閑話 地球初宇宙戦艦建造計画。

「でかいな……」


 目の前の怪物のような鉄の塊に佐藤は思わず呟いた。


「そうでしょう?これが地球初の宇宙戦艦になるんですよ!」


 佐藤のつぶやきに技術士エンジニアの河野はとてもうれしそうに答える。河野は『地球初宇宙戦艦ZERO』の責任者でもう6年この計画に携わっており、なかなかの変人だが国内でトップクラスの技術士で過去に様々な軍艦建造計画を経験している。


「まだ世界初になるかわからんのだろう?北米、中華連合それにEUだって必死で建造してるらしいじゃないか」


「いやいや、あの国たちは地球で建造しとります。そんなじゃ重力が邪魔してまともに建造できやしません。あと、世界ってのはもう広いんですよ?我々は今、地球初を狙ってるんです」


「ああ、そうだったな。初だな……」


 佐藤は少しめんどくさいなと思いながら言い直す。

 もう地球人の世界は宇宙に広がり世界は宇宙を表すようになって十数年、佐藤はこの言い方にまだ慣れていない。


 つい最近まで地球内で戦争やらしてたくせに共通の敵が出来たらもうこれか。


 佐藤はそう心で嘆いた。


「それより……、よくこんなにでかいのを造ったもんだ」


 心の脱線を修正しつつ、改めて佐藤はその宇宙戦艦を見る。

 目の前には大きく、大量の鉄、合金を消費する怪物が今も周りで火花を散らしながら成長している。


「佐藤司令、こいつの名前は決まったのですかい?ZEROなんて嫌ですぜ!!大和魂くすぐられるられるくらいの名前じゃないとこっちもやっていけません!」


 河野は佐藤の眼前にニュっと出て顔を近づけ、つばが飛び散るほどに叫ぶ。低重力では尚更だ。

 この建造計画は超機密計画で建造責任者である河野にすら一部しか伝えられておらず、名前に関してはぎりぎりに公開することになっている。

 国家の威信をかけた超大計画で世界中が地球初を競い合っており、たとえ名前であっても情報が漏れることなんて許されないのである。


「すまんな、まだ教えられん……」


 佐藤の一言に河野は目の輝きを失う。


「自分はこのふねをわが子のように思ってます。それなのにわが子の名前すら教えてくれんなんておかしいでしょう?」


「では河野、貴様は自分の我がままでわが子の情報が洩れても構わないと?それこそ子を思っていない最悪な親になり果てるぞ!!そんなんもわからんのか!」


 佐藤は河野に声を荒げ、続けざまに一言呟く。


「期待している」


 そういって佐藤はその場を去った。


              ★   ★   ★


 後に、この戦艦は『薩摩』と名付けられ地球初の宇宙戦艦としてデビューするわけだが、その裏には大きな苦労と建造スピードを大きく変える技術者の発想があった。


 まず、この時の地球は違う恒星系生命体からの侵略戦争をそれこそ神風ともいえるような奇跡で勝ち抜き、新たな技術を手に入れたばかりであった。

 神風といったが、それはほかの生命体からの援助である。偶然太陽系に近づいたその生命体は最初地球人を助けようとは思わなかったらしい、ただ地球人の必死の抵抗を見る中で自らが持たない感情を感じ、それを調べるために地球人を助けてくれたらしい。

 その感情が愛国心。この場合は愛国というよりかは愛星と言った方が良いのかもしれないが、それが地球を救ったのである。


 地球が奇跡的に侵略戦争から救われた後、その生命体が行ったのは地球との同盟関係樹立、技術支援そして軍事提供である。その中に宇宙戦艦もあり合計4隻、それを地球人はそれぞれ力を持った勢力に分配し、活用した。

 その後はエンジン技術、ワープ技術そして兵器技術を勢力それぞれ研究し様々な技術を詰め込んだ駆逐艦、巡洋艦がどんどん製造されていった。しかし、戦艦だけは技術的問題が山済みで地球純製戦艦が一切できない時期が続いた。


 ここで悲願である地球純製戦艦建造に真っ先に名乗りを上げた勢力が出てくる。

 それが中華連合、様々な国が戦艦建造に苦しむ中わずか10年で造り上げると声明を出す。

 それを起爆剤として戦艦建造の声明発表の嵐が起こり、一気に地球上で戦艦建造ラッシュが始まった。


 ただ、それに乗り遅れた勢力もあった。それが日本とイギリスである。

 この二国に共通するのが、軍事提供品である宇宙戦艦を持っていたことにある。確かに提供されたのは若干古びた戦艦であったが、現時点で運用に問題はなく莫大な資金を費やしてまで戦艦を建造するのに疑問の声が両勢力の軍部で出ており、地球純製戦艦建造は見送られ続けていた。


