第2話 太陽。その2

「てかさ、ピカールってなに?」


 ラノンはせっかく話が終わって机磨きをしていた俺にまたおちょくりを再開した。


 不機嫌。からかいをやめろ。そんな雰囲気で俺は机を磨き続ける。


「おいー、聞こえてるかー!!」


 無視。


「おいってば」


 あ、机キレイになってきたな。


「ばーか、あーほ、まぬけー」


 知らん。


「ダミオスさん、こいつサボって」


「まてまてまてまて、なーに言ってんだ!」


 思わず反応してしまった。嘘だと分かってたのに。


「ふっ」


 ラノンのドヤ顔を見た後、そのまま机を向こうとした俺にラノンは慌てる。


「え、まってまって!だから」


「なんだよっ!!」


「ピカールってなに?」


「自分で調べろよ」


「えーーーー、めんどい」


 その一言を聞いて完全に集中が切れた。


「あー、くっそ」


 雑巾をその場に置いてラノンの方を向く。


「ピカールってのは、研磨剤の事だよ」


 それくらいしか説明出来ない。


「え?ならピカール不備ってなにさ」


 また、嫌なものを掘り返して来るのがお上手だなコイツ、そう俺は思う。


「ピカール不備。軍大学での造語だよ。軍なら使ってんのかもしれないけどな」


「へー軍大学ね、軍学校の頭いいバージョンみたいなやつ?」


 コイツは1つ疑問を持つとそれに関連した疑問は止まる気配がなく質問してくる奴だった。それを俺は忘れていた。


「え?俺それも説明すんの?」


「もちろん。説明しなかったらダミオスさんになんて言うかね・・・」


 コイツ、本物の鬼畜だ。


「で、軍大学って?」


 くそ、めんどくさい。机を横目に俺の思い出したくない過去がよみがえり始めた。


 『軍大学』

 正式名称は宇宙軍立 士官大学校、略して軍大学とか士官学校とか、その学校がある地名にちなんでアカティミなんて言う人もいた。

 軍学校は軍に入る人が必ず入学し、基本教練を学ぶ場所であるが、軍大学は簡単に言うと宇宙軍の幹部を養成する為の学校で、卒業したらそく、幹部候補生になり1年間の訓練の後はれて下級幹部になる。階級は少尉から、小隊長程度のポジションに付いて、だいたいの人がそのまま宇宙軍にぞくしポンポンと出世、ほとんどの人がすぐに上級幹部、軍艦等の重要職に付き、ある程度前線を経験した後、優秀な人材は参謀、艦隊司令そして成績と運が良ければ司令長官に成れる。

 つまり、この学校を卒業出来れば勝ち組って訳だ。

 その代わり、まずは壮絶な受験戦争が待ち受け、それにうち勝ち入学出来ても先輩や教官からの理不尽な指導、過酷な訓練、訳の分からんカリキュラムが1学年で待ち受ける。そのため、1学年で全体の3分の1が退学してしまう。

 特に酷いのが先輩からの指導であり、軍大学では最終学年(4学年)が学生隊と言われる部隊を率いるのだが、そこが辛い。

 学生隊とは軍大学の人間ならば必ず入隊し、基本教練を学び生活を共にする所で、地獄が始まる場所でもある。まず部屋が同じになった4学年が1学年をビシバシシバく、シバキまくるのである。

 その時に出てくるのが、「ピカール不備」

 生活指導と言う物で、『軍大学に属する者、身だしなみを整えるべし』と言う教訓をもとに、とうの昔に人が行わなくなったプレス(アイロンがけの事である)、靴磨き、そして学生バッチの磨き(これをピカールと言う)が強制的に指導される。

 週に2回の生活点検で4学年が部屋を見回り、一つ一つチェックして行くのである。


「プレス不備っ!!」


「ホコリ及び靴の輝き不備っ!!」


「ピカール不備ぃ!!」


 そう4学年が不備内容を指摘すると、大声でそっくりそのまま復唱しなければ成らないのである。

 時には・・・


「目の輝き不備ぃ!!!」


 なんて事も言われる。


 理不尽極まりない、それが軍大学である。


 それが軍大学である!!


「ふーん。おもろいな。」


 ラノンはそう言ってのけた。


「は?どこがだよ!!」


「んで、お前そこの卒業生なんだ。なんでここいるの?てかダミオスさんも」


 あー、触れてほしくない所に触れやがる。


「あ?挫折だな。俺は。キツすぎたんだよ。ダミオスさんは卒業して幹部になったけど、前線にいる時にあの戦争に巻き込まれて、怪我。それで今は予備役よびえきだよ。」


「ふーん。」


 また、あんまし興味なさそうな・・・


「で?お前はダミオスさんに頭が上がらないと。」


「ああ、そうだよ。しかもダミオスさんは俺が1年の時の部屋長、つまり4年だ。」


「はっ、マジかよ。ならお前ピカール不備って言われたのかよ。」


「もちろん、しかも彼女居るかって聞かれたから、いません!!って答えたら彼女不備!ってまで言われたよ・・・」


「まじで!?おもろいな!!」


 ラノンは楽しんでる。いや、俺の過酷な過去を聞いて嬉しがってやがる。


「ほれ、ピカール分かっただろ」


 もうやめだ!そんな感じでまた俺は机を磨きはじめた。


「おう、おもろかったぜ。お前の過去」


 やっぱしコイツ、ロクでもないな。

 俺はケラケラ笑っているラノンを見てそう思った。


 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 どうも斑雪です。


 自主企画、思った以上に参加して頂いて感謝感激です!!


 ゆっくりですが読んで行きたいと思います。


 あ、軍大学って防衛大学校のパクリとか言わないでね。


 まあ、パクリなんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る