Ep.68 花火は夜空と思い出を彩る

 魔法のお花の世話やバイオリンのレッスン、勉強に魔法の修行に、先日カフェのおネェさん達から貰ったミルクスチーマーを使ったラテアートの練習まで加わって忙しなくも平和に日々は過ぎ、気づけばあっという間に夏休み!……ですが、例の聖霊の巫女の儀式に使う魔法のお花は一週間以上私が水をあげずにいると枯れてしまう為、そのお世話の都合で私は一人学院に残っている。


「うーっ、暇だよーブランーー!」


「仕方ないじゃないか、夏休み中で故郷に帰ってる皆から手紙が定期的に貰えるだけありがたいと思いなよ。それに、夏休み自体あと数日で終わりでしょ?」


 大分上達した魔法で今日の分の水やりも終えて空中庭園のソファーに寝転んだ私に、近くを散策しているブランが素っ気なく返す。

 私はうつ伏せのままバタバタと足を動かした。


「あと数日しかないから余計さみしいんじゃない!大体、ライトから昨日来た手紙なんて『今年はやり忘れのないようにな』ってコメントつきで夏休みの宿題の一覧表と私が苦手そうな問題の解き方のヒント入ってたんだよ!?あれもう手紙じゃなくてただの赤ペン先生だから!そう言う味気ない文通じゃなくて、私も皆と一緒に何か夏休みらしいことしたいよーっ!」


「僕に言われたって困るよ、そんなの……。暇なら何か面白い事を自分で探したら?夏休みはじめの頃は『学院まるごと貸し切りだーっ!』ってはしゃぎ回ってたじゃん」


「それはそうだけど……張り切りすぎて探検なんかもうとっくに終わっちゃったし」


 普通の校舎やイベントホールはもちろん、ゲームに出てきてたいくつかの隠し部屋の入り方まで把握してしまった今の私には、もうこの学院内で好奇心をそそられる場所はほとんどないのだ。


「じゃあ諦めるしかないねー。さ、帰ろうよ」


「はーい……、ーっ!これだ!」


「え、ちょっとどうしたの!?」


 いや、ひとつだけあった!と、いきなり階段の手摺にしがみついた私を見てブランが驚く。

 私達が今いる空中庭園からは、一回までひと続きになった長ーい螺旋階段があるのだ。なんで今まで気にしなかったんだろう!


「ねぇブラン。今気づいたけどこれって、アニメとか漫画で度々見て一度はやってみたいと思っていた『階段の手摺に腰かけて一気に滑り降りる』を人目を気にせず出来る大チャンスじゃない!?」


「いや、止めといた方が良いと思うよ……。どうしてもやってみたいならライト皇子が居るときにしたら?」


「え?なんで??」


「彼が居れば途中でバランス崩して落っこちてもちゃんと受け止めてくれるでしょ」


「あぁ、なるほど!……って、人が落ちること前提で話を結論づけないでよ!!奇跡的に落ちないかもしれないじゃない!!」


「“奇跡的に”ってつけてる辺り、自分でも自分の運動神経の悪さは自覚してるんでしょー?悪あがきしないの」


「うっ……!」


 痛いところを突かれて押し黙る。うぅ、おかしい、私の方がご主人様の筈なのに!!

 とぼとぼとゆっくり歩いてたから、寮に帰った時にはもう日が傾き始めていた。人気のないまま夕焼けに染まった寮の共有リビングは、なんだかとてももの寂しい。

 いつもは夕食後、皆でお茶をするのに使ってる長いソファーに一人で座って、目を閉じたまま呟いた。


「はぁ、もう夏らしい遊びは無くてもいいから、皆に会いたいなぁ……」


「そう?じゃあ行こうよ、皆待ってるよ!」


「え……?く、クォーツ!!なんで!?」


「えへへ、皆フローラがいないと何か物足りなくて、ちょっと早めに学院に戻ってきたんだ。と、言うわけで行こうか!準備は出来てるからね」


「わわっ!い、一体何やるの?」


「決まってるじゃないか、うちの国が誇る夏の風物詩、花火だよ!」


 私の腕を引いてクォーツが飛び出した寮の裏庭で、大量の手持ち花火を持った皆が得意気に笑った。


「き、きゃーっ!なんですのこの黒いニョロニョロ!全然綺麗じゃありませんわ、恐いですわーっ!」


「ルビー落ち着いて!それただの蛇花火よ!」


「アースランドってよくこう言う変わったもの思い付くよなぁ。お、このくるくるしたのは何だ?」


「わーっ!ライト待って、それネズミ花火だから下手に火つけちゃうと追いかけられるよ!」


「マジか!危ねぇ……ってこらフライ、クォーツ!二人して俺に向かってネズミ花火つけんな!!!ってうわっ、本当にこっち来るし!!」


「ほらほら、早く消さないと最後はそれ破裂するらしいよ」


「あはは、ライト頑張ってー!ネズミ花火はまだまだあるからね!」


「穏やかに微笑みながら追加すんなこの腹黒コンビ!!」


 2匹のネズミ花火から飛び退いて逃げるライトに、どっと皆から笑いが起きる。ライトは運動神経が人並み外れてるから避けれるけど、危ないからよい子の皆は真似しないでね!

 でも打ち上げ花火みたいな迫力はないけど、こう言う皆でわいわいしながら好きな花火を楽しめる手持ち花火も楽しくて良いよねと、色々振り回されながらも皆でたくさんの種類の花火を楽しんで。

 まだちょっと花火は余ってるけど、時間が遅くなり過ぎちゃったのでそろそろお開きの流れになった。と言うわけで余った花火は机にまとめて避けといて、〆はやっぱり線香花火!

