基地襲撃 #2

 私は腰のホルスターから拳銃を取り出すと気配を殺すように通路の様子を伺う。

 常識的に考えれば敵は逃げた後だろうし、警報用のベルが騒がしい中ではその行動に意味などない。だが、襲撃を受けたストレスであらゆる可能性を捨てられずに行動が慎重になってしまう。

 

 (緊急事態発生!緊急事態発生!警戒レベルを最大に引き上げる!敵の1名は捕虜を奪い逃走中!敵が基地内部に侵入している!)


 スピーカーから張り詰めた声が響くが通路に人の動きはなく、身近な場所からの増援は期待できそうにない。近場の味方は無力化されている?


「大尉!指揮所からこちらに増援を向かわせたと報告が!」

「分かった。敵の追跡はできているか?」

「ダメです!部隊の一部を敵捜索に割いていますが発見できず!」


 曹長は意識のない兵士の状態を確認しながら報告する。この部屋にいた兵士のうち、もう一人の方は意識を取り戻したのかうめき声をあげている。

 捕虜を連れて去った人物の行方は気になるが、今は増援部隊が来るまでこの場所を動くべきではないだろう。


「大丈夫か?」


 呻き声をあげていた兵士の前に屈んで尋ねると、その兵士はなぜここに海軍士官がいるのかという顔をする。だが、近くに曹長がいるのを確認すると「なんとか……」と、困惑しながらも答える。


「あなたは?」

「基地の視察に来た客人だよ」

「そう……でしたか」

「お互い災難だったな。まさか捕虜を奪いに来る奴がいるとはね」

「そうだ!捕虜!侵入者は黒のダイビングスーツでした!状況は!?」

「現在捜索中だ」


 それにしても妙だ。

 捕虜の救出が目的、しかも敵基地での捕虜救出なら敵は手段を選んではいられないはずだ。なぜ彼らも私もこうして無事なのだろう。

 私は目の前の兵士に何があったのか尋ねた。すると、相方が突然ふらついたのに気を取られた隙に投げ飛ばされたうえに奪われた銃で殴られて気を失っていたらしい。


「そちらはどうだ?」


 曹長にもう一人の兵士の様子を尋ねるがこちらは睡眠薬か麻酔を打たれたらしく、しばらく目を覚ましそうにない。もし私たちが来なかったら、敵は破壊工作などせず秘密裏に脱出していた可能性もあるのだろうか。


「曹長、外の被害は?」

「対空銃座が4基爆破されました。また、基地各所の武器庫も同様の被害を受けたそうです」

「敵との交戦状況は?」

「それが……」


 基地の各所で爆発があったものの、外では敵と遭遇・交戦状態に入ったという報告はないらしい。もちろん、これから敵との交戦が始まる可能性も充分にあるが爆発から数分経っても敵が押し寄せてくる気配はない。

 ならば、外の爆発は今回のためにあらかじめ準備されたものだったということか?それも1人で?ありえるのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る