Ep.119 突撃!台風少年エドガー襲来

 前回のあらすじ。


『ヤバイの来ちゃった!!!』


「こうして直接顔を見てお話をさせて頂けるなんて光栄の至りですライト殿下!私は幼き日、初の貴族会で自分を虐げていた兄達を貴方が一喝して下さった日よりずっと密かに殿下に憧れておりまして!!~~~っ!あまりに長すぎる為以下省略


「だぁぁぁぁっ、わかったから落ち着け!!」


 3歳児のようにキラっキラの曇りなき眼で自分の両手を握りしめながら好意を全面に語っている美少年にライトがたじろぐ中。壁全面の私達の写真をちらっと見たソレイユ先輩が俵かつぎでルーナ先輩を抱き上げた。


「あ、あー…………。君ら王族のファンだってんなら少なくとも俺らには用無いよね。じゃ、俺らはお先にー……」


「ちょっと待て!自分達だけ逃げる気か!?」


「そりゃ逃げるよ!見てみろこの壁から天井から何から余すこと無く君らの写真に埋め尽くされた部屋!!その子絶対ヤバイじゃんこわい怖い恐い関わりたくない!!!俺はともかくルーナまでそんなのに目付けられたらたまったもんじゃないし!じゃーねまた明日!!」


「ーっ!ソレイユ、私は別に……っ」


「待っ……!」


 ライトの制止も虚しく、ルーナ先輩を抱えたソレイユ先輩は転移魔法で逃げ出した。でも正直、彼の判断は正しい。


 美少年……改めてエドガー・シュヴァルツ。

 オレンジ色のハネッ毛にネコちゃんみたいなモスグリーンのパッチリお目めが特徴的な可愛い系男子と言う如何にもお姉様受けしそうな彼のキャラ設定はなんと、ヒロインおよび攻略対象ライトたち熱狂的ファンストーカーだからである。


 ちなみにこれ公式だからね!スピンオフとか二次創作じゃないですからね!何考えてるんですか制作会社は!!どこの世界に隠し撮りから始まる恋があるって言うんですか!


 と、まぁツッコミはさておきまして……と、ライトにベッタリのエドガーをフライとクォーツが引き剥がしている姿を眺める。


(意図しない形ではあったけど、これでメインの攻略対象が全員揃っちゃったなー……)


 いやまあね、同じ学院に通ってるんですから起きるべきして起きた出会いなのかも知れませんけど。どうにもこの世界の大きな流れに関わる人物が集まってきてる気がするのは私の杞憂でしょうか、聖霊王オーヴェロン様?

 そう心のなかで語りかけてみるが返事はない。ただの(聖霊女王の)指輪のようだ。


(……いっそ通信機的な物があればいいのに)


 そもそも考えてみたら、どうやったら聖霊の森に行けるのかすら知らないや。つまり今後何が起きようが、次いつ聖霊王夫妻に会えるかがわからないってこと?あ、何だか不安になってきた……。よし、壁の写真でも見て気を紛らわそう。


「ダーメだ、あの子力強すぎ!流石フェニックス出身だよ」 

 

「お疲れさま」


「写真見てたの?」


「うん。見てたら懐かしくなってきちゃって」  


 戦線離脱したクォーツも隣に並んで写真を見上げる。そうこうしてる内に、ようやっとエドガーから解放されたライトがフライを連れてこっちに駆け寄ってきた。


「やっっっと離れた……!そんで何故この異常事態にのんきに写真見とるかねお前等は!!」


「ごめんごめん。でもほら見てみて、初等科の始めの頃だから皆まだちっちゃいよ〜。可愛いねぇ」  


「ふふ、本当。改めて見てみるとこんなちまかったんだなぁ僕達。どこかにルビー写ってないかな」


「〜〜っ!和やかになってるとこ悪いけど!これ全部!!だから!!!」


「心外です殿下!全て皆様の尊い成長の記録ですよ!ほらご覧下さいこの幼き日のフローラ様の愛らしさを!」


「そんなもんわざわざ見なくたって可愛いに決まってんだよ!!!」


 しん、と一瞬で皆が静まり返った中、『ふぅん』と呟いたのは誰だったか。咳払いで気を取り直したライトが頭痛を堪えた様子でエドガーに右手を差し出す。


「とにかく!全くの部外者であるお前が俺達の私生活まで逐一記録しているこの状況は頂けない。学内での記録に留まっているようだからこれまでの行いは不問とするが、今後同じことを繰り返さないようカメラは没収だ。寄越せ」