 流石に線香花火に魔力で勢いよく火をつけちゃうとすぐ燃え尽きちゃうので、太めのローソクを用意して、何ヵ所かにわかれて最後はのんびりと線香花火を楽しむ。私たちのペアはまずはライトがそっと線香花火に火をつけた……けど、先端でぷっくり赤い玉になった花火はパチパチと火花を散らす状態になる前にポトッと落っこちて消えてしまった。


「あっ!駄目だ、落ちちまった……!」


「あははっ、ライトったら下手だなぁ」


「うっ……!笑うならお前もやってみろよ!」


「いいよー、お手本見せてあげる!」


 声をあげて笑った私にムキになったライトが差し出した線香花火を受け取って、風向きが止んでる方にしゃがみこむ。


「いい?まず花火は縦にまっすぐ、火薬に割りと近い位置で持つんだよ。ライトは上の方持ってたら、花火自体が揺れて消えちゃったって訳!こうやって風当たりもない場所で、花火が動かないように優しく火をつければ……、は、はっくしゅん!」


「あ……」


 得意気に講義しながら線香花火に火をつけたとき、急に鼻がむずむずしてくしゃみが飛び出した。その勢いで当然消えちゃった私の線香花火を見て、ライトが小さく吹き出す。


「ははっ……!なるほど?『こうやって風当たりもない場所で、花火が動かないように優しく火をつければ』線香花火は一瞬で消えるわけだ、いやぁ勉強になるわー」


「い、今のはくしゃみで消えちゃったの!って言うか、ライトわかってて言ってない!?」


「さぁ、なんの事やら?あれだけ自慢げに指南しようとしといて恥ずかしい奴だなんて思ってないから安心しろって」


「余裕綽々な笑顔ずるい!絶対わかってて言ってるでしょう、ライトの意地悪!いいもん、リベンジするからもう一本線香花火ちょうだい!」


「おっと!取れるもんなら取ってみな?」


 自分の頭上に線香花火の袋を掲げて揺らしながら、ライトが意地悪く笑う。さてはさっき私が笑った仕返しね?このドSめ!こうなったら意地でも奪ってやろうとジャンプしまくるけど、駄目だ、ライトの背が高すぎてとても届かない……!


「どうした?もう降参か?」


「こ、降参なんかしないも……きゃっ!」


 ライトの挑発で逆に諦めかけてた闘志がせっかく再熱したのに、タイミング悪くいきなり吹いた強風に勢いを削がれる。もーっ、なんなの急に!と風が来た方を振り向くと、丁度机の上に集めた、まだ未使用の花火たちがまとめて火がついたままのローソクに落ちていくところで、やけにスローモーションに見える動きで落下してローソクから引火した花火は、一斉に私には向かって火花を炸裂させた。弾けるように燃え盛る炎に重なって、脳裏に何か違う景色がちらつく。


「……っ!」


「フローラ!危ない!!!」


 でも、その瞬間すごい早さで抱き寄せられてぎゅうっとライトの腕のなかに閉じ込められた。


「ライト……っ」


「大丈夫だ、おとなしくしてろ」


 昔より低くなった声で囁くようにそう言われて、不思議な安心感に力が抜ける。ライト、2年しか経ってないのになんかたくましくなったな……。

 バチバチとした花火が弾ける音がようやく止んだ頃、私はライトの腕の中から抜け出して、彼の袖が火花にやかれて黒く焦げていたことにびっくりした。血の気が引いて真っ青になりながら、あわててライトの腕を取る。


「ご、ごめんなさい、私のせいで……!大丈夫!?すぐ冷やした方がいいよ!ごめん、本当にごめんね……!」


「……っ!何て顔してんだよ、大丈夫だってこれくらい」


「でも袖真っ黒焦げだよ!?火傷だって……!あれ?」


 あっけらんと笑うライトのシャツの焦げた袖を無理やり捲って、拍子抜けした。シャツの下にあるライトの肌は、ちょっと赤くなってただけで火傷なんて全くなかったのだ。あれ?あれ!?あれれーっ?と悩む私の頭をポンポン叩いて、ライトが笑う。


「だから大丈夫っつったろ?俺の身体は魔力の影響で炎には耐性あるから、これくらいどうってこと無いんだよ」


「そっか、良かった……!助けてくれてありがとう」


 さっきまでパニックだったのに急に安心したからかへにゃっと変な笑い方になっちゃった私を見て、まだ背中に回ったままだったライトの手が一瞬ピクッと跳ねた。

 どうかしたのかとその顔を見上げてると、ライトは何かを我慢するみたいに一度ぎゅっと拳を握りしめてから、穏やかに微笑んだ。


「あぁ、約束したからな」


「ーっ!」


 その笑顔が、月明かりのせいかずいぶん大人びて見えて、ほんの少しだけ寂しいような気がしたけど。


「またそうやってカッコつけて……。クォーツ、ネズミ花火まだある?」


「もちろんあるよ、よーし着火!」


「あっ!またお前ら懲りもせず……っネズミ花火は止めろって!!!」


 またフライとクォーツのいたずらでネズミ花火に追いかけられて騒いでる姿を見て、やっぱ気のせいだったかもしれないと思った。


   ~Ep.68 花火は夜空と思い出を彩る~


  

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