯を食べることができていた。いわゆる家族の団らんとかいう時間帯である。
「ふふふふ、伊達に今の会社に移ったわけじゃないんだよ」
「たしかに、前の会社のままだったらこれはなかったわけね」
「そうだよ。ふふふ」
完全なる敗北を認めた美和の茶碗をうけとり、ドヤ顔でこう言う。
「まだおかわりあるよ? 食べる? ん?」
「いただくわ」
今日のメニューは照り焼きチキン。毎日暇な時間帯にヌーチューブで料理系ばかりみていた甲斐があり、僕は料理の腕を上げていたのだった。
***
「という感じでね、最近は家族の受けもいいし料理に力を入れているんだ。良いレシピをそのまま忠実に再現するって言うのがポイントだよ。変なアレンジをしないのがおいしくなるコツと言ってもいいね」
通販サイトママゾンで鉄のフライパンを検索しながら僕は青田にそう言った。しかし、鉄のフライパンというのは高いものが多いな。買った時に焼き入れをするのか。焼き入れってなんだ?
「へぇ~、赤井さん料理するんですね」
「今の所、僕の家では僕が料理の係だからね」
「あ、奥さん働いてるんでしたっけ? 何されてるんですか?」
「……会社員だよ。普通の」
さて、この話題は早めに切り上げて料理の腕をあげるためにヌーチューブでも見ようか。しかし、鉄のフライパンというのは管理が大変だな。しかししかし、こういった勉強も家族がおいしい御飯を食べてくれるのならばやりがいがあるというものだ。
「いいですねえ、桃江も赤井さんの御飯が食べたいですぅ」
そこになんとか書類仕事を終えた桃江がやってきた。ちなみに僕がこうやって堂々と仕事中にさぼっているのも、自分の仕事は終わらせているからである。怪人が出なかったら、僕の仕事は非常に暇だったりする。
「お弁当とか、作らないんですかぁ?」
「弁当か……。今は昼食は食堂で食べているし、朝はちーちゃんに御飯食べさせないといけないから作っているけど。でも弁当は作ってないかな」
「小学校でお弁当が必要な日もありますよ? 遠足の時とかぁ」
「うーん、幼稚園の時はずっとお弁当作ってあげてたんだけどね」
なんとなく、幼稚園に行くちーちゃんのお弁当は作れても、僕自身の昼食は作る気がしなかった。それはちーちゃんのお弁当が小さすぎて、僕の弁当を作ろうと思うとおかずを追加しなくてはならなかったのも理由の一つだ。だけど、たしかにちーちゃんも大きくなってきているし、僕と同じくらいの品目のお弁当を持たせても完食できるようになっているに違いない。
「たしかにお弁当の品目を増やすことができると、生活が豊かになるってことだよなぁ」
「赤井さんはお弁当の具材はなにが好きなんですか?」
桃江が聞いて来る。お弁当の具材なんて、僕が好きなものという視点で選んだことなんてなかった。でも、ちーちゃんが好きな具材とかっていうのを考えたら、とりあえずはハンバーグだけど、それ以外も沢山あるに違いない。冷めてもおいしいレシピを研究しなければならないな。
「ちーちゃんはハンバーグが好きなんだ」
「赤井さんの好きなのを聞いたんですぅ」
「しいて言えば僕はローストビーフかな」
「えっ?」
桃江がなぜか固まったのを放っておいて、僕はちーちゃんが好きなハンバーグがお弁当に入った場合にどうやったら最もおいしくなるかを考え始めた。煮込みハンバーグも悪くないけど、冷めても美味しいハンバーグを考えるのも父親としての腕の見せ所だろう。
「赤井! 出動だ!」
「青田先輩、ローストビーフって、普通の人が作れるんですか?」
「すまん桃江、俺は普通の人ではないから分からん」
そんな時に限って現れるのが怪人だ。黒木の叫び声を聞きながら出動用のロッカーに駆け込む。
「たしかに、今日の晩御飯は煮込みハンバーグもありだなあ」
僕はそんなことも考えながらTAISレッドとして、着替えを行っていく。ちーちゃんはお弁当に前の日の夕食の残りが入ってても文句を言わなかったけど、できるだけ同じにはならないように気を付けていた。僕と美和だけのお弁当だったら、そんな事は気にしなくてもいいかもしれないな。
***
「プギャァァァァァアアアアア」
「今日はやっぱり豚肉料理がいいと思うんだ」
「赤井さん! そんなことを行ってないで、討伐をお願いします!」
「討伐の場面を見てしまったら食欲が失せるかもしれないじゃないか」
「それはいつものことでしょう」
「じゃあ、今日は青田が頑張ってくれよ。僕は今日の夕飯のメニューは豚の生姜焼きがいいと思うんだけど」
「豚の怪人を前にして、そんな事言わないでくださいよ!」
「だから、今日は青田が頑張ってくれると嬉しいんだけど。豚の生姜焼きなら冷めてもおいしいから、明日のお弁当のメニューにもピッタリじゃないかな」
「プギャァァァァァアアアアア」
『怪人警報です。怪人警報が出ました。市民の皆さんは屋内に待機してできるだけ外を出歩かないようにしてください。すでに現場にはTactical Action In System所属アクショ忍の出動が確認されています。現場の加藤さん?』
『はい、現場からは加藤がお送りします。今回の怪人はブタを元としているようです。すでに周辺の建物の一部が倒壊していますが、アクショ忍が到着してからというもの膠着状態が続いているようで被害の拡大はありません』
『定時レッドは来ていますか?』
『はい、定時レッドの姿は確認されていますが、まだ動きはないようです』
『珍しいですね。定時レッドは現着と同時に攻撃を開始することが多いですが……』
「さあ、見ててあげるから!」
「赤井さん、さっき討伐の場面を見たら食欲なくなるからって…………」
「心の目でね」
「職務放棄だぁぁぁぁああああ!!」
『なにやら、アクショ忍の中で意見の違いがあるようです。定時レッドとTAISブルーがなにやら作戦を話し合っているみたいですね。他のメンバーは怪人が回りに被害を出さないように警戒しているみたいです』
『何か、あの怪人には何かあるのかもしれませんね』
『ええ、あそこまで慎重な定時レッドは見たことがありません…………。あっ、動きがありました! 定時レッドが突っ込みます!』
青田が切れそうだったから僕は仕方なく怪人を討伐することにした。食欲がなくならないように、首を腕でかかえこんで……。
『おっと、これは定時レッドには珍しい関節技のようです! 怪人は討伐されました! 警察が討伐証明を確認し次第、警報は解除されます。市民の皆さんはそれまで念のため屋内で待機してください』
***
「赤井さん、結局、お弁当は何を作ってきたんですか?」
「うん、豚の生姜焼きは美味しかったから昨日の夜に全部食べちゃったんだ」
主に嫁が。仕方ないので僕はお弁当に卵焼きとウインナーと茹でた野菜を詰め込んできた。さすがに残念な感じになるかもしれないから、御飯はチャーハンにしてみたんだけど。
「チャーハンなんですね! 美味しそうですぅ」
「本当は昨日の豚の生姜焼きの残りを入れたかったんだよ」
「残り物じゃないほうがいいじゃないですか」
そんなものなのかなぁと、僕はチャーハンを食べながら思った。ちなみにタコさんウインナーは桃江にあげた。喜んでもらえた。
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