第11話 記憶。その6

「あれが敵さんか·····久々やなぁ。」と言ってニヤリと笑ったその顔は『怪物モンスター』そのものだった。


 さっきまで温厚だった老いぼれは怪物の仮面を被り目線を上げた。


「さあ、始めよか。」


 殆どが戦闘なんて経験した事の無い乗員ばかりだったが何故か緊張は無かった。

 デカい敵。だが、それ以上に後ろに居る老人の方が大きい様に感じた。

 数多あまたの戦争を闘ってきた英雄に全員の気持ちがたかぶった。


「敵さんに近づく。最大戦そーく、舵そのまま。」


 こだまの様に艦内へその伝令は響き、どんどんと乗員は怪物の魔法の様な惹き込まれるオーラを身にまといながら艦は加速した。


 ★ ★ ★


「敵?」


 フェルトはジャスミンの言葉に違和感の様なものを感じた。

 確かにワープの反応はしている、でもワープの行先はまだ分からない。

 これは警告を聞き退却しているのでは無いかとまで思った。


「ジャスミン一等軍曹、ワープ位置は確定していません!!エネミーとするのはまだ早いのでは?」


 確かにいきなり交信もせずワープはおかしいとフェルトも思う。しかし相手は太陽系外生命体であり、我々の常識が通用しない奴らなのである。言語だって違うし喋れないかも知れない、そんな奴らにいきなり攻撃すればそれこそ戦争になりかねない。


「なに?この行為がエネミーではないと?」


 ジャスミンはフェルトを睨みつけた。


 確かにジャスミンの言ってる事はフェルトにも理解出来るし、こんなのほぼ敵対行為であろう、だがしかし・・・。


 フェルトは黙り込んだ。

 諦めた訳では·····無い、止めさせねばならぬ。ジャスミンはフェルトにとっては上官だったが、優しかった。とても良くしてくれたし、階級でものを言わせる事は一切しなかった。

 同じ叩き上げの仲間とも言ってくれた、尊敬出来る上官だった。

 その人が間違っているかもしれない事をやろうとしている·····。


 フェルトは覚悟を決めた。


「許可出来ません!!」


 大声でフェルトは叫んだ、恐怖への震えはもう止まり、違う理由で身体が震える。


「じゃ、ジャスミン一等軍曹。これは·····か、過剰防衛です。ワープ位置が確定してからでは無いと、攻撃はしては·····いけません。」


 ジャスミンは震えるフェルトをキツく睨みつけた。


「許可出来ないだと?フェルト貴様·····。」


「·····は、はい。」


「何を言ってるんだ!!貴様にはこれが見えんのか!!貴様にはこれの重大性が分からんのか!!」


 ジャスミンはヘッドホンを外し席を立った。


「た、確かに空間エントロピーは上昇しています。ワープ反応では間違いありませんが·····何処かはまだ分かりません!!もしかしたら退却のワープかもしれないのですよ!!」


「そしたらこっちに向かって加速なんかするわけー


 2人はディスプレイを見ていなかった。光点が消えたディスプレイを。


 デカかった、とてつもない衝撃と音だった。巨人に振られた様な感覚。電気も消え、2人ともひっくり返った。


 外が見えた。


 漆黒の暗闇。


 星々がその中に浮いている。


 フェルトはもう居ない。


 ポッカリ空いた穴へジャスミンも吸い込まれ、爆発する様々な人工物を目にした。


 そしてそれがジャスミンの最後に目にした光景だった。


★ ★ ★


 どうも斑雪です。

 モチベーションがヤバいくらいに上がってます。


 頑張ろ。

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