基地襲撃 #3
答えの出ない疑問が棘となって残る。駆けつけた部隊に護衛されながら地上を目指すが気分の悪さは増すばかりだ。まだ油断はできない。
地上に出ると焦げ臭い匂いが鼻につく。目の前では兵士たちが炎を上げる倉庫へ懸命の消火活動をする様が目に入る。また空には目の前の火災以外にも煙の筋が伸びているのが見て取れる。
「ご無事でしたか。大尉」
その言葉に振り返ると、私同様兵士に護衛される中年の男性が目に入る。昨晩会ったこの基地の司令官だ。
「司令!?屋外は危険です。どうか、屋内へ」
この状況で指揮官が外に出るのは危険だ。だが、司令官は涼しい顔をしてこちらを見ているではないか。
「敵は捕虜を連れて脱出したよ。鮮やかなもんだ」
「指令、それはどういう……」
「ついさっき所属不明のヘリが海岸に着陸してね。ダイビングスーツ風の男と捕虜を乗せると飛び去ったのさ」
侵入者の目的は捕虜の奪回でこれ以上の戦闘はない。だからこれ以上の捜索・追撃は無意味と判断して消火活動に全力を挙げている。さすがに早計では?
「今回は敵にしてやられたと?」
「いや、そうでもないさ。この基地の役目はあと数日で終わる。後始末の手間が減ったと思えばどうということもないさ」
この基地の役目は終わる?どういうことだ?
「ああ、大尉。もちろん基地の警戒体制は維持しているよ。それに間もなくヘリで応援部隊が来るとのことだ」
指令官いわく近海で味方の強襲揚陸艦が訓練を行っていたので救援を求めたところ、すぐに部隊を派遣してくれたらしい。
「良いのですか?極秘の基地だったのでしょう?」
「さっき言った通りだよ。この基地の役目は終わる。それで君の訪問も受け入れたのさ」
さすがに一般人や報道関係者が知ったら大問題だが、もうこの基地には以前のような極秘性はなく、軍関係者がその存在を把握し立ち入ること自体は問題なくなった。そういうことらしい。
「それで部隊の撤収準備を進めている最中に
「ですが、この基地の存在が暴露されるのは不味いでしょう」
その問いに指令官は「心配ない」と断言した。少なくとも発言に国際的な影響力のある国がこの基地の存在を騒ぐことはないと。
「侵入者が共産主義勢力のスパイであってもですか?」
「ない。その情報を大元であるソビエトが握り潰してくれるだろう」
「指令、失礼ながらお伺いします。この基地は米ソ秘密交渉の場であったと?」
その質問に司令官は満足そうな笑みを浮かべて「そうだ」と言った。
「この基地は米ソが秘密裏にお互いの危険人物を交換する場所だったのさ」
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