地図にない基地 #3
「いつ捕らえた?」
「2日前です。外見からして東欧かソ連系かと」
ほんの数日前に敵対関係にある共産勢力圏の人間が米軍基地への侵入を図ったのなら、基地の人間がピリピリするのも無理はないか。
ましてや、ここは北米と南米の間に広がるカリブ海。東欧やかつてのロシアにあたるソビエト連邦の人間がいて良い場所ではない。
「確認したい。できればその時の状況も」
「分かりました。基地の地下収監施設にて尋問を行っておりますので、移動中に説明致します。」
曹長は素早く丁寧にドアを開けると直立姿勢で待機する。それに対し礼を言いつつ部屋から出ると、曹長はドアを丁寧に閉めてこちらの視線を確認して先導するために前を歩いていく。私はそれに続く。
廊下をしばらく歩き階段に差し掛かるところのラウンジで私は窓に目を向ける。
外にはこの基地を守る鋼鉄製の外壁と監視塔、その先のヘリパットや倉庫群、そして難民キャンプに偽装したいくつものテントが基地を守るように広がっている。
あまり良いことではないが極秘の基地である特性上、一時的に難民をこの島で受け入れていたという設定にするために用意されたテント群だ。侵入者の狙いはこの施設の実態調査だったに違いない。
「いえ、違います。相手の狙いは破壊工作です」
階段を下る際の私の質問を曹長はそう否定した。
「破壊工作?この基地の?」
では、侵入者はこの基地の情報をある程度把握した上で侵入したのか?
「敵の狙いは我が基地のレーダー施設、そのコントロールルームの爆破及び破壊であり、サイレンサー付きピストルとTNT系爆薬を複数所持していました」
TNTとはトリニトルトリエンのこと。1863年に発見され1900年代から主要な爆薬となった、ダイナマイトのニトログリセリンと並ぶ爆薬の原料だ。
もちろん、そんなものが爆発すれば精密機器へのダメージは甚大である。
「レーダー施設等の情報を引き出すために、この基地の兵士が拉致された可能性は?」
「いえ、敵がどのような手段を用いても言葉一つ発さないのでなんとも」
まぁ、喋らないだろう。ソ連のスパイがカリブ海の米軍基地で捕まったとなれば大問題だ。ニュースにならなくても外交上の緊張は避けられない。
核ミサイルが飛び交う第三次世界大戦一歩手前までいったキューバ危機の時ほどではないにせよ、このカリブ海の緊張状態は健在ということか。
確かにこの基地があるかないかで中南米からアメリカへの航空機やミサイル早期探知のレベルは格段に違う。
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