Ep.69 悪役皇女の決意
ライトに助けられたあと、すぐに騒ぎに気づいた皆も一体どうしたと集まって来てくれたので、皆できちんと火の後始末をして、それぞれ寮の部屋に帰ったのだ……けれど。はしゃぎすぎたせいでベッドに身を投げるなり寝入った私は久しぶりに昔の夢を見た。
唸るサイレン、飛び交う怒声に泣き声、赤いいかつい防護服を着て走り回る消防士さん。そして、燃え盛る小さな病院。
『おとーさん、いっちゃやだ!今日はいっしょに花火しようってやくそくしたのに!!』
立ち入り禁止のテープで遮られたその向こうに立つ消防士さんの一人に、小さな頃の“私”が叫ぶ。振り向いたその人の顔はもう、ぼんやりとしか思い出せなかった。でもわかる、これは私の…… 前世の”花音”の記憶だ。
『わかってる、帰ったら お母さんと三人で花火しような。大丈夫、お父さんは炎になんか負けないから。じゃあ
ポンポンと優しく頭を叩いてくれるその手が離れて、父の背中が病院に消えていく。駄目、行っちゃ駄目だよ、そこに入ってしまったあと、父が約束を破ったことを、いや、破らざるを得なくなったことを私は痛いほど覚えてる。だってお父さんは、このまま”還らぬ人になった”んだから。
『やだ……、いっちゃやだ!!おとうさん!』
『『逝かないでぇぇぇぇっ!!!』』
小さい身体で精一杯叫んだあの日の小さな私と、今の私のその叫びが重なって響いた先で、父達が乗り込んだ火事場の病院は大規模な爆発を起こしてたくさんの命を呑み込んだ。
「……っ!」
「フローラ!大丈夫!?」
パチっと目を開くと、私の頬から流れる涙をペロペロなめとりながらブランが心配そうに私を見ていた。大切なものを失った喪失感を埋めるように、ぎゅっとブランを抱き締めて布団に潜り込む。
「大丈夫?うなされてたけど……」
「うん、平気。さっきの火花で、ちょっと悲しいこと思い出しちゃったみたい。消防士だったお父さんが、死んじゃった日の事……」
丁度あの病院は私も通ってた小児科があって、偶然火事に出くわしたのだ。あの時、私は妙な胸騒ぎがして父を行かせまいと必死に引き留めたけど、所詮無力な子供では何もできなくて、結局お父さんは、そのまま……。ブランは何も聞かずに、私にすり寄ってくれる。その温もりに、気持ちが少し救われたけど。
それでも“大事な人を二度も守れなかった”、父も、ブランも救えなかった自分の無力さに腹が立って。同時にふと思い出す。
「あれ?そういえば、ゲームの中にも選択肢を間違えるとヒロインや攻略対象達が大火事に巻き込まれちゃう展開があったような……駄目だ、細かく思い出せない……」
さっきの夢のせいもあってまだまとまらない頭から必死に記憶を絞り出していたとき、コンコンと誰かが寝室の扉をノックした。あわててブランを離して顔を洗って出迎えた相手にいきなりぎゅっと飛び付かれてよろける。
「お邪魔しまーす、ですわ!」
「きゃあっ!な、何!?ルビー!?」
扉の向こうに居たのは、なにやら分厚い封筒を持ったルビーとレインだった。っていうかルビーったら発育いいな、まだ小学生なのにCくらいあるんじゃない!?と私にぎゅーっとしがみついてるルビーの胸が地味に私より柔らかい事にショックを受けつつも、、二人を中に招き入れる。
「二人ともいらっしゃい、でもこんな遅くにどうしたの?」
「いきなりごめんなさいお姉様。でもわたくし、一度中等科の寮も来てみたかったんですの!それに、早くお姉さまにこれをお見せしたくて!」
「急にごめんね、ルビーがどうしてもこれをフローラにすぐ見せるって聞かなくて」
「うちの従者がこっそり撮影してくれていたんですのよ!」
「ーっ!これ、さっきの写真?」
そう言った2人が差し出した封筒を受け取って、そっと中身を出す。それは、さっきの花火遊びの時の皆の写真だった。
