IF

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お前は、どうしたい

「...はっ...!......ここは...?」


痩せた30代ほどの男が、上も下も白い光に包まれた空間でうつ伏せの状態から(もっとも、地面が無いので本当にうつ伏せかどうかは誰にも分からない)驚きと共に起き上がった。



「俺...確か睡眠薬飲んで...」


自殺、したはずだった。


そう、この男は自殺者。その自殺者に向けて白い光の中から声をかける者がいた。


「お前は、これから、どうしたい」


その声の主は光の中から徐々に姿を表した。見た目は20代のようにも、60代にも見える、しかも全身は見えないという不思議なものだった。


「だ、誰だ...!」


怯えきった男はかろうじて声を出したが座り込んでしまっている。


「私が誰かなどどうでもいい お前はどうしたいのか、と聞いているのだ」

「どう...というのは...」

「簡潔に言うとこのまま幽霊になるか、はたまた生き返るかだ」

「幽霊...というと...?」

「文字通りの幽霊だ …言っておくがお前を特別扱いする訳じゃないぞ 死者は皆幽霊になる」

「生き返った場合は苦しい状況はどうなるのでしょうか」

「そのままだな まあ目覚めたら病院にいるだろうが」

「...どうか、救っていただけないでしょうか...!そうしていただければ生き返り、まっとうな人生を生きてみせます!」

「まっとうな人生、か」

「はい!心を入れ換えますので...!」

「まっとう、とはなんだ?」

「......それは...自分の力で生活することではないのですか?」

「世間一般的には、な ただそれはあくまで幻想に過ぎん 本当に自分の力で生活出来ている奴なんて、いないだろうよ」

「...では、いったいどんな人生を歩めばよろしいのですか?」

「そんなこと、分かるわけがなかろう」

「...はい?」

「そもそも私は神でも仏でも閻魔でもない ただ自殺者一人一人と会って確認を取るだけだ」

「.........」

「...お前は今、自殺したことに罪悪感を覚えているな?」

「は、はい...やはりこんな人間でも悲しむ人間がいるかもしれませんし...」


「あくまでも私の個人的な考えだが、自殺は100%悪だとは思っていない」


「...えっ...」


「もちろん、社会的には反対される意見だろう

しかし、少なくとも私が見てきた中でふざけて自殺してきた奴はいなかった

悩みに大小こそあれ、悩みに悩んでここに来た

だから私はここで自殺者が、そしてお前がどういう答えをしようが怒るつもりも誉めるつもりもけなすつもりもない」


そう言うと、「お前は、どうしたい」と、もう一度問いかけた。


「俺は......幽霊になります」


「そうか、分かった」


男の決断に、声の主は特段の感情を持たず答えると、男は声の主の前から消えた。


さあ、声の主よ、次の方だ。

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