第39話 太陽系内地戦。その16

 燃料にある程度の余裕を持って『EP-203』に戻ってきた俺は心底イライラしていた。

 まだ『Empty』という表記に触れていない燃料メーターを見ながら操縦桿そうじゅうかんを操作し前方格納庫フロントバンカー機体タイガーを着艦させる。


 エンジンを切って、格納庫バンカー内の空気が充填じゅうてんされた事を確認して操縦席コックピットのキャノピーを開け、シートベルトを外して、外に出た。


「ミノル、すぐCICに戻るぞ!」


 ラノンがそう言って格納庫バンカーの扉を開けて飛び出して行く。


 さっきまで戦闘に出ていたという興奮、ラノンと無事に帰って来れた安堵、敵にやり返されたまま帰ってきた悔しさ。

 はっきり言って、俺は無茶苦茶な心情だった。


 行きは長く感じたCICまでの通路が一瞬で終わり、俺たちはCIC前に着き、ラノンを先頭に中に入る。


「馬鹿野郎!」


 入って真っ先に飛んで来たのはダミオスさんの怒号。

 スーッとラノンはその場から逃げ、まるで俺だけが怒られているかのような状況に立たされる。

 確かに俺が悪かったが⋯⋯、味方にはなってくれないラノンに少し唖然としながらダミオスさんが近付いてくるのを俺は何も出来ず浮いていた。


「よく戻ってきた⋯⋯」


 ダミオスさんは俺の肩に手を置いて、そう一言だけ呟いた。


「えっ、あ、はい⋯⋯」


 ぶん殴られるかと思っていた俺は面食らってその場に浮き尽くし、既に座っているラノンの方をチラッと見る。


「早く持ち場に戻らんか!」


 再びダミオスさんからの怒号にさらされ、俺は直ぐに持ち場に戻った。


 ただ、持ち場に戻って俺たちが立たされている絶望的な現状に引き戻された。


 艦隊のほとんどが中破ちゅうは、むしろ被害が一切ない『EP-203』はおかしいくらいだった。

 特に敵戦艦と撃ち合っている前線は酷く、旗艦きかんである『シュヴァルべ』すらも小破小破。味方 艦載機かんさいきは殆どが撃破されていた。


 これを見てダミオスさんが早く戻って来るように指示したのも納得出来る。

 むしろあのまま行っていたらどうなっていたか⋯⋯


「現状、絶望的なのは変わらん。ただ、敵がワープ補助艦をもちいて、系内地にワープしてきている事が分かった。しかも、旗艦艦長、ハーマン・エーベルト宇宙軍中佐によると敵のワープ補助艦はあと3せきいる可能性が高いとの事だ」


「さ、3隻!?」


 思わず声が出た。

 どれだけコストがかかる戦闘をして来てるのか⋯⋯、敵は一体何処の艦隊なのか⋯⋯、戦争してはいけない敵なのでは無いだろうか。

 そんな事が脳内でグルグルとまわる。


「空間エントロピー上昇します!また来ました!」


「何隻だ!?」


「えっ!?わ、分かりません!エントロピー上昇度がさっきと全く違います!」


 レーダー担当の隊員が混乱しながら機器をいじくる。


「いや、これは⋯⋯、味方です!味方の艦隊ワープです!!」


「来たか!」


 ダミオスさんの声が、少し和らいだ瞬間、CIC内に通信の音が響く。


『遅くなり、申し訳ありません!』


 ★ ★ ★


 どうも斑雪です!


 とてつもなく遅くなって申し訳ありません!


 頑張ります!!

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