重ねたら一冊の本位あるたくさんの写真に花火と一緒に写る私は、すごくいい笑顔で。その隣には同じように笑ってる皆の姿がある。それだけで、さっきの悲しく焼き付いた記憶が、皆との楽しい思い出に引っ張られてふわっと軽くなった気がした。
無力な“花音”の人生はもう、終わった。終わってしまったけど、今の
「素敵な写真ありがとう。二人とも、大好きだよ!」
「きゃっ!フローラお姉様ったら、それはわたくしの台詞ですわ!」
「あっ、二人ともそんな暴れたら……きゃーっ!」
笑顔で『今夜はこのま女子会にいたしましょう!』とベッドに新しいおすすめロマンス小説を並べるルビーと、『全員で写ってる一枚は写真立てに入れてきたのよ』ってベッドの脇にセンスよく飾ってくれるレインに、勢いよく飛び付いたので、三人でバランスを崩してベッドに倒れて誰からともなく笑いだす。二人と一緒に笑いながら、密かに誓った。
今度こそ守られるだけじゃない、私もいざと言う時、大好きな皆を護れる人になりたい。強くなろう、ゲームの“
~Ep.69 悪役皇女の決意~
『だからこの幸せが、皆と過ごせる日常がずっと続いてくれますように』
《おまけ》『信号機トリオは悪役皇女を心配する』
女子寮のフローラの部屋の前、薄暗い廊下に集まったライトとフライとクォーツは、中から響いてくる楽しそうな笑い声に安堵の息をついた。
「元気がなかったから心配だったが、大丈夫そうだな」
「そうだね。ここは女の子達に任せて僕らは退散しようか、女子会の邪魔しちゃ悪いし」
「お前なら髪ほどけば女子として混ざれるんじゃ……待て待て待て!冗談じゃん、謝るから室内でネズミ花火はよせ!」
「しーっ、騒ぐと気づかれるよ。あーぁ、楽しそうで何よりだけど、せっかくトランプとか色々持ってきたのに何もせずに退散かぁ」
「ゲームがやりたいなら俺の部屋でやるか?」
「えー、男三人で?それは華がないなぁ」
「文句言うなよ……って馬鹿、何してんだ!」
「いいじゃん、そーっと覗くから」
「良いわけないだろ、女の部屋だぞ!?……って、うわっ!」
「ーっ!?ちょっと、なにやってんのさ!」
「あいたたた……!二人とも重いよ、どいてー!」
「ライト!フライにクォーツも、皆してどうしたの!?って、何これ?」
扉を細く開いてフローラの部屋の中を見ようとしたクォーツを止めに入ったライトが足をもつれさせて、側にいたフライも巻き込んで、クォーツを下敷きにする形で三人まとまめて部屋に転がり込んだ。クォーツがぶちまけた大量のゲームを拾いながらフローラが首を傾げる。
「あ、あはは……。皆で遊ぼうかと思って持ってきたんだ。と、言うわけで今からトーナメント戦を開始します!」
「唐突だな!勝ったら何かあるのかよ?」
「何にもないよ、代わりに最下位には罰ゲームとかでいいんじゃない?」
「まぁ、楽しそうですわね!罰ゲームの内容はどういたしましょう?」
「はい!女装が良いと思います!!!」
「……君、それは誰を負かせるつもりで提案してるのかな……?大体それじゃ女の子達が負けた場合に罰ゲームならな…」
「そんなの女子は男装にすりゃいいだろ、怖じ気づいたのか?」
「ーっ!」
ルビーの問いに元気よく手を上げて女装を提案したフローラに笑顔で圧をかけていたフライがライトのその挑発に固まる。
チェスボードをバンッと机に叩きつけたフライが、魔王の微笑みを顔に浮かべる。
「誰が怖じ気づいたって……?いいだろう、返り討ちにしてあげるよ!!」
フライのその台詞が引き金となって、結局このあと皆で滅茶苦茶ゲームした。
ちなみにトーナメントは、死んでも女装したくないフライがぶっちぎりで優勝したと言う。
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