 しかし日本はここで大変革が起きる。宇宙軍司令官が佐藤純一中将に代わり、宇宙軍連合艦隊が計画され、そしてその流れで二二艦隊が計画された。この計画は実質宇宙戦艦建造を命じるものであり、それを日本宇宙軍は遠回しに二二艦隊計画として発動した。


『連合艦隊・二二艦隊計画』

 大型宇宙戦艦2隻と巡洋戦艦2隻を中核戦力とする大規模宇宙連合艦隊を日本宇宙軍に設置し今後脅威と成り得る敵戦力から地球を防衛する。


 計画が進行して、まず真っ先に問題となったのは建造が他の勢力に比べて大きく遅れたことによる技術不足、そして物資不足である。

 日本は第三次世界大戦以降、資源不足解消のため月面で資源採掘を行っていた為ある程度ならこと足りる状況だったが如何せん資源の取りつくされた出涸らし、中華連合や北米連合など大量の小惑星帯や惑星を資源として消費している勢力に比べ圧倒的に資源が枯渇していた。


 ここで日本が目を付けたのがワープ技術の転用である。日本は周りの勢力が大容量・長距離ワープ研究に苦戦する中、独自で少量・短距離ワープ技術を研究しており、ほぼ実用化までこぎつけていた。それを外惑星、つまり木星・土星からバケツリレーのように荷物を運ぶことに利用することで距離を広げつつ、日本が大量に建造していた巡洋護衛艦を貨物船に改造することで小惑星帯を超え、距離の関係であまり手の付けられてなかった領域まで資源が採掘することが出来るようになった。


 ただ資源面が解決しても戦艦建造というこれまでのサイズとは比べ物にならないふねを建造、完成させるノウハウは日本に無かった。

 まずは大きさ、これは何とかる。しかし、大量の合金で防禦層を何重にも重ねたり、超大型のエンジンを載せるとやはり重くなる。組み立てる分では何とかなるかもしれないが、いざ出来上がった時にどうやって宇宙まで打ち上げればいいのか。日本の技術者は頭を悩ませた。

 実際この問題は既にある程度建造を始めていた勢力でも指摘されだし、地球全体で対応を試行錯誤していた。


 ここで初めに対応策を考えたのは、北米連合。


「持ち上げれないなら、バラバラにして宇宙に持っていこう」


 ただこれには問題があった。もちろんバラバラにして持っていき、その場で組み立てるのは宇宙開発の基本だが、組み立てを無重力でするには艦体が巨大であまりにも無謀すぎた。確かに無重力だと重さが無いぶん楽に作業できそうだが、案外そうでもない。速度スピードを重視して船外で作業するなら動きにくい宇宙服を着とかないといけないし、いざそれ用のドックを作るとなると時間がかかる、それに空気を充満させる機構を作るなんてもっと時間がいるし、酸素も持ってこないといけない。こんなことをしていてはあり得ない程の時間をロスしてしまい本末転倒。この計画は却下された。


 ただこれをヒントにして日本が月面での作業を実行する。月面なら重力が少なく作業もしやすく、資源も持ってきやすいのである。

 もともと日本は月面に超大規模の基地を建造しており、様々な国が捨てた土地を大事に(もったいない精神らしい)修理し自分のコロニーとして活用していた。

 ドックは元あった小型のものを大きく改造し、上にレゴリス(月面の土)で作ったコンクリートを乗っけ、レゴリスで作ったガラスをあてはめ、そこにレゴリスで作った酸素を活用して空気を充満させた。

 最初は空気漏れなどトラブルがあったが三か月程度で完璧に仕上げ、なんとか戦艦建造に漕ぎつけた。


 様々なトラブルがあったが様々な発想でそれを解決し、地球初の戦艦『薩摩』を造りぬいた日本は、様々な勢力が統合され地球宇宙軍となった後も一定のポジションを守り抜き、今では内太陽系を守る四大艦隊主力、第三艦隊として活動している。


              ★   ★   ★

 どうも斑雪です。今回は閑話ということで少し作調を変えてみました。

 少し違和感があるような気がしますね。


 説明系なので地の文が多くなりました、久々に三千字に到達した気がします(笑)


 次からは新章になると思います。多分……

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