Ep.120 悪役王女、別シリーズのヒロインと対面する
突然だが、この乙女ゲームシリーズは私が知っているだけでも全部で4作出ている。
謎多き聖霊の歴史を調べる学者様の孫娘で平民であるヒロインがイノセント学院に研究者見習いと言う特例で入学して始まる第一シリーズ。
今私達が居る、正しく聖霊の巫女の後継者とされるマリンちゃんをヒロインとし、悪役王女フローラを失脚させ彼女がミストラルの女王となる第二シリーズ。
時は遡り、初代聖霊の巫女様をヒロインにした第三シリーズ。これは恋愛より、ファンタジーをメインに据えたRPGだった。
そして舞台をここ、フェアリーテイル大陸から離れ、聖霊の巫女にあこがれている別の国の聖女をヒロインにした第四シリーズ。
キャロル・リヴァーレとは正しく、その第四シリーズ主人公の公式ネームだった。
「うーん…………」
エドガーがくれた彼女に関する資料と前世の情報の齟齬にもう何度目かわからないため息をこぼす。
ゲーム通りの時間軸に添うなら、第一ヒロインは私達の5つ年上。第三ヒロインはとうの昔に亡くなられております、逆に第四ヒロイン・キャロルは私達の4つ下。つまり、本来なら今はまだ10歳前後の筈なのだけれど。
「でも実際には、この世界のキャロルさんは私達と同い年ってことになっているのよね。この時間軸のズレはなんなのかしら……」
考え込みながらも生徒会室の扉を開くと、中から突風に煽られた書類が飛び出てきた。鞄から飛び出したブランが手早く回収してくれたそれを抱えて中を覗くと、ルーナ先輩に叱られているソレイユ先輩と、ライトとクォーツになだめられているフライが目に入る。
さっきの突風はフライがキレた副作用かな。
「エドガー君、大丈夫?」
そう声をかければ、風圧に負けたらしく壁に激突した体制でダレていたエドガーが苦笑気味に起き上がった。
「はは、びっくりしました……。流石はフライ殿下、魔力の桁が違いますわ。普通感情の高ぶりで魔力が漏れたってここまでにはなんないっすよ」
魔力は、術者の心に呼応する。だから、なんらかの要因で気持ちが昂ったり爆発した時、周囲に漏れ出た魔力が環境に影響を及ぼす場合があるのだ。
例えば、土使いが怒りを爆発させれば地震が起こり、風使いが苛立ちを零せば旋風が舞い、炎使いが歓喜すれば熱気が立ち昇り、水使いが悲しみに暮れれば雨が降り注ぐ。
とは言え、これはあくまでほんっっっとうに強い魔力を持った人の場合で、しかも我を忘れる位の状態にならなきゃここまでにはならないけどね。日常じゃ精々ちょっと震度2くらいの揺れが起きるとか、一瞬突風が吹くとか、あとは辺りが暑くなったり寒くなったりする位で。
「それにしても意外と皆さん普通に言い合ったりふざけあったりとかするんすね。雑務とかも自分でされてますし、内側から見てると新しい発見ばっかで面白いっす。妹にも手紙で色々伝えたら、最近読むの楽しいって返事も来ました。絵本とかで想像してた“王子様”とはちょっと印象変わっちまったみたいですけどね」
「あらあら、それはごめんなさい。三人とも頭は良いし魔力も強いし、顔は文句なしの美男子揃いでありとあらゆる面でとっても優秀なんだけど…………、それと同じ位の割合でお馬鹿さんなの」
「「ブフッ……!」」
「ねぇ、さっきから聞こえてるからね!?」
「本当だよ、何て酷い事言うのさ!」
「お前……、可愛いからって何言っても許されると思うなよ!?」
冗談めかした私の言葉に先輩二人は吹き出し、フライ、クォーツ、ライトがこっちを振り向きツッコミを入れる。そのテンポの良さに思わずエドガーやルビーにレインまで笑いだし、生徒会室に一年ぶりに笑い声が響く事になった。
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そして、出来る限り長く続いて欲しいと願う和やかな日々から数日後。私宛にジェラルド先生……ひいては魔法省から正式に、留学の呈で転入してくる異国の王女の友人として彼女に付き添ってほしいと正式な依頼状が届き、第ニシリーズの悪役王女で有る私と第四シリーズのヒロインが出会うことが確定してしまったのでした。
リヴァーレ王国は蝶々を国のシンボルに掲げた小さな島国で、かつてはフェアリーテイル大陸の一部であったと言われている。なので食文化や言語など、全体的に似通った部分は多い。
唯一の違いはと言えば、リヴァーレ王国の人々は魔法を使うことが出来ない事。ただ一人、国の女神が宿る森に認められた“聖女”以外は。
「そしてこの度、百年ぶりに新たな聖女として王女が選ばれた為に、彼女に魔術における見識を深めさせるべくこちらへ留学したいと魔法省に依頼があったわけだ。筋は通ってるっちゃ通ってるんだが、どうにも胡散臭えな……」
「そもそもよく国交も何も無かった未知の相手に王女ひとりポーンと任せられるよねぇ。僕だったらルビーがそんなことになったら死ぬ気で止めるけどな」
「同感だね。現リヴァーレ国王はあまり賢明ではないと見える。そもそも何故取るに足らないそんな王女の為にフローラが駆り出されなければならないのかな」
(私が)貰った資料を読み込みそう真剣な顔で話している3人に、私は苦笑しつつため息をこぼす。
そうだね、色々怪しいよね。だから心配してくれてるんだよね。わかるよ、わかってるよ。でもね?
「3人とも、腕を離してくれないと、ご挨拶に行けないんだけどなぁ……」
今からキャロルさんにご挨拶に行かなきゃ行けないって話した途端がっしり掴まれシワの寄ったブレザーに、苦笑するしかない私だった。
指定されたご挨拶場所は空中庭園。学院長立ち居の元、お茶会の呈ではじめましてである。
身なりと呼吸を整えて、魔法省の代表として同伴してきたソレイユ先輩のエスコートで、会場に足を踏み入れる。
夕陽が注ぐ花々の中央で、ピンクの髪に黄色い瞳の、天使めいた美少女が振り向いた。
〜Ep.120 悪役王女、別シリーズのヒロインと対面する〜
『まさか、クロスオーバーとかしてないよね?』
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