「ーっ!?」


 そう言われた途端、首から下げてた一眼レフをさっと背中に隠すエドガー。ぴしっと、ライトのこめかみから音がした気がした。


「お、ま、え、なぁー……イヤイヤじゃねーんだよ!実家に連絡されて正式に沙汰を受けたいか!?嫌だろ?俺等だってしたくねぇんだよそんな真似!だからそれをさっさと寄越せ!」


「それが殿下のご温情であることは重々承知しておりますが!どうか没収だけはご勘弁を!このカメラは祖父から譲り受けた宝物なんです……!」


 エドガーの主張を聞いた瞬間、怒気の消えたライトがカメラを離した。


「……お人好し」


「いやぁ、形見は流石に取り上げられないだろ」


「あ、いえ。楽隠居しただけでまだピンピンしてます、お祖父様」


「何だよ!!!」


 生きてるんかーい!と、ライトはもちろんフライまでガックリ肩を落とした。マイペースで素直なんだな、この子。


 それよりどうしよう。流石に王族の盗撮はこのままお咎めなしとはいかないし……そうだ、いっそ逆に“撮っても良い役割”をエドガーに与えたら良いのでは? 


「ねぇ、そんなに写真が撮りたいならエドガー君に生徒会の記録係になって貰ったら?丁度人手不足だし」


 喧騒に負けないよう少し声を張った私の提案に、皆が驚いたようにこっちを見る。


「フローラ……正気か?お遊びの延長じゃないんだぞ。本人の意思が伴わない勧誘は、俺は気乗りしないな」


「……僕はどちらでも。実際彼の情報収集能力は上手く扱えば武器になりそうだし、使えないなら切り捨てるまでだ」


「えー、僕は反対はんたーい。僕、僕より可愛い男って好きじゃないんだよね」


「にこやかな笑顔でなんてこと言うんだお前は……」


 クォーツにそう突っ込んでからライトが視線をエドガーに流した。それを受けたエドガーが、先程までと違う真面目な面持ちで背筋を正す。


「……っ、もし本当にお許しいただけるのであれば、ぜひ入らせて頂きたい所存です!必ずやお役に立つ情報を集めることをお約束致します!」


「従順過ぎるな、そうまでする理由は?」


「殿下方の元で学び力をつければ自分の生家での立ち位置も少しはあがるやも知れません。少しでも早く力を付け、あの強欲な家族から妹を護りたいのです!!」


「よし、入れよう」


「クォーツ!?」


 ぎゅっとエドガーを抱きしめた親友の手のひら返しにライトが頭を抱えた。仕方ないよ、クォーツはシスコンさんだから……。


 でもこれで当人にはやる気があり、エドガーの入会に反対するメンバーも居なくなってしまった。

 数分考え込んでから、ライトが生徒会長としての判断を下す。


「わかった。エドガー・シュヴァルツを明日から一ヶ月間、生徒会の仮役員とする。目的は本人の研修と彼の素行の監視だ。異論はあるか?」


 ありませーん、と皆から声が上がり、呆れ顔から苦笑に変わったライトが萎縮しているエドガーの頭をぽんと叩いた。


「ま、と言うわけだ。ガッカリさせてくれるなよ」


「……ッ、はい!よろしくお願い致します!!手始めに例の留学生から調べますか!?」


 やる気満々のエドガーの言葉にライトが顔色を変え、他のメンバーは困惑して顔を見合わせた。


「えっと……、エドガー君、って?」


「あれ、聞いてませんか?来週から、この四大国があるフェアリーテイル大陸の国じゃない場所から、王女が留学してくるらしいですよ。何でも母国では“聖女”の立場を賜ってるとか。名前は確か……あぁ、キャロルだ。キャロル・リヴァーレ王女殿下です」


 最後の攻略対象の口から出た次回作のヒロインの名前に、私はその場で固まるしかなかった。



    〜Ep.119 突撃!台風少年エドガー襲来〜


  『もー次から次へと参戦されて、頭がパンクしそうです!』


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