第9話 記憶。その4

「なーんも、おきねーなぁー。」


 イプシィーム・ジャスミン1等宇宙軍曹いっとううちゅうぐんそうは平凡な1日に退屈気味であり、いつもやっている仕事にも飽き飽きしていた。


「何か起きられちゃたまりませんよ。」


 パーナム・フェルト3等宇宙軍曹はジャスミンの一言に笑いながらディスプレイを眺め操作盤パネルいじっている。


 ジャスミン達は火星公転軌道上を回っている軍用第1宇宙ステーション(MMSS1)のレーダー担当である。

 太陽系は広大だが、電波速度は光速が限界であり、それの全てを監視、防衛している地球宇宙軍は干渉体かんしょうたいへ即時対応の為、レーダーサイトを点在させている。

 その1つであり、地球防衛ラインの最も内側でもあるMMSS1レーダーサイトは平和な日々が続いていた。

 大昔の大戦後、あの様な悲劇を繰り返すまいと尽力していた軍だが、そんな歴史昔の事だと、今の軍事力なら何とかなると、むしろ地球に攻めてくるはず無いとも思いダラけていたジャスミン含むレーダーサイトの隊員達だった。


 しかし、その淡い願望ともある考えはすぐに崩れる事になる。


「ん?」


 1番に気付いたのはフェルトだった、ぼーっとチャンネルを弄りながらディスプレイを眺めているとポツンと一点、EL画素のひと欠片かけらが壊れた様に白く光った。

 ゴミでもついたのかとフェルトは凝視するが、表示された一点はスーっと動いている。


「点·····?」


 フェルトはパネルをタップして拡大した。


「ん?どうしたフェルト?お茶でもこぼしたか?」


 呑気にジャスミンはフェルトの慌てた様子を笑う。


「いや·····なんか、ありませんか·····?」


 フェルトの指を指す方へジャスミンは目をやった。


「あぁ?破片デブリか?」


「それにしてはデカい様な·····」


 ジャスミンはフェルトの画面をフルサイズ、最大解像度にしてディスプレイに表示する。


「何だこれ?」


 一言それに尽きた。


 得体の知れない何か。宇宙ゴミでも破片でも無い、ただデカかった。


「戦艦·····?」


 フェルトの一言は、ほぼ答えみたいなものだった。


「戦艦だと?こんな内側までどうやって!」


 フェルトの言葉に焦りを抱きながら、ジャスミンは否定し無線のボタンを押した。


「こちらMMSS1レーダーサイト管制、MP-21へ。方位x110 y38 z49に干渉体アンノウンを観測、そちらでは観測されていないか?」


 ジャスミンはすぐ近くのパトロール艦に向けて無線交信をおこった。


「こちらMP-21、現在こちらのレーダーで干渉体アンノウンは確認されていない、本当にレーダーで観測されているのか?」


「こちらMMSS1、もう一度観測を徹底せよ、こちらの故障では無い。光学機器での観測を進言する。」


「了解、光学機器での観測を行う。」


 ジャスミンは少し焦りながら、興奮もしていた。何も起きない日々、それが変わったのだ。

 待ち望んだ非日常、いきなり内太陽系に現れた正体不明の何か。


「はっ、そそるね。」


 ジャスミンは気付けばそう呟いていた。


 ★ ★ ★


 どうも斑雪です。最近投稿ペースが落ちてきていますが、生きてます。


【MMSS1】

 第1火星公転軌道上軍用宇宙ステーションのことです。内太陽系の火星公転軌道に位置します。火星と反対側で太陽の周りを公転しています。


【EL】

 エレクトロ・ルミネセンスの略です。簡単に言えば高電圧を与える事で光るボードです。最近では有機ELと言う物がスマホやテレビのディスプレイに使われています。

 この世界でもディスプレイは基本ELD(エレクトロ・ルミネッセント・ディスプレイ)です。


【内太陽系】

 火星と木星の間にある小惑星帯(アステロイドベルト)より内側の太陽系の事です。

 大きな天体では太陽、水星、金星、地球、火星が所属しています。


 他にも分からない単語等ありましたらお知らせ下さい。

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