プロローグ? その2

「長官──」


 パトロール部隊が6隻もの敵巡洋艦から攻撃された。という報告が『地球連合艦隊』第五艦隊から地球連合艦隊司令長官に伝わったのは、事が起きてから実に2時間半以上後の事であった。


「かなりの時間差ラグではないか⋯⋯」


 地球連合艦隊司令長官、ジョン・ワトソン 宇宙軍 中将ちゅうじょう椅子いすの背もたれに寄りかかる。


 情報伝達に時間差ラグがあるのは正直どうしようも無い事で(今回はかなりの時間差であったが)、むしろ地球連合艦隊は局部きょくぶ銀河系の全ての艦隊において情報伝達の時間差は少ない方に属している。


 情報伝達の時間差ラグは古典の戦争では禁忌きんきとされていた。しかし、今日こんにちの、艦隊戦は必ずと言っていいほど宇宙空間で行われる。つまり艦隊と司令基地、軍本部との距離レンジがとてつもなく長いのである。光速で1時間程度(約1,080,000,000km)の距離が当たり前の情報伝達網では電波の速度スピード=光速の為、時間差が生まれてしまう。

 これには通信艦(巡洋艦や高速駆逐艦も兼任けんにん)を間に配置してワープさせ時間差を出来るだけ短縮する、という対策が成されているのだが、今回は前線基地と司令部で情報が錯乱しており、一種の混乱状態で指揮系統が麻痺し、とてつもない時間差が生じてしまった。


「現場の指揮系統が敵の奇襲により混乱し、麻痺したようです」


 参謀長のジェイマス・グリフェン宇宙軍 少将しょうしょうは愛想の無い上司を横目に淡々と報告を続ける。


「麻痺?基地攻撃は無かったのであろう?」


 ワトソン中将は責任の無い参謀長をにらみつけた。


「パトロール部隊への強襲ですな」


 通信参謀であるトム・フランク宇宙軍大佐のしれっとした一言にグリフェン参謀長は余計な事をと横をジッ、っと睨みつける。


「今回の時間差ラグは通信部隊のトラブルや事故では無くパトロール部隊、前線基地、の混乱による麻痺がかなり大きく関わっている様ですな」


 フランク通信参謀はまるで自分達の問題では無いかのようにワトソン中将を見た。


「はぁ。混乱したのは基地もですが、通信部隊も不手際があったのでは?」


 参謀副長、パーツァ・アーニー大佐の言及にフランク通信参謀は嫌悪感をあらわにする。


「やれやれ、副長殿は第五艦隊出身でしたな。擁護ようごですかね⋯⋯参謀が身内贔屓みうちびいきなど良くないですな」


「ほう⋯⋯フランク大佐こそ、確か元通信部隊でした様な」


 お互いの参謀は眉間にシワを寄せて机にひじを置いた。


「確か、パトロール部隊の後ろに第五艦隊所属の第7哨戒しょうかい部隊がいた筈では?まず、そのパトロール部隊は哨戒部隊所属だった筈です」


 作戦参謀でかなりの若手であるファン・デホン中佐が睨み合う参謀に割って入る様に確認した。


「16分程度遅れてSOSを受信した後、ワープ準備を整えて20分後に現場へ急行しています」


 グリフェン参謀長は報告書に目をやりながら続ける。


「部隊ワープ移動完了後、直ぐにパトロール艦2隻を護衛、その後無事帰港したようです」


「ん?巡洋護衛艦はどうしたのです?」


 アーニー大佐は睨んでいた目線をグリフェン参謀長に向ける。


「哨戒部隊が向かった頃には、もう⋯⋯」


 グリフェン参謀長の報告に参謀全員が目線を下げた。



【報告】

 第五艦隊

 司令ホーン・デッド・マーチン宇宙軍中将


 地球時間0439発信。


 本日、地球時間0227にパトロール航行中であった第五艦隊所属、第7哨戒しょうかい部隊の巡洋護衛艦1隻とパトロール艦2隻が敵と思われる巡洋艦6隻に攻撃される。第7哨戒部隊が向かった時には既に巡洋護衛艦は大破しており、救出は絶望的。パトロール艦2隻は無事であり、その後帰港した。

 第7哨戒部隊の準備が整い次第、事情聴取を行う。


 以上



 通信担当、第五艦隊~連合艦隊司令部係、通信艦艦長パーツ・デモント大佐。


 地球時間0450発信。


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 どうも斑雪です。山笠の季節ですな。(福岡民です)


 今回は短いですが楽しんで頂ければ幸いです。ご指摘、ご質問あればなんでもどうぞ!

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