地図にない基地 #4
外へ通じるドアを曹長が開ける。開いたドアの向こうからは、私が外へ歩き出すよりも早く暑い空気が流れ込んでくる。その空気でむせそうになるのを口元に手を当てて抑える。
空は快晴で風は凪いでいる。この調子だと昼には日差しも気温もさらに不快なものになるだろう。
「なぁ、曹長」
私はここで少し話題を変えることにした。
「私がこの暑さを今この身で感じているのもあるが、君はこの環境でしっかり休息や睡眠は取れているかね?」
曹長は急に変わった話題に若干戸惑った表情をしたものの、「は、問題ありません」と即座に力強く答えてくれた。だが、力強く答える一方で私に向けられた視線はその質問の意図を気にしているようだ。
「私がここに来たのは基地兵士の健康状態を確認するよう依頼された面もあってね」
私はそう言いながら友好的に見えるよう、曹長に向けて両手のひらを見せる仕草をしながら話を続ける。
「この基地の情報が一部の人間を除いて外部に出てこないと問題になるのは、基地の兵士たちが健康に過ごしているかアメリカ本国には分からないことなんだよ。だから聞いておきたい。無理な勤務体制、食事や生活の点で苦労はあるかい?」
「い、いえ……」
突然のことで返答に困るよりも、何か心に引っかかるような変化を強面だった曹長の表情から感じる。
「この基地での勤務は過酷なのでは?君の表情からは何か疲れのようなものを感じるのだがね。なぁ、少し疲れてはいないかい?」
「はい。問題ありません……」
受け答えの切り方が鈍い。どう話を引き出すべきか。
「詳細は知らなくても、この基地の極秘性が重要なのは理解している。君も言葉を選んで話さなければならないのだろうが、警備シフト等があまりにタイトで兵士が不調をきたしているのであれば、今後さらに悪化しかねない。どうだろう?」
私が答えを静かに待っているのを一瞬見た曹長は、すぐに視線を落としたが「個人的な問題ですよ」と口を開いた。
「個人的?」
「最近、寝ても疲れが取れないことは多いですね」
「睡眠時間は?」
「早朝警備だと5時間になりますが、普段は7時間ほど」
「ふむ、睡眠環境はどうだい?」
「それこそ他所より良いはずです。どの兵士にもベッド付きの個室が用意されているのですから」
驚いた。基本軍隊は一定階級になるまで大部屋や1部屋に複数人が寝泊りするのは陸海空軍のどれも変わらないはずである。それを階級問わず個室を用意するまでの極秘基地だったとは